リアクション
「結構な弾幕だぜ!」 ***** 「ん、揺れ――あ、バカっ!?」 戦闘中に大きな揺れを感じた鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)はどうにかバランスをとろうとしたが、肩を掴まれ尻餅をついてしまった。 掴んだ張本人であるは瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は、どうにか転ばず立っていた。 「なにするんだこのバカが! 転んでしまったではないか!!」 「気にすんなや。どうせ誰もお前の子供パンツなど見とうないちゃうねん」 「殺す! 後で殺す! 絶対殺す!」 顔を真っ赤にして、目を血走らせる偲。裕輝はそんな彼女を余裕な表情で無視して、視線を≪迷測のマティ≫へと向ける。 「どっかの誰かが動力炉でも破壊したんやろな。おかげであんたは絶体絶命……」 動力炉を破壊された影響からか、≪迷測のマティ≫の動きは鈍り、室内の儀式装置の防衛機能は低下していた。 「ま、そんなことせぇへんでも楽勝やったけどな」 裕輝は≪迷測のマティ≫が乗った機械が振り下ろすチェンソーを避ける。すると、そのチェンソーが粉々になった。 「こういうことや。避けるついでに攻撃を加えていたっちゅうわけや」 裕輝がゆっくり≪迷測のマティ≫と近づき、振り下ろされたもう片方のチェンソーを回避すると、軽く脚を触れるだけでまたしても粉々になった。 目の前に止まると、裕輝はカプセルの中で眠ったように目を閉じている≪迷測のマティ≫を見上げる。 「……終わりや」 両手のチェンソーを失った≪迷測のマティ≫が裕輝を掴みにかかる。 裕輝はただ軽く体を動かした動作の中に常人が気づかぬ攻撃を織り交ぜて、伸びてきた手を弾く。 そして、≪迷測のマティ≫の膝から、胴を通って、肩へと登る。そして、カプセルの隣に立った。 「ゆっくり休めや」 ≪迷測のマティ≫の機械兵器から降りる、裕輝。すると通ってきた所から、機械兵器が次々とバラバラになっていった。 ≪迷測のマティ≫がやられたのを目にしたグレゴリー(メアリー・ノイジー(めありー・のいじー))が舌打ちする。 「もう潮時ですね……僕達も終わりにしましょう」 グレゴリーが膝をついたアンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)に剣を突きつける。 「さようなら!」 喉を突き刺すように放った一撃。 だが、その剣はグレゴリーの手から離れ、三号には届かなかった。 「っ――」 「大丈夫ですか、三号さん!?」 「結……和……?」 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が放った【マジックブラスト】が剣を弾いたのだ。 結和はグレゴリーから守るように三号の前に立つ。 「動力炉も儀式装置も破壊しました! もうこれ以上あなた達の好きにさせません!」 防衛装置の止まった室内の儀式装置は、エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)が既に破壊していた。 儀式装置二つは破壊され、動力炉は停止し、じきに要塞は地表に墜落する。 「……やれやれ」 グレゴリーはため息を吐くと、睨みつける結和から遠ざかるように壁際まで後退した。そして壁に隠されたスイッチを押した。 すると、壁が上にスライドし、奥の小部屋が現れた。 その小部屋の壁には、機晶石が埋め込まれた巨大な目と≪三頭を持つ邪竜≫の心臓が埋め込まれていた。 『随分と追い込まれたものだ……』 巨大な目が瞬きをしたかと思うと、要塞内のスピーカーから老人の声が聞えてきた。 その声が巨大な目が話しているのものだとわかったのは、グレゴリーが質問を投げかけたからである。 「これでもう終わりですか、『先生』?」 「先生? 僕が殺した……いや、違う。≪隷属のマカフ≫か!?」 生徒達は一斉に武器を構えなおす。 『ふふ、そうだ。……よくぞ、ここまで追い詰めた。 だが、早々と貴様たちに勝ちを譲る気はない!』 ≪隷属のマカフ≫の機晶石が輝きだす。 すると、≪三頭を持つ邪竜≫の心臓が周囲の金属を取り込みながら、身体を構成し始めた。 床が、壁が、支柱が、次々と取り込まれていく。 『儀式は中断させられたが、これだけのエネルギーがあれば十分だ。後は復活した身体で街を破壊つくし、その過程で完全に復活すればいい。 邪竜の……最強の肉体は私のものだ!!』 老人の高笑い声がスピーカーから響く。 「くっ、させるか!」 生徒達は止めにかかろうとするが、心臓の影響で再び動き出した防衛装置によって足止めされる。 「『先生』、おめでとうございます」 『うむ、グレゴリー。お前もよくやった』 グレゴリーが≪隷属のマカフ≫に近づく。 『その功績を称え、お前の願い通り正式な弟子にしてやろう』 「ありがとうございます……ですが『先生』、実は僕の願いは少々変わってしまったので、『先生』にはそちらを叶えていただきたいと思っているんですよ」 『ん、なんだ言ってみ――!?』 スピーカーから流れる≪隷属のマカフ≫の声が途中でノイズ音に変わる。 グレゴリーが≪隷属のマカフ≫の機晶石に剣を突き刺していた。 「さようなら、『先生』。これが僕の望んだ願いです……ふふ、あはは」 引きつったような高笑いをするグレゴリー。 その光景を呆然と見つめる生徒達。 すると、≪三頭を持つ邪竜≫の心臓が、身体の一部となった配線コードを伸ばしてグレゴリーを取り込もうとしてきた。 「なっ!? こいつ!?」 引きちぎって距離をとるグレゴリー。 ≪隷属のマカフ≫という制御をなくした≪三頭を持つ邪竜≫の心臓は、取り込むスピードを速めて周囲のあらゆるものを取り込み始めた。 それは要塞を崩壊へと導く。 「このままではまずいですね。仕方ありません。 ……勇敢な皆さん。お先に失礼しますね」 グレゴリーは取り込まれて吹き抜けになった壁から要塞の外へと飛び出した。 「ま、待て!」 「ダメです、三号さん! 私達も脱出しましょう!」 結和はグレゴリーを追いかけるために心臓の方へ向かおうとした三号を止める。 エメリヤンにも説得され、三号は苦い顔でその場を逃げ出した。 心臓が暴走したとの連絡を受けた要塞内の生徒は、次々と脱出を始める。 ≪三頭を持つ邪竜≫の心臓は、吸収と巨大化を繰り返しながら、金属部品で構成された三つの首を持ったドラゴンへと姿を変えていく。 |
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