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リアクション
「どう、ジヴァ? 開きそう?」
イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)は実験室へと続く扉を開こうとしているジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)に声をかけた。
「だめね! これじゃロックが解除できない!」
ジヴァがイライラした様子で、扉の電子ロックを解除するための操作パネルを叩くが――何の反応も返ってこない。
反応がないのは、操作パネルが壊れているからではない。この区画自体に電気が通っていないのである。
「これじゃあテクノパシーは意味がないわね。一応、サイコメトリをかけたけど電気を流す方法はわからないし……仕方ないわね」
ジヴァは大きく息を吐くと、個人携行型プラズマライフルを取り出して構えた。
「みんな、離れなさい! 手っ取り早く扉を破壊するわよ!!」
言うや否やジヴァは引き金をひき、撃ちだされたプラズマが扉に風穴を空けた。
ジヴァは人が通れるほどの穴が空くと、ようやく攻撃をやめた。
すると、イーリャが困惑した様子で近づいてくる。
「ちょっとジヴァ。少しはみんなの返事を待ってからでも……」
「先を急いでいるんでしょ。だったら、待つ必要はないわよ」
ジヴァは鼻を鳴らすと、誰よりも先に穴から実験室に入って行った。
「って、すごい埃……」
実験室の中は既に使用していないらしく大量の埃が積もっていた。
「何かしらこれ?」
イーリャが部屋の中央で埃避けのカバーをかけられた大型装置に近づく。
外見を見ただけでは判断できず、ゆっくり捲ってみる。
すると、カバーの下から酸素カプセルのような装置が現れる。
「何かの実験器具……かしら?」
「それは『疑似生命移植計画』に使われた装置らしいな」
イーリャが首を傾げていると、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が答える。
いつの間にかマスクと眼鏡をつけたダリルは、室内で見つけた資料に目を通しながら話す。
「この資料にはそこのカプセルが実験に使われたことくらいしか書いてないな。
とりあえず、みんなはこの部屋に役立つ物がないか探してくれ。俺は研究室の方に資料が残ってないかルカに尋ねてみる」
そう言ってダリルは籠手型HC弐式を取り出して、埃くさい部屋を抜け出した。
……
…………
…………暫くして、ダリルが戻ってくる。
「ダリルさん、カプセルの説明書らしきものが見つかりましたよ」
「そうか。ありがとう、イーリャ」
報告を聞いたダリルが薄らと笑みを浮かべる。
「……運命の女神が微笑んだな。
みんな朗報だ。この装置を使えばあゆむを治せるぞ!」
ダリルの発言に生徒達は顔を見合わせ、ざわめき、一斉に質問を投げかけてきた。
「ちょっ、ちょっと待て! 説明するから落ち着け!」
研究所に残された資料には≪隷属のマカフ≫が行った実験の結果が記録されていた。
それによると、記憶を移した機晶石は、なんらかの原因で通常の機晶姫と違って身体との適合率が低下してしまい、その結果副作用が発生してしまうことが記されていた。
そこで≪隷属のマカフ≫は、人為的に機晶石と機晶姫の身体の適合率をあげる装置――生徒達の目の前にあるカプセル装置を作り上げたのだった。
「詳しい仕組みはわからないが、動かし方くらいはその説明書に書かれているだろうさ」
ダリルがイーリャが手に持つカプセル装置の説明書を指さす。
「そのためにも、まずはこの場所に電力を通して装置を動かせるようにしないとな」
希望が見えた生徒達は、ダリルの指示でカプセル装置の起動準備を始める。
廊下に出たダリルは、壁をぶち壊して配線を確認する。
「……ここじゃないか。すぐ近くの通路に電気が通ってるから配線が切れているだけだと思うんだがな」
ダリルは違う場所を調べてみることにした。
「ねぇねぇ、夢悠」
「なに、瑠兎姉?」
「いっそ、夢悠が雷術で電気を流すってのはどう?」
「え!? それっていったいどれくらいやればいいのさ!? 無理! 絶対無理!」
想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)は想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)のアイディアに全力で首を横に振っていた。
「動きそう?」
「う〜ん、どうかな? 電力が通ってくれないとなんともいえないわね」
カプセル装置の修理を指揮する事になったイーリャは、ジヴァの質問に答える。
その表情はいつにもまして真剣だった。
「でも、絶対動かしてみせるわ。あゆむの記憶を守ってあげたいものね」
「……そうね。絶対守らなきゃね」
ジヴァは目を閉じて思考すると、大きく深呼吸した。
「イーリャ、あたしにも手伝えることはない?」
「ジヴァ……ありがとう。いまは大丈夫よ。
でも、後であなたにお願いしたいことがあるの」
「何?」
「そこのレバーなんだけど、途中で折れてて動かせないの。
だから電気が通ったらテクノパシーで動かしてもらえる?」
イーリャが笑顔で尋ねると、ジヴァは力強く頷き返していた。
生徒達が自分達のために頑張ってくれている姿を、騨はあゆむの手をしっかり握り締めながら見つめていた。
すると、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が騨に近づき、話しかけてきた。
「ここはあいつらに任せて良さそうなんで、俺は他の所へ行くわ」
「え? どこへ?」
「マカフを捕まえてくる。保険があるに越したことはないだろ」
しばし考えた騨はエヴァルトに淋しそうに笑顔を向ける。
「……そうですね。ありがとうございます」
「いいさ。それじゃ――ああ、そうだ」
立ち去ろうと歩き出したエヴァルトは足を止めて振り返ると、指を銃の形にして騨に向ける。
「騨、俺にも機晶姫のパートナーはいるが……だからといって情けはかけん。敵は敵だ。
大切な相手を救いたいなら、躊躇わずに撃て――」
エヴァルトは発砲の真似事をして騨に笑いかけると、出口に向けて再び歩き出す。
背後から聞こえた「頑張ります」という騨の声に、エヴァルトは背を向けたまま手を振っていた。
通路に出た所でエヴァルトが呟く。
「……まぁ、お前のような優しい奴には酷な話かもしれんがな」
騨が引き金を引かずに済むようにしてやりたいと思いながら、エヴァルトは通路を疾走した。
――研究室
「何か見つかった?」
「ルカルカさん、こっちはまだ……だよ♪」
パソコンで調べものをするルカルカ・ルー(るかるか・るー)に尋ねられた【ちぎのたくらみ】で十三歳の少女姿になった月詠 司(つくよみ・つかさ)は、無理やり可愛らしい仕草をして答えていた。
「やっぱりミステルくんの好きにさせた方がよかったですかね……」
司は要塞に向かう前に、今は薔薇のコサージュみたいになっているミステル・ヴァルド・ナハトメーア(みすてるう゛ぁるど・なはとめーあ)と揉めていた。
ミステルは暴れたいと言い張り、司は騨達の手助けをするために捜索を行いたいと言ったのだった。
なかなか話し合いは纏まらない中、シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が、
『司がシュナイダージムを使って魔法少女ごっこを行うことで恥ずかしい思いをする代わりに、捜索を行う』
という条件を提示した。
ミステルが渋々その条件をのんでくれたので、司も自分の意見を通すため了承した。
しかし――
「思っていたより恥ずかしいんですけど……」
自分の意志で十三歳の少女、しかも魔法少女っぽい振る舞いをしなくてはならない。
これは成人男性の司にとってはかなり厳しい罰ゲームだった。
「それにシュナイダージムってなんだか怪しんですけど……」
「ちょっとツカサ! さっきから何ブツブツ言ってるのよ! やるなら、魔法少女らしい振る舞いでちゃんとしゃべってよ!」
「いや、でも……」
「ナニカシラ、ソノセリフ、ハ?」
「――!?」
司は笑顔を浮かべたシオンがとても怖く感じられた。
「で、でもぉ〜」
「よし!」
司は安心してため息を吐く。
すると、ルカルカがこちらを見て堪えられず笑い出していた。
「っぅぅ」
司の顔が真っ赤になる。
「『ククッ……』
ちょっとミステルくんも笑わないで……ちょうだいってばっ」
司は自分の口を使って笑うミステルを怒る。
しかし、その姿は一人芝居のようで余計にルカルカを笑わせていた。
「もう、嫌……」
肩を落として落ち込む司。すると、シオンが励ます。
「まぁまぁ、ツカサ。そんなに落ち込まないでよ」
「そうは言ってもぉ、こんないつまで続くのさぁ!」
手足をジタバタさせて怒りを表現する司。
その様子にシオンはしきりに頷いて関心していた。
「段々、子供らしい行動がさまになってきたじゃない。
ちなみにワタシが飽きるまで続くからね」
「――ぅう」
「ふふ、可愛い。じゃあ、そんな頑張るツカサにご褒美をあげましょう」
そう言ってシオンは司に分厚い本を渡した。
表紙には『DIARY』の文字。
開いてみると、随分昔の日付が書かれていた。
「これはマカフくんの日記じゃない!?」
本文の大半は水を溢したように滲んで読めなかった。
しかし、全てのページの文末に書かれた著名だけは、照らし合わせて≪隷属のマカフ≫と書かれていることを読み取ることができた。
そこで司は何か掴めるかもと思い、日記に【サイコメトリ】をかけてみた。
すると――永遠に腐敗しない肉体を求める≪隷属のマカフ≫の執念が伝わってきた。
その後、生徒達はどうにか資料を集め、カプセル装置の起動を成功させた。
あゆむが治療が完成するまでカプセルの中で休むことになり、騨はその間ずっと傍にいることを約束した。
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