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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 5

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 5

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第5章 ケルツェドルフ村…調査 Part2

「この村に旅行会社があればベストなんだけど…」
 ケルツェドルフの村の中で情報収集するべく、グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)は旅行会社の店舗がないか探してみる。
「村の規模から察するに、望み薄かも」
 だが小規模の村に、そのような施設があるかどうか不明。
 グラルダはダメモトで村人に訊ねてみる。
「村の中に、旅行会社ってない?ここいら周辺の地図を借りたいの。出来るだけ詳細なやつ」
「そんな大層なものはないわねぇー」
「―…そう」
 やはりというべきか、見つからず嘆息した。
「じゃあ…。観光客がいるなら、サービスを提供する施設があってもよい気がするけど。そういう施設はあるかしら…?」
 観光客にサービスを提供する施設がないか、村人に聞きまわってみるが…。
「残念だけど、それもないわ」
「小さな村でもあるところはあるのに…。ここはないみたいね」
 ―…村人はかぶりを振り、ないと答える。
 どうやらそれらしい場所はないようだ。
 “隠れ家的スポット”や“穴場スポット”などという言葉もあるが、隠れすぎにもほどがある。
「グラルダさん、どんな人が何人いなくなったか、聞き込みしてませんか?」
「村人に聞き込みするの?」
「見たところ、かなり平和そうな村だったみたいですし。役場などがわるか分かりませんが。ない場合は、旅館的な場所に記録が残っているのではないでしょうか」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)はまず、村人に役場がないか訊ねようと、洗濯物を干してる主婦のところへ行く。
「すみません、この村に役場はありますか?もしくはそれに近い場所があれば、教えてもらいたいのですが」
「んー、そういうところはないわね」
「そうですか…、ありがとうございます」
「宿と言えば、宿泊所のコテージの傍に、受付らしい場所があったわね?」
「確か…、レストランの向かい側にありましたね」
 いったん、余計な荷物を置きに行った際に受付場を見かけ、宿泊客の記録を見せてもらうと向かう。
「いらっしゃいませ」
「あの…。ここの宿は、宿泊客の記録を残していますか?」
「はい、数年分に分けて残してあります」
「ここ数日の間に泊まっていた人について、知りたいのですが」
「大変申し訳ありませんが、個人のプライバシーに触れるため、お教え出来ません…」
 なぜ明日香たちが宿泊客について調べているのか分からず、受付嬢は教えてくれなかった。
「なんか怪しまれているわね。魔法学校の生徒だって、言ったほうがいいんじゃないの?」
「あ、そうでしたね…。えっと…、私たちはイルミンスールの生徒です。魔法学校に失踪事件の依頼があって、調査を行っています」
「魔法学校の生徒様でいらっしゃいますか…?村長からお聞きしております。少々、お待ちくださいませ」
 そう言うと受付嬢はカウンターの奥へ行く。
 数分後、記録帳を手に明日香たちが待つ、カウンターへ戻った。
「こちらでございます」
「―…かなりたくさんいるんですね」
 明日香は分厚いファイルを開く。
「日付別にわけてあるみたいだし。今日を含めて一週間分のデータのみ、ピックアップしてみたら?」
「どうしましょうか…。何時頃、失踪事件が起こったのか不明ですし」
「当宿にご宿泊なさって、行方が分からなくなってしまったという騒ぎは、本日を含め2日ほどになります」
「おおく考えて、1週間分程度のデータでよさそうですね」
「俺はリストを作るか」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は宿泊の時間帯順に、宿泊客の性別や年齢層などをノートに書く。
「今日もわりといるんだな?」
「えぇ、早朝からご宿泊なさっている方もいらっしゃいます」
「まだ昼前だしこの時間じゃ、いないかどうかは分からんな…。昨日から戻ってこない者は分かるか?」
「はい。外出時はフロントに、お部屋の鍵をお預かりいたしますので。10代から30代未満の年齢のお客様が、まだお戻りになられていません…」
「なるほど、若い客ばかりがいなくなってるのか。で、その者の性別は?」
「女性だけでなく、男性の方も含まれています」
「性別は関係ないのか…」
「当宿に報告を受けた方々の、宿泊時間ですが。本日・昨日での24時間の間に…宿にお戻りになられいない方、すでにチェックアウトされた方共に、行方が分からなくなってしまったようです」
 受付嬢は記録帳を指でなぞりながら言い、甚五郎たちに教える。
「つまり約1日の間に、原因不明の失踪事件があったということか?」
「―…はい。その時間帯の前のお客様に関する報告はございません」
「そうか…。宿泊客以外で、その時間帯に失踪した者はいるか?」
「そこまでは把握しておりません…」
「いや、これだけでいい。ありがとうな」
「甚五郎さん。村長さんがいるみたいですから、そちらでも聞いてみましょう」
 村長なら失踪者について把握しているかもと思い、明日香たちは受付カウンターから立ち去る。
 宿泊場を通り過ぎると、宿泊コテージよりも少し大きい家を発見し、家の戸をノックする。
「すみません、少々お訊ねしたいことがあるのですが…」
「なんでしょうか…?」
 老婆はそっと戸を開け、怯えた様子で言う。
「私たちは、魔法学校の者です」
「そうでしたか…、中へどうぞ」
 事件のせいか酷く警戒していたらしく、依頼を出した学校の者だと分かると、老婆はほっと息をつき明日香たちを家の中へ入れる。
 ソファーの方を見ると、50代半ばの男が座っている。
「―…村長さんですか?」
「はい…。イルミンスールの生徒さんたちですよね?」
「えぇ。…で、行方不明になった方々のことを、教えてもらえますか?」
「私が把握しているのはこの村の者と、宿に宿泊した者のみになりますが…」
 村長は行方不明者のリストを、明日香たちに手渡した。
「ありがとうございます」
 明日香は礼を言い、家から出る。
「リストを見せてくれ」
 甚五郎は明日香からリストをもらいノートに纏める。
「外見年齢が10歳未満や30代からの者は、いなくなってないんだな?」
「対象は比較的、若い方…ということでしょうか」
「ふむ…。とはいっても、幼すぎる者は対象外…。これは、どういうことなのじゃ?」
 年を重ねている者は狙われないようだが、かといって若すぎても狙われない。
 選ばれる基準はなんなのか、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)は首を傾げる。
「受付の者も村長も、失踪者が自分の意思で去るような予兆については、何も言ってなかったのぅ」
「そうなんだよな。そっちの原因は結局、何も分かっていないし。羽純…、何か気配を感じたりしないか?」
「うーむ。地球人以外の種族にも反応してしまうのでな。アークソウルの反応は、ほぼ常にあるのじゃが…」
「人のいない場所ではどうだ?」
「無論、調べてみてはいるが、…何の気配もないのじゃ」
 気配を懸命に探知しようとするが、相手はそう簡単には現れてはくれないようだ。
「キャンドルショップでも聞いてみない?」
 宿泊せずに帰る者もいるだろうと思い、五月葉 終夏(さつきば・おりが)がショップで情報収集しようと言う。
「ふむ、一般の店であれば、日帰りの観光客についても、分かるかもしれぬな」
「たくさんお客さんがいるね…」
 店内に入るとさっそく店員を探す。
「あ…。でも、流石に何も買わずに話しかけるのは失礼かな?」
 木の棚から白い花の形をしたキャンドルを掴み、買い物カゴに入れてレジへ向かう。
「これください」
「アロマキャンドル、一点でよろしいでしょうか」
「はい。…店員さん、私は魔法学校の生徒です。最近この辺りで人が消えるという話を聞いたんですが、何かご存知ありませんか?」
 イルミンスールの者だと店員に告げ、終夏は失踪事件について聞く。
「えぇ…、目の前で姿が消えるというわけではないようですが。昨日から突然、いなくなってしまう方がいるようです。友人同士でいらっしゃる方もいまして。当店に行くと友人の方に告げたまま、宿泊場に戻らないという方がいらっしゃいました。確か、昨日の夕方頃だったかと思います。その日に、泊まりに来たとおっしゃっていましたが」
「その友達を探しに来た子は、どこに探しに行くとは言ってませんでしたか?」
「―…いいえ?何もおっしゃらずに行ってしまいましたが」
「他にも、何時間も村に戻ってこないなどいう話は、聞いていませんか?」
「わたくしが把握していることは、その方のみです…」 
「そうですか、ありがとうございました」
 終夏は商品の代金を渡し、キャンドルを受け取ると礼を言う。
「あとは町の観光マップでもあるといいんだけど…」
「これのことじゃな?」
 草薙羽純がプラスチックのケースにある地図を発見する。
「うん、それっぽいね。ありがとう」
「フリーサービスのようじゃ。わらわももらっておこう」
「あ、そうだ。宿泊場のカウンターで、宿泊者のリストをメモしてたよね?」
「甚五郎が全て記録したはずじゃが?」
「これのことか?」
「うん、見せて。…若い人がいなくなっているんだったね。夕方前までのリストを見ればいいかな…。んー、この十代の女の子たちのことっぽいね」
 2人組の若い女の記録を終夏が指差す。
「この記録だと、外出したまま戻ってきてないみたいだよ」
「ということは、2人ともいなくなったてことか?」
「そうみたいだね。後は、ずっと村に帰ってこない人の家を、地図に書き込んでおこうか」
「適当なテーブルもないし、コテージに戻ってまとめるか」
 集めた情報をまとめようと、甚五郎たちは宿泊用コテージへ戻った。



 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)はカメリアを召喚し、ケルツェドルフの村の中で、失踪者について情報収集を始める。
「今日もよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくね」
「カメリアさん、まずはお店に行ってみましょうか」
 お土産屋で聞き込みを行おうと、キャンドルショップに入る。
「色つきのロウの中に、星や月型のロウが入っていますね?」
 半球の透明なガラスを器の中には、夜空を模したキャンドルが入っている。
 器はグラス型や花瓶型などもあり、キャンドルのイメージに合わせているようだ。
 ガラス棚の中を覗くと、生け花風や水中花を思わせるものもある。
「お人形タイプのもあるみたいですね」
「小さい女の子のキャンドルね、可愛い…」
 麦わら帽子を被り、水色のワンピースを着た少女のキャンドルを眺める。
 人形は花束を抱えているらしく、その花に火を灯すようだ。
「これって、使うと溶けちゃうのよね?」
「えぇ、そうですよ」
「なんか使うのがもったいないわね」
「こういうものは、飾るだけでもいいと思いますよ」
「へー…、そうなの?」
 カメリアはもの珍しそうに店内を歩きまわる。
「気に入った色のキャンドルはありましたか?」
「どれもキレイで迷うわね…。1色タイプもあるのかしら?」
 彩り豊かな他のランプと、カップ型の面白みのない、普通のランプを見比べる。
「これはアロマキャンドルですね、カメリアさん。プレートに説明書きがありますよ」
「それって、こういう形のものばかりなの?」
「いえ、店内の中を探せば、細工物のランプもあると思いますが。中にはシンプルなものを好む客もいるでしょうから、置いてあるのではないでしょうか」
 細やかな細工物を好む者もいるが、普通のスタイルを選ぶ者もいるだろうと、カメリアに言う。
「お部屋の雰囲気に合わせて、購入する方もいるでしょうからね」
「そういうものなのね。―…こっちのは箱?」
 販売されているのが、キャンドルばかりだと思っていたカメリアは、不思議そうに見る。
「えっと…。化粧箱の中に、ピンク色のキャンドルが入っているみたいですよ」
「あら、本当だわ。なんだか可愛いわね」
 化粧箱を覗くと、ウサギ型のキャンドルの姿が見えた。
「そちらのお土産で持って帰りますか?」
「私の土地柄、火などを使うのは好ましくないけど。観賞用にはいいかもしれないわ」
「ローズの香りがするみたいですね」
 どんな香りのキャンドルか、ロザリンドが説明プレートを読む。
「―…香水として、花の香りを凝縮されるだけでなく…。香木とかキャンドルに染み込ませて局所的に効果の強い場所を作るのはいかがでしょう?」
「まぁ、それなら香水より、少しくらい長く効果を保てるかもしれないけど。長時間ってことを考えているのよね?何度も作って見ないと香水よりも、ちょっと長い程度の効果になるかしら」
「理解を深めて、修練を積むということですね」
 香水以外の媒体でも、ある程度は可能だと分かり、用紙にメモする。
「では、事件について聞き込みを行いましょうか」
 棚に商品を陳列している店員を見つけて傍に寄る。
「行方不明になっている人がいると聞いたのですが」
 なぜそんなことを訊ねるのか、店員はロザリンドを警戒し、表情から笑顔を消した。
「―…イルミンスールからその調査と解決のために来ました」
 面白半分で聞いているのではない意思を伝えるべく、ロザリンドは言葉をつけたした。
「イルミンスールからいらっしゃった方でしたか…」
「知り合いやここに来たお客でそのような方がいますでしょうか?そのような方を知っていましたら、その背格好とか性格とか、どこそこに行くと言っていたとか、そういったことを教えて欲しいのですが。もしくはそういったことに詳しい方がいましたら紹介をお願いしたいのですが」
「申し訳ありませんが客観的に見たお客様の性格は、申し上げられません。私が雰囲気と本来の雰囲気は異なるかと思います。…昨日の夕方にお見えになったお客様は、お求めの商品の在庫を切らせていたため…明日でしたら、いくつか入荷いたしますと伝えたのですが…」
「それでその方は?」
「まだお見えになっていないのです。当店は予約が出来ないため、早朝の開店時に来るとお聞きしました。ですが、まだいらっしゃっていないのです…」
 もしや、今回の事件に巻き込まれたのでは…と感じていた店員は不安げな顔をした。
「見た目は小柄な少女で、性格は内気な感じがしました」
「なるほど…分かりました。他に突然、行方の分からなくなった方はいませんか?」
「まことに申し訳ありませんが、わたくしが知っているのはそれくらいです」
 若い店員はかぶりを振り、すまなそうに言う。
「いえ、十分です。ありがとうございました」
 店員に礼を言うとロザリンドは、ローズの香りがするアロマキャンドルを1つ購入する。
「作ってるところは見学出来ないみたいですね?」
 工房はカウンターの奥にあるらしく、見学してみたいな…と思っていた高峰 結和(たかみね・ゆうわ)だったが、見せてもらえそうにない。
「申し訳ありませんが、こちらはお店出来ないのです」
「あ、いえ。えっと…キャンドルを作っていて、最近変わったことは起こりませんか?」
「いいえ、ございません」
「んー……、そうですか。いつの間にか数が減っていることなどはありました?」
「こまめに数を数えていますので、問題ありません」
「分かりました…。ありがとうございます…」
 1つも情報を得られず、しょんぼりする。
 せっかく店に来たのだから、土産品でも買おうかと商品棚へ目を向けた。
 グラスの中に入っている海を模したキャンドルや、毛糸玉にじゃれる猫をロウで作ったキャンドルなどがあり、毛糸玉の中心には芯がついている。
「―…こっちの方はオーシャンの香りで…、猫のキャンドルはチョコとココナッツの香りですねー」
 結和はどちらにしようか悩む。
「決められませんね…。こういう場合は……、両方買いましょう」
 悩んだ結果、どちらも買うことに決めた結和は、レジで会計を済ませた。
「私も聞いていい?」
 フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)も失踪事件について調べるべく、店員に声をかけた。
「はい、なんでしょうか」
「最近…新し物を使うようになったり、店のキャンドルの材料を新しくしたりはしていない?」
「いいえ。そのような物などは、扱っておりません。他の店で、何か変更などをしていれば、当店の方の耳にも入りますし」
 ライバル店が多いため、他店のこまめな調査を怠ってはおらず、最近変えた材料などはないと言う。
「―…そう。私も1つくらい、買っていこうかしら」
 フレデリカは手近なキャンドルを手に取り買う。
「ねー、ボクも聞き込み手伝おうか?」
「ううん。レスリーは記録だけしていて」
「これも大切な訓練なんでしょ?知識を得るなら、それと共に行動も大事だと思うんだよね。ねーねー、フリッカ」
「少し黙っていてちょうだい…」
「むー、分かったよ」
 煩ったそうにあしらわれ、スクリプト・ヴィルフリーゼ(すくりぷと・う゛ぃるふりーぜ)は大人しく、自身に記録だけ取ることにした。
 フレデリカたちが合宿に参加する準備をしているのを発見し、“なになに?エクソシストの訓練をしてるの?”と聞いたのだが…。
 2人は授業で学んできたことを、簡単に教えてあげたが、“あはは。ボクにはよくわかんないや。ねーねー。ボクにもおしえてよ〜。”という言葉が返ってきた。
 説明しても理解してもらえず、もっと詳しく知りたいと言われたが、何度も同じことを聞いてくるため、現場で覚えさせようと仕方なく連れてきたのだ。
 やや雑っぽい扱いを受けているスクリプトはそれでも懸命に、ヴィルフリーゼ家の魔法・秘儀の体系を記録している魔道書としての使命のため、祓魔術について身に着けたことを、自身に記録している。
「スクリプトさんは魔道具を使わないんですか?」
 ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が傍にいるなら、教えてもらいながら調査を行わないのか、不思議に思ったロザリンドが聞く。
「あ…、ボクはまだ慣れていないから。記録だけしてるんだよ」
「そうだったんですか」
「うん。それに今、ルイ姉は教えている時間ないもの。…ルイ姉、どう?」
 店員や他の客に聞こえないよう、フレデリカは小さな声音で言う。
「何も反応を示しませんね」
 アークソウルに祈りを込め、魔性は宿っていないとルイーザはかぶりを振った。
 村にある他の物も調査するべく店内から出る。
「現地で解決しきれないからこそ、私たちが呼ばれたのですよね…」
 セイニィのような実力者が巻き込まれたとあれば、“人”よりも“物”をあたった方がよさそうだと、魔性の痕跡がないか探る。
 彼女が力ずくで連れ去れたとは考えにくい。
 そうであれば抵抗し、村人たちも騒ぎ声を耳にしていれば、もっと早く魔法学校に依頼がきているはずだ。
 壊れて不要になったリサイクル品が集められている、収集場にも足を運んでみたが、魔性が憑いている気配はない。
「この村で攫われたとしたら、なんらかしら痕跡があると思うのですが」
「宝石にそういう効果がないみたいだし。そういうのは分からないかもね、ルイ姉」
「やはり、これで痕跡を探すのは出来ないのですね…」
「それにしても、ここにあるリサイクル品って、なんだか少ないわね」
 よほど大事に使っているのだろうか、と首を傾げた。
「すみません、この収集所についてお聞きしたいのですが」
 ロザリンドも疑問に思い、少し老けた女を呼び止める。
「ここには毎日、不用品が置かれているのでしょうか」
「いーえ?住人が置いていくのは半月ごと程度よ。最近じゃ、観光客がここに捨てたりすることもあるから、決まった日だとかはないかもね。でも、妙ね。何か量が少ないわ…」
「物が勝手に動いているところを、見たことはありませんか?」
「ないわよ、そんなもの。買い物で忙しいからじゃあね」
 女は不愛想にそう言い、立ち去った。
「人目につかない時に、なくなっている…ということでしょうか」
「村人の目があるのに堂々と捨てるのって、…ありえるかしらね…。うーんでも、捨てる時に人目ばかり気にして、他のところにまでは意識はいかないかも」
 不要品を捨てている時に、僅かな隙を狙われる可能性もありそうだと頷く。
「だけどセイニィさんが、収集場に立ち寄ることはなさそうね。観光地のこういう場所で、物を捨てたりしなさそうだもの」
「それでは、別の手段で攫われてしまった…と、考えるのが自然でしょうか?」
「えぇ、そうね。その方法が何かは分からないけど」
「あ、あの…。常に見ていそうな方が…、私たちも近くにいますよ。えっと…、草さん。人だけでなく…、森の動物の動きに変わったところはありました?」
 聞く相手は人に限ったものではないと、結和は人の心、草の心で小さな花に訊ねる。
「さぁー?森からたまーに、村にどうぶつがきてるんだけどー。さいきん、ぜんぜん見てないからわからねぇー」
「ひとだったら、森の近くに生えてるやつにきいたらぁ?」
 ―…と、そっけない返事が最後に返ってきた。
 結和は言われた通りに、森に入る手前の場所へ行き、訊ねてみた。
 草たちは“誰もいないのに誰かと話してる感じで、どっかいっちゃったー。話してるあいては見えなかったけど、声はきこえたよー”と教えてくれた。
「きっと…、相手は魔性なのでしょうね…。普通はー…姿を見せないような、怪しい者についくことはありませんよね?」
「おそらく言葉巧みに、誘われたか…。呪術とかで操られたのかもね」
「あのー…どんな会話でしたか?」
 再び訊ねると草は、“こっちにおいしー野草があるよーとか。きみのこどもが森に入っちゃったよー、あぶない人に追いかけられてるみたいー”と答えた。
「1つ目は…なぜその言葉だけで、ついていったかですね…」
「それが呪いをかけるための言葉…だったかもしれないわ。子供のことは、確認するために家へ戻らないように言ったんじゃないかしら?」
「いったい…何のために、呼び集めているのでしょうね?」
 この情報だけでは人々を集めて何をしたいのか、まったく目的が見えない。
「村の風習にも何か関係してそうだし、そこら辺のことも聞いておきてぇな」
「それも大事な情報ですな」
 別の方向性から情報を得ようとするラルクに、ガイ・アントゥルース(がい・あんとぅるーす)が頷いた。
「ラルク、俺もその辺で聞いてきますぜ」
「あぁ、あんまり離れるなよ。…さて、何かキナくせぇ情報はあるかなっと」
 昔ながらのことは若者よりも、老人のほうが詳しそうだと思い、杖をつきながら歩く爺さんを呼び止める。
「なぁ爺さん。この村に伝承とか、噂とかなんかないか?」
「ほー…。お若いのに、そんなことを調べにわざわざ来たのかい?」
 ラルクがそれだけの目的で、村へ訪れたのかと思い、年老いて白くなった眉毛をハの字にして言う。
「若いからだとかはあまり関係ないって」
「つまらぬ伝承などよりも、観光を楽しむほうが、有意義じゃと思うがのぅ」
「観光だとかは、今はいいって。そんなことよりも、知ってたら教えてくれないか?」
「うーむ……。あくまでも、ただのいい伝えなのじゃが。あまり遅い時間まで遊んでると、化け物が食べにくるぞーっていう、話があるのじゃ」
「その化け物の姿はどんな感じだ?」
「魚のような…、馬のようなやつらしいがのぅ」
「なんだそりゃ。魚と馬、どっちなんだ?」
「知らん!誰も見たことがないんじゃ」
 ただの言い伝えじゃから分からん!という態度をとる。
「じゃあ、夜遅くが危ねぇってことか?」
「それも知らんなぁー。人目のつかぬところで、うろつくなということじゃろうて」
「もっと他になんかないか、爺さん」
 老人から伝承について、もっと教えてもらおうとするが…。
「おーい、爺さん?おいって!」
 身体を揺すったり、大声を出してみても返事は返ってこない。
「あはは!おじーさん、寝ちゃっているみたいだよ。どうすれば、立ったまま眠れるのかな。フリッカ、分かる?」
 スクリプトは“器用なお爺さんだね”と笑う。
「知らないわよ、そんなこと。ていうか黙ってなさい」
「ガイのほうも、なんか情報を掴んでいればいいけどな」
 そのガイのは…。
 彼も老人から聞き込みしている最中だ。
「(―…魚のような、馬のような魔性とは、どのような姿なんでしょうな?)」
 ラルクが得たことと、同じような伝承だった。
 パートナーと合流したガイは、老人から聞いた話を伝える。
「そっちも同じようなもんか」
「半分魚で、半分馬ということでは?」
「どんな生き物だそりゃ」
「さぁ、見たことありませんからな。とにかく、人目の目が届きにくい場所で、単独行動は危険ということみたいですが」
「食われるっていう話も気になるしな…」
「あとは、村をマッピングしておきますかな?」
 念のため地理くらいは知っておくべきだろうと言う。
「んじゃ、一緒にやるか。離れて行動するのは、やっぱり危ないみたいだしな」
 荷物から大きな用紙を取り出し、マッピングを始めた。