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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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第七章 友への想い


「見つけたぞ、ネクロマンサー!」
 佐野 和輝(さの・かずき)が推測した場所までやってきた源 鉄心(みなもと・てっしん)は、ティー・ティー(てぃー・てぃー)の【見鬼】によって≪氷像の空賊≫を操るネクロマンサーを見つける。
「これだけ近づけば霊が集中している場所くらいわかります!」
 ティーがダンシングエッジを構える。鉄心も魔銃ケルベロスをネクロマンサーに向ける。
「ティー、歌菜さん。俺とイコナで援護します。その間にネクロマンサーを!」
「わかりました、鉄心」
「オッケー、じゃあ、ちゃちゃっと追わせようか」
 遠野 歌菜(とおの・かな)はティー、月崎 羽純(つきざき・はすみ)と一緒にネクロマンサーへ向かって駆けだす。
 背後から鉄心が銃弾を、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が魔人を召喚して歌菜達を援護する。
 それでも、≪氷像の空賊≫の数は多い。
 歌菜達は武器を振り回し、走り抜けた。
「歌菜さん、ネクロマンサーの胸の部分に、もの凄い邪念の集まりのようなものが見えます」
「了解。じゃあ、それを狙ってみようか。
 行くよ、羽純くん!」
「ああ」
 歌菜が【天の炎】を放ち、≪氷像の空像≫が怯んだ隙に脇を抜けていく。
 空中から襲いかかってきた≪氷像の空像≫を、ティーがレガートの背に乗って足止めに向かう。
「空は私が担当します。歌菜さん、後はお願いします」
「おっけー!」
「歌菜、くるぞ!」
 ネクロマンサーが視界が埋め尽くされるほどに巨大な氷塊を作りだし、歌菜へ向けて放つ。
 歌菜は正面から炎を放つが、分厚い氷にはほとんど意味がなかった。
「歌菜、このままではまずい! ここは――」
「わかってる! 全力で叩き潰せはいいんだよねっ!」
「は?」
 歌菜の回答に、回避行動を推奨しようとした羽純は一瞬瞼をパチパチさせた。
 そして、クスリと笑みに溢す。
「あれ? なんか変だった、羽純くん?」
「いや……全力でいこう!」
 羽純は持てるスキルを駆使して攻撃を氷塊に加える。
「まだ足りないか!? 歌菜!」
「よぉし、私も!」
 続いて歌菜も、さらには鉄心達も攻撃に参加する。
 幾重にも重なる攻撃。
 そして――氷塊に一筋の亀裂が入った。
「羽純くん、あそこに攻撃を集中させるよ!」
「ああ!」
 歌菜と羽純は槍を構え――

「「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
 
 亀裂に向かって、同じタイミングで槍を突き刺した。
 腕が千切れるほどの衝撃。
 ――瞬間。氷塊の亀裂は全体に広がり、音を立てて空中に散開した。
「これで終わりするよ!!」
 煌く氷の結晶の中を飛び上がった歌菜は、槍を振りかざすとネクロマンサーに向けて投げつけた。
 風を切り裂いて駆け抜けた槍は、ネクロマンサーのコートの下に隠された邪念の源漆黒の札を貫く。
「どうだ!? ――って、あれ?」
 仰向けに倒れたネクロマンサーに傍にきた歌菜は驚いた。
 なぜなら、コートの下には人の姿はなく、ただ氷の塊が残っていただけだからだ。
 氷の塊だったネクロマンサーが溶け出すのと同時に、周囲の≪氷像の空賊≫もただの水になって地面に溶け込みだした。
「どうやら、ネクロマンサーはこの札で無理やり復活させられたみたいですね……」
 降りてきたティーが触れようとすると、札は灰になって空中を飛んで行った。
「これで俺達の仕事は終わりか?」
「そうだね。後は要塞の方――」
 歌菜が見上げると、降下を開始した要塞の右翼側で爆発が起こる。そして、交戦する生徒とジェイナスの姿が一瞬目についた。
「しまった!?」
 歌菜は慌ててミッツに連絡を取ると、箒に跨って博物館へと急いだ。


*****



要請を受けた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)達は≪猿虎の魔獣キマイラ≫を足止めをしていたが、≪氷像の空賊≫が邪魔して思う様に戦えないでいた。
 それがいま、歌菜達の活躍で状況が一変しようとしている。
「ん? 空賊どもが……これなら!」
 唯斗はウゲンの鎖を横に大きく振り、溶けかけの≪氷像の空賊≫と同時に≪猿虎の魔獣キマイラ≫を殴りつける。
 上部の黒炎を纏う猿人部分に当たった鎖はくっきりと傷痕を残した。
 ダメージを受けて奇声をあげた≪猿虎の魔獣キマイラ≫が、下部の虎の口から電流を放つ。
「そうはさせない!」
 降り立ったオデット・オディール(おでっと・おでぃーる)が、【対電フィールド】とダンシングバックラーで唯斗を守った。
「助かります」
「いえ、仲間なんだから協力し合わなきゃ!」
 オデットは手を振り上げて上空で旋回しているブライトブレードドラゴンに合図を送る。
「目を狙って!」
 ブライトブレードドラゴンは返事にも似たの声をあげると、急速降下して猿人の顔面に向けて光のブレスを浴びせた。
「いまのうちに!」
「了解です!」
「二人とも、援護をいたしますよ! 八卦術・参式【震】……」
 東 朱鷺(あずま・とき)は特殊な呪文を唱えて八卦術・参式【震】を発動させると、味方の行動速度をあげた。
「……よし。俺は地上から攻めます。
 オデットは空中から、朱鷺は援護をお願いします」
「わかったよ!」
「おまかせください」
 返事と共に走り出そうとする生徒達に、≪猿虎の魔獣キマイラ≫が雷撃を放つ。
 その攻撃を各々が飛び退いて躱す中、朱鷺は八卦術・五式【坎】で防御力をあげて受けきり、そんな朱鷺の目の前には八卦の呪符が展開していた。
 さらに、朱鷺は八卦術・第四式【巽】を発動させ――。
「五式からの、四式です」
 八卦術・第四式【巽】により、≪猿虎の魔獣キマイラ≫が放った電撃がそのまま上部の猿人に向けて返す。
「さらに、追撃もいたしますよ――――」
 朱鷺は特殊な呪文を唱えて八卦術・壱式【乾】を発動させ、展開していた呪符を一斉に≪猿虎の魔獣キマイラ≫へ襲いかからせる。
 目を潰されている猿人は両手に作り出した黒炎の斧を振り回し、攻撃してくる呪符を落とそうとしていた。
「今のうちにでかいのを一発いくよ! ブリザァァァァド!!」
 ワイバーンウイングで空中に舞い上がったオデットは、【神降ろし】を発動させて力を引き上げると≪猿虎の魔獣キマイラ≫を囲うように氷の嵐を放った。
 目も開けていられないほどの強烈な嵐の中でも、猿人の纏った黒炎を消し去ることはできない。
 だが、下半身の虎は違った。
「――――!?」
 咆哮をあげる下半身の虎は、氷の魔力の影響を受けて少しずつ動きが鈍くなり、部分的に凍り始めていた。
 完全に凍る前に嵐の中から抜け出そうとする≪猿虎の魔獣キマイラ≫。その猿人の腕に、唯斗が鎖を巻きつける。
「おっと、悪いがそのまま大人しくしていてください」
 唯斗は鎖を街の彫像に繋ぐと、最後の抵抗に鎖から流し込んできた電流を、地面へと流した。
 逃げ切れなかった≪猿虎の魔獣キマイラ≫の下半身が凍りつく。
「決めさせてもらいますよ!」
 唯斗は鎖を回収して腕に巻きつける。
 駆け出した唯斗に向かって、視力を取り戻した猿人が黒炎の斧を振りかざす。
「やらせないよ!」
 オデットは【千眼睨み】を発動させ、空中に幾つもの目を出現させる。
 大量の目に睨まれた≪猿虎の魔獣キマイラ≫の動きが鈍くなる。その間に滑るように懐へ潜り込んだ唯斗が身体を回転させながら渾身の一撃を叩き込む。
「――せいっ!!」
 鎖を巻きつけた拳を叩き込まれた≪猿虎の魔獣キマイラ≫の下半身が粉々になって地面に倒れ込む。
「後は朱鷺がやりましょう」
 手をついて立ち上がろうとする上半身だけになった猿人に、朱鷺がゆっくりと近づく。
 八卦術・弐式【坤】で強化を行い、八卦術・六式【離】で回復をおこなった朱鷺。
 闘争本能むき出しの猿人の目の前に立つと、優しく語りかける。
「……キミみたいな魔獣は貴重です。ですから、ぜひ朱鷺と一緒に来てほしい。
 でも……キミはそれを望んでいない。そうでしょう?」
 言葉が通じないのか、猿人は炎の斧を朱鷺に向かって振り下ろす。
 しかし、その攻撃は展開していた八卦術・八式【兌】から現れた神獣の幼生によって防がれる。
「キミは自由を望んでいる。だから、せめて朱鷺が――」
 朱鷺が言葉を途切らせると、5匹の神獣の幼生が猿人の上に展開した。
「終わらせます!」
 神獣の幼生と朱鷺が一斉に攻撃をしかける。
 猿人――≪猿虎の魔獣キマイラ≫の身体が徐々にボロボロになり、炎が弱まっていく。
 度重なる攻撃で既に動けないまでになった≪猿虎の魔獣キマイラ≫の胴体部分に、浸食するように張り付いた漆黒の札が露出する。
「これで……最後です」
 朱鷺は寂しそうに告げて呪文を唱えると、八卦術・七式【艮】で漆黒の札を撃ちぬいた。
 ≪猿虎の魔獣キマイラ≫の身体が霧のように消えていく。
 朱鷺は瞳を閉じて、そっと祈りを捧げた。