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リアクション
第2章 ジャタの森…調査 Part1
「―…オヤブン!今ね、魔性と遭遇したり、戦闘することはありませんってお告げがあったよ」
御託宣のお告げを、コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)が天城 一輝(あまぎ・いっき)に教える。
「失踪者の捜索をする前まではってことか?」
「うーん、そうだと思う。今のところ、危険な目に遭う心配はなさそうかな」
「そうか。…この森の中じゃ、小型飛空艇で移動するのは不向きか」
魔法学校から村に到着するまでの道と違い、地元の者でも厳しそうな道もある。
空からジャタ森を空撮をしても、木々が密集しているせいで、木くらいしか撮れないだろう。
「俺は徒歩で探索するしかないな」
「え、やっぱりついてくるの?」
「あぁ、到着前にディンスと約束したしな。手がかりを見落とすわけにはいけないし…」
コレットだと重要な手がかりを、うっかり見落としたり、撮影し忘れたりするのではと思い、一輝も同行しようとするが…。
「オヤブンは過保護すぎるよぅ。あたしだって皆の力になれるのよ。このデジタルビデオカメラで、決定的な情報を掴んで見返してやるんだもん!」
過保護のような発言に、頬を膨らませて怒る。
「まぁまぁ、人は多いほうがいいですからね。コレットさん、一緒に情報集め頑張りましょう」
言い争いになりそうな気配に、トゥーラが2人の間に入って言う。
「う…うん」
トゥーラに言われ、しぶしぶパートナーの同行を承諾する。
「(こちら和輝、聞こえているなら応答願いたい)」
「(あぁ、聞こえてる。コレットが今、御託宣で今のところ魔性との遭遇はないと告げた)」
「(それならパートナーだけで大丈夫そうか?)」
コレットの御託宣を聞いた佐野 和輝(さの・かずき)が一輝に聞く。
「(いや、大丈夫っていうより…、よくはないと思うけど。なぜ他の人と行動しないんだ?)」
「(アニスがまだ皆に慣れていなくってな)」
ドッペルゲンガーの後ろに隠れているアニス・パラス(あにす・ぱらす)に視線を移す。
「(この間の実践のこともあるし、そう何度も3人だけで動くことにならないとは…思いたいけどな)」
呪いによって変身させられたことを思い出し、なるべくはぐれ行動にならないよう、努力すると告げる。
「(こちらから連絡する時は、テレパシーを送りたいんだがいいか?)」
「(それはいいが念のため、定期的に連絡をしてもらえるか?テレパシーが途絶えたら、こちらから話しかけたりする手段がないからな)」
「(あぁ、そのつもりだ。何かあればすぐに連絡するし、何もなければ10分か…30分おき程度で送る。俺たちは村の西側を探索するとしよう)」
身内だけで行動するということで、他のチームに心配をかけないよう、こまめに連絡すると告げた和輝は別行動をとる。
「主よ、森であれば危険な獣もおりましょう。是非私をお使いください」
「アウレウスが森の生物の異変を調べるなら、俺は森を出入りした者の痕跡を調べてみるか」
「私はグラキエス様たちが収集した情報を、銃型HC弐式で纏めますね」
「今回も魔性の仕業なら、どんな感じのやつかな?」
「コレットたちは、ホームセンターの実戦は見ていなかったか?」
「ごめん、見てないよ」
「私たちは教室で実践したヨ」
「―…グレムリンという魔性で、機械・小さな生物のどちらかに憑く、2種類のタイプがいたんだが。生物を失踪させるほど、酷い者じゃなかったな」
かぶりを振るコレットとディンスたちに、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が説明する。
「だから今回は…、また別のやつの仕業かもしれない」
「私は失踪させた相手を、どうするのかが気になりますが…」
アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)は足元を駆け回る動物や、木によじ登る虫に異変がないか、注意深く見ながら言う。
「ただ困らせて遊びたいのか…、まったく別の目的なのか分からないからな。…ちょっと止まってくれ」
「何か発見しましたか、主」
「…足跡だ。これだけでは種族の判断は出来ないが…。足の形を見るからに、人の姿をした者だろう。……村の入り口を東側と考えると、南側にあたる位置だな」
屈んだグラキエスは手で草を退け、足跡を指差す。
「あたしがカメラで撮っておくね」
「これを辿っていけば、何か分かるかもしれませんね」
エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)はグラキエスが発見した足跡と、同じものを探しながら歩く。
「―…おや、途中で足跡が消えていますね?」
「あ、ここにありますよ。でもなんか妙な感じがします…」
トゥーラが他にも手がかりはないか探してみると、草花をめちゃくちゃに踏み荒らしたような足跡を発見する。
「どこカナ?」
「ほら、ここですよ」
「グラキエスさんたちが見つけたものと、同じ形だネ?途中で足跡が途切れて…、ここにあるんだネ」
「えぇ、それほど離れた位置ではないですが」
「ここまで飛んで、いくつも靴跡がつくような状況って何カナ…。ミンナに聞いてみようカ」
発見したものについて、ディンスがグラキエスたちに伝えようと走る。
「今、トゥーラが見つけた足跡を見てきたんだけど、2人が見たものと同じ形だったヨ。でも、そこと…向こうまでの間に、足跡がないんだよネ。向こうのは、なんだか暴れていた感じがしたヨ」
「空飛ぶ箒なので移動したか、それとも…攫われそうになり、抵抗した形跡か…どちらかかもな」
「こちらの足跡は、少し土が乾いてますよ。そちらはどうですか?」
「…こっちも乾きそうな感じだな」
踏んだ後が新しいものか、グラキエスも触れて調べてみる。
「持ち物は落ちていないようですね。もう少し、進んでみますか?」
「そうだな。他にも失踪者につながる手がかりがあるかかもしれない…」
「主、この辺りの生物の異変はなさそうです。ですが…。抵抗しなければならない者に、遭遇してしまったという跡と考えて、間違いないでしょう」
「……連れ去って、何をするんだろうな…」
「遊び相手を捕まえているっていうなら、生命の危険はなさそうか?」
「それもどうかな、オヤブン。遊びだとしても、あたしたちが考えるようなものとは、違う気がする」
ホームセンターでの事件を考えると、少なくとも攫われた者も、仲良く遊べる感じではないのだろう。
コレットはそれ以外の目的を想定してみる。
「困らせて楽しむ…?ん〜、それも遊ぶことと同じことなのかな。ねぇ、オヤブンはどう思う?あれ、オヤブン…?」
さっきまで隣にいたはずのパートナーの姿が見当たらず、辺りを見回す。
「おーい、コレット。皆、先に進んでるぞ」
「えっ!?待ってよー!!」
一輝の声に、コレットは慌てて仲間を追いかける。
「重たいわね……置いていきましょう」
コテージに入ると真宵は、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)の魔導書をテーブルの上に、ドンッと置いた。
「もっと優しく置いてください、真宵。って、なぜ持っていかないのですか?」
「聞こえなかったの?重たいからよ」
「な、なんという雑な扱い!酷いじゃないですか、真宵」
「うるさいわね、そんなに心配ならここに残る?」
「なんですか、そのむちゃくちゃな二択は…っ」
そっけない態度を取る彼女をテスタメントが睨む。
「というわけで、今はお留守番ですが…。強い敵に会ったら、発煙筒を使ってくださいね。…真宵もですよ!」
「はいはい、分かってるわよ」
「ラルクさん。アイデア術使う場合は使ってください、飛んで行きます!ジャタの森と村、どちらで捜索するのですか?」
「俺たちは村の中で聞き込みだな」
「―…情報収集はどちらか片方でということでしたよね?」
レイカ・スオウ(れいか・すおう)が確認するように、テスタメントとラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)を見る。
「それぞれ調査に向かう前に、先生がそうおっしゃってましたよ」
「確かにそう聞いたが?」
「ぇえっ、そうなの!?」
3人の会話に驚いたように、真宵が声を上げた。
「両方で調査してると時間がかって、有力な情報を発見しづらいからでは?」
「えー…、ちょっと村でちょっと聞くだけでも?」
「ところで…。真宵は、どちらで調査をするのですか」
「ジャタの森よ」
「だったらさっさと森に行くのです!このテスタメントを置いていくからには、情報ナシは許さないのですよ!」
「わ、分かったわよ!行けばいんでしょ、行けば!」
パートナーに追い出されるように背中を押され、コテージから出る。
「あの、ご一緒してもいいですか?」
「構わないわよ。まったく…、押さなくたっていいじゃないのっ」
部屋から出る前に、テスタメントの荷物から奪ったメロンパンをかじりながら、レイカと共にジャタの森へ入った。
「えぇと…。マスター、ここが合宿先ですか」
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は不要な荷物を置いていこうと、宿泊場のコテージへやってきた。
「まさか合宿までやるたぁな…」
「明倫館で習っている事とはまた違う内容の修行なので、やはり緊張致しますね」
「本格的すぎるっつーか何つーか、この辺りはイルミンスールならではってトコか。ま、俺としては嬉しいから大歓迎だがな。(フレイに土産品でも買ってやる時間が、ちょっとくらいはありそうだな…)」
宿泊コテージは別々なのだが、それでも多少の自由時間には、彼女に何かプレゼントしようか、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が考えている。
2人はそれぞれ荷物を置いてくると、宿泊場の入り口へ集合した。
「ー…あー。皆、先に行った感じか?」
「そのようですね…」
「おっ。誰か森に入ってくぞ」
「レイカさんたちみたいですね」
「2人だけじゃ心配だな、ついていくか」
見れた後姿を発見したフレンディスとベルクも、ジャタの森へ入った。
「ま、待ってください…っ」
「ー…はい?」
フレンディスの声にレイカが振り返る。
「私たちも同行させてもらえませんか…?」
「もちろん、大歓迎ですよ」
「ありがとうございます。それと…真宵さんでしたよね?」
「え、そうだけど。まぁ、お互いそれなりに頑張りましょう」
フレンディスにそっけなく言うと、真宵はすぐさま森の方へ視線を戻した。
「…それにしても、ずいぶんと歩きづらい道を選びましたね?」
顔にかかるほど伸びた野草を、手で退けながら進む。
「連れ去っていくならば…、救助者が探しにくい道に、連れ去られたのかと思いまして…」
「確実に攫っていくなら、確かにそれもありえますね」
人々を連れ去るため、逃げられたりしないため、草木が茂る森へ逃走した可能性はある。
それに、単純な道だと救助者がすぐに駆けつけて、連れ戻される可能性も低くなるだろう。
「あわよくば、助けに来たやつも攫いそうな感じがするな。俺たちのように、魔道具を持たない連中は格好の餌食だ」
「これ以上、被害がしないよう…、早急に解決しなければいけませんね…」
「だが今回の相手は、今のところ正体不明だぞ。戦いよりも、情報を集めるのが先だな」
「見落とさないように、気をつけないといけませんね…。そう思うと…物凄く緊張してきました。でもマスターやご一緒に学んできている皆様がおりますので心強いです。僭越ながら昇級もさせて頂きましたし、この度の合宿もご迷惑をおかけしないよう精一杯頑張りますので宜しくお願い致します」
ベルクからレイカと真宵に視線を移し、丁寧に挨拶をする。
「今のところ、たいした気配はないみたいね」
「私のほうも、宝石に反応がありません…」
ジャタの森に入ったばかりだからか、ペンタントの中のアークソウルは輝きを見せない。
ベルクも警戒を怠らず、祈りの言葉を紡いだ。
「こっちも光らないな」
彼女たちの後ろを歩きつつ、自身に反応しないように意識を集中させる。
「ぁ…?いや、違うか」
「どうでもいいものでも、感知しちゃうみたいね」
森の奥へ進んでいくにつれて、稀に弱い光の反応を表すが、それは森に住む虫などに対してのことだった。
「マスター…。今回も姿の見えぬ者が相手でしょうか?」
「俺の視覚に入れば、不可視化していようが姿も見えるぞ」
「そうでしたね…。まだ日が高いゆえ、多少薄暗くともなんとか歩けますが…。日が落ちてしまうと、夜の森を歩き慣れない者には、厳しいかもれません…」
「早朝でも夜でも、悲鳴が上がれば誰かしら気づくはずだけどな」
「こう考えたらどうでしょうか?それがないゆえに…、行方不明者が多発してしまったと…」
騒げば誰かしら気づくだろうが悲鳴すら出させず、連れ去られたのではとフレンディスが言う。
「ていうか、怪しいやつにほいほいついていくヤツばかりじゃないだろ。どうやって攫ったかが謎だな」
ベルクは木を見上げてみたり、足を止めて回りを警戒したりしながら話す。
「普段、もっと人が少なそうな方へ行ってみませんか」
これくらいなら散策に来た者でも、まだ歩きやすい方かと感じたレイカは、背の高い草が伸び放題の道を指差した。
「そうね、歩きやすい道にお宝なんて…」
「―…え?」
「あ、いやいや。こっちの話。ねぇ祓魔の護符って、あくまでも護身用だっけ?」
実戦の向こうには、きっと何かあるはず…と考えていたことが、うっかり口に出てしまった。
なんとかごまかそうと、護符についてレイカに聞く。
「えぇ、私たちが引き出せる能力は、それくらいらしいですね」
「対象の気を引いたり、相手の接近を阻むものって感じかしら」
授業のことを書き込んだノートを、簡単に書き写したメモ帳を見る。
「ていうか何の気配もないわね…」
「攫っていく人数がもう十分…ということでしょうか」
「相手の目的が分からないから、なんとも言い難いわ」
「あの、真宵さん。私の箒の後ろに乗りませんか?」
「じゃあ遠慮なく乗せてもらうわ」
歩き疲れになっている真宵は、空飛ぶ箒ミランに乗る。
「お2人は…、歩きでも大丈夫ですか?」
「は・・・はい、問題ありません」
「逸れてしまわないように、ゆっくり飛びますね。いなくなった方々の、所持品でも見つかるといいんですけど…」
レイカは木々の間を通り抜けながら、失踪者が何か落としていないか、草むらのほうも注意深く見る。
「(ぁ〜あ、お土産品見たかったわね。こうなったらお宝を発見するしか…!あっ、あれは…もしかしてお宝!?)」
村の土産品のキャンドルに興味津々だったが買う暇がなく、調査が終わるまでお預け状態だ。
ちょっぴり傷心気味な彼女の心を癒すのは、お宝しかない。
箒から飛び降りた真宵は、草陰からちらりと見えるソレに向かって走る。
「やっと見つけたわ。フフフッ、何かしら…。ぇ、これってゴミじゃないの?」
大喜びで引っ掴んだ物はなんと、ただのエメラルド色のハイヒールだった。
木漏れ日に照らされた靴先がキラキラ輝き、宝石か何かと見間違えてしまったようだ。
「うっそぉ〜!?苦労してやっと見つけたと思ったのが、こんな物だったなんて…」
「これって…、村からいなくなった人の物なんじゃないんですか?」
「どう見ても汚い靴にしか見えないわ…」
真宵は不機嫌そうに、レイカに投げ渡す。
「いえ、何かの手がかりにあるかもしれませんし。持っておきましょう。これは真宵さんが発見した靴ですから、お返ししますね」
「あー…うん…」
何も見つけてないよりかはマシか、と仕方なく靴を抱える。
「片方だけなのかしら?」
「さぁ、どうでしょうね…。靴跡はここで途切れてますし」
「脱げたまま自分からどこかに行くっていうのは、ちょっとナイわよね」
「私もそう思います…」
靴の持ち主につながる物はないか、レイカたちは辺りを探す。
「躓いたりして脱げたんだったら、普通は脱げっぱなしにしないで探すよな」
「それほど急いで、そこから離れないけれならぬような、出来事があったのでしょう…」
ここでいったい何が起きたのだろうと、フレンディスは真宵が持っている靴を見る。
「(何を探しているのです?ここからではよく見えませんね…)」
テスタメントは偵察を行う真宵の後を見た目不本意な暗黒比翼で、だらだらと追いかけ、彼女たちの様子を見る。
パートナーが置いて行った魔道書も、しっかりと持ってきている。
兎に角、実戦で実績と知識を身につけたいテスタメントは、彼女についてきてしまった。
「ん…?わたくしの宝石に反応が…っ」
「私のほうもですね…」
「あぁ、何かいるみたいだな」
3人は宝石に精神力を注ぎ、気配の元を捜索する。
「(はっ、真宵にばれてしまうのです!)」
発見されそうになった彼女は、アークソウルの探知範囲外へ避難する。
「あれ…、反応しなくなったわ。どこかに魔性が隠れていたのかしら。それとも行方不明者が近くにいたのかしらね」
「どうでしょうね。実戦に参加している他の方かもしれませんし…」
「そうかしら?もしそうなら離れていく必要ないと思うわ」
「(はわわ…、まずいのです。ここは動物の鳴き真似で、ごまかすのですっ)」
こっそりついてきたのがばれないよう、慌てて犬の鳴き真似をする。
「なによ、ただの犬じゃないの。調査を続けましょう」
はぁ…っと嘆息し、行方不明者の調査に戻る。
「―…真宵さん、こっちに来てみてください」
「何か見つけたの?」
「木の下に…、真宵が発見した靴の片割れがあるんです」
「へー、どれどれ…。この靴、なんか濡れてない?」
「えぇ、水に濡れた感じがしますね。…それと、靴に泥がついてますが?」
「水場にでも、片足を突っ込んだんじゃないかしら」
発見された片割れを真宵が観察する。
「えっと…。ジャタの森にある水場といえば、川…くらいでしょうか」
「場所はまでは分かりませんが…、調査してみたほうがよさそうですね」
「真宵さんは私の後ろに乗ってください」
レイカは真宵を空飛ぶ箒ミランに乗せ、フレンディスとベルクと共に川を探す。
「ここまでは手がかりナシか…。失踪者が村に戻りづらい道を探してみないか?自らの本心で、姿を消したとは考えにくい。ならば、なんらかの手段で、何者かに攫われたのだと考えるほうが自然だろう?」
実行犯が攫っていきそうな道を、禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)が推理する。
「どこかに連れて行かれちゃったかもってこと?」
リオンと一緒に、空飛ぶ箒ファルケに乗っているアニスが、彼女の方へ振り向く。
「おそらくな。どのような方法を使ったか分からぬが」
「でも、逃げられちゃったりすることもありそうだよ」
「人々を攫った相手が知恵者ならば…。捕まえた者が、途中で逃げることも想定するだろうからな。再び捕獲しやすくするために、逃げきれそうにない場所を選ぶはずだ」
「わざわざ、逃げやすい道は選ばないってことだな」
「そういうことだ、和輝。相手の正体も能力も不明なのだからな。無暗に挑まず、情報収集が先ということなのだろう」
ミイラ取りがミイラになってしまっては、救助に来た意味がないだろう?と言う。
「コレットの御託宣によると、今のところ魔性に遭遇する危険はないらしいが。失踪者を捜索しに向かう時は、他の者と共に行動するしかあるまい」
「まぁそうだな。アニス、アークソウルに反応はないか?」
和輝はゴットスピードで追いかけながら、アニスが持っているペンダントを見る。
「んー、少し光ってるね。たぶん、リオンが近くにいるからだと思う」
「本にも反応するのだな」
「そうみたい。ついでにディテクトエビルで、人の気配を感じ取ってみようっと♪」
「通常の者のみが対象だが。邪念を抱く者や、私たちに害をなそうという者の存在なら、それで分かるだろうな」
「むむむぅ〜っ。…んー、何も感じないね」
「―…ふむ。私たちを襲うように操られていることはなさそうだな。でなければ、とっくに村が襲われているだろう」
「そっかー」
「そろそろ定期連絡の時間だな。(…こちら和輝。今のところ、何も情報を得ていない。そちらはどうだ?)」
一輝たちのほうは何か手がかりを掴んだか、和輝がテレパシーを送る。
「(グラキエスとトゥーラが、失踪者のものらしき足跡を、村の南側の森で発見した。それを辿っていったんだが、途中で途切れていた。人の手入れがまったくされていない感じの場所だ)」
「(人目につきにくい位置、ということか?)」
「(たぶんな。で、その途切れた位置から、あまり離れていない場所に、同じ靴跡を発見したんだが。何かに抵抗したみたいに、靴跡がいくつも残っていた。どちらもほとんど乾いてたな)」
「(夏季という季節を考えれば、早く乾いてしまいそうな気がする…)」
「(発見から時間が経っていなければいいんだけどな。一応、失踪者を探してみたが、もう近くにはいないようだ)」
「(なるほど。こちらも引き続き、情報収集を行う)」
和輝はそう告げると、テレパシーを切った。
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