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リアクション
第7章 ジャタの森…調査 Part2
生徒たちが村でいくつか情報を得ている頃、ジャタの森で調査を行うグラキエスたちは、川にたどり着いていた。
彼らはさっそく行方不明者の手がかりを探し始める。
「所持品でも落ちていれば、サイコメトリで読み取れるのだが…」
「主、ちょっとよろしいですか?」
「何だ、アウレウス」
「あの動物たち…何だか妙じゃませんか?」
「妙って…どういう…」
パートナーの視線の先に顔を向けると、グラキエスは言葉を途切れさせた。
動物たちの体に、何かにぶつかったような傷がいくつもあるのだ。
ある者は痛そうに足を引きずり、またある者は折れた腕から血を流している。
「エルデネスト、治療してやってくれ」
「了解しました、グラキエス様」
彼の頼みとあらばと、エルデネストはすぐさま命のうねりで動物たちの傷を治す。
「酷いネ、誰がこんなことやったのカナ?」
「村人や観光客の仕業ではないかもしれませんね、ディンス」
トゥーラは川岸にかがみ、ぷっかりと苦しそうに浮いている魚に目を落とした。
「ぱっと見た感じですと、とてもキレイな水のようですね…」
水に指先を入れ、匂いを嗅いでみるが、特に異臭はないようだ。
なんらかの水害で苦しんでいるようには思えない。
一方、レイナたちも川を探しながらも、何か落ちてないか注意深く見ながら、調査を続けている。
「何も見つかりませんね…。そちらはどうですか?」
「いえ、今のところ何もありません。―…マ、マスター。…何か踏んでしまいました」
ぐにっとした感触に驚き、フレンディスが彼の腕を掴む。
「な、何だ!?」
「あ…魚のようですね」
おそるおそる片足を少し上げてみると、足の下には青魚が倒れている。
「どうしてこんなところに?」
「ボックスが空いていたりして、誰かが落としたのか?」
「そうなのでしょうか…」
「いや、違うか…」
“落し物ではなさそうだ”と気づいたベルクは不快そうに渋面を浮かべた。
そこらじゅうに魚の死骸が転がっていた。
ところどころ傷ついている様子を見ると、鳥や獣が魚にかぶりついている。
森のレストランというではないだろう。
だが、こんなに集まっているのは奇妙だ。
「わざわざ森に入って釣った魚をばら撒くのは、頭のイカレたヤツくらいだよな」
「そういう危険人物がいるなら、村に入る前に校長が教えてくれるはずですからね…」
2人はおそらく魔性の仕業だろうと考える。
「さすがに服は落ちていないみたいね」
「それは、まだ無事ってことかもね、セレン。通信機器が見当たらないのは、外部との通信手段を奪ってそうしたのか、自分の媒体にしたいのか…不明ね」
「なんか一緒に遊びたいってわけじゃなさそう。捕まえて遊ぶっていうなら、もっと騒ぎ声が消えると思うし…。憑依する目的でもないかも。もしそうなら、やたら物を川に捨てるなんて意味不明すぎるもの」
何のために連れ去ったのだろうかと考え込む。
「川が見えてきました…っ」
「行きましょう、ベルクさん」
「あぁ…」
無残な死骸から目を離し、フレンディスとレイナたちを追う。
川にたどり着くと、グラキエスたちがすでに調査を進めていた。
「何か見つかりましたか?」
「今、ちょうど落し物を拾っているところだ」
フレンディスが川に視線を落とすと、行方不明者の所持品と思われる、バッグや靴などが川底に沈んでいる。
「私も手伝います」
レイナは靴を脱いで川岸に起き、所持品を拾う。
川岸では真宵はバッグを覗いている。
「結局、お宝はなかったわね…」
がっかりとした様子で呟きながらも協力する。
「何よ、この人。携帯とか持ってないわけ?」
「電子機器類が苦手な人だったのでは…?」
「えぇー。…んー、ありえないこともないけど。本当にそうかしら?」
見るからに大人の女が持っていそうな、ブランド系バッグなのだが、通信手段を何も持たないのはおかしいと真宵は首を傾げた。
バッグの中にはファイルも入っている。
おそらく仕事で扱っているものなのだろう。
中は水に濡れているせいで、文字などは全てぐちゃぐちゃにぼやけていて何も見えない。
外回りなどなら仕事柄、携帯などを持っていてもおかしくはない。
これを見る限り、バッグの所持者は仕事で来ていたのだろう。
会社と連絡するための手段を持たず、歩き回るのは妙だ。
「おーい、グラキエス。パソコンや携帯とか、川に落ちていないか?」
「今のところ、電子機器類は落ちていないようだ」
「いったいどういうことでしょうか、グラキエス様」
「またグレムリンの仕業とは考えにくい…。ここまで酷いいたずらをするような感じはなかった」
「えぇ…遊び足りないとしても、人を直接襲う魔性ではないでしょうから」
他の機械に憑くような者の仕業だろうと考える。
「コレット、何か見つかったか?」
「えぇっと…。あったよオヤブン!…んーと、何かなこれ?」
「見せてくれ。…これは、爪だな。それも人のな」
「え、えぇええ!?」
驚いたコレットがそれを凝視する。
その持ち主の姿はなく、川に流されたか、別の場所に連れて行かれたのだろう。
「まだ生きてるのかな…」
「さぁ、それは分からないけど。もし、危険な目に遭っているなら、早く探してやらないとな」
「じゃあ今すぐ…」
「それは無理だ、コレット。相手の正体や、どこに行方不明者がいるのかも分からないのに、探しようがない…。村に戻って、皆が集めた情報を聞かないとな」
「う、うん…」
今すぐにでも探しに行きたいが、断片的な情報のみでは発見するのは難しい。
一輝の言う通り、今は必死に我慢する。
コレットが現場をカメラで撮ると、タイミングよく和輝から一輝に連絡が来た。
「こちら和輝、そちらの様子はどうだ?」
「森の中にある川にいるんだが…。行方不明者の物と思われる所持品と、傷を負った動物を発見した」
「了解。こちらは、傷ついた動物を大量に発見した。今、リオンに治療をさせているところだ」
「そっちにもいたか…。俺たちはもう少し調査を続けてから、昼までには村に戻る」
「では、俺たち3人は先に戻るとしよう」
「分かった。…それじゃ俺は、カメラのデータを皆に送るか」
一輝はデジタルビデオカメラのデータを、銃型HCを経由して皆に送信する。
「届いたか…?」
「んー?ネットに繋がらないんじゃ、届いてないんじゃないの」
「そうか。あとはモールス信号しかないか…」
ヘッドライト付ヘルメットの光を点滅させ、モールス信号を送ってみる。
「オヤブン、まだ日が高いから見えないと思うよ?」
「あー…そうか」
「でね、相手と離れすぎていたり、そのライトだと木の上まで光が届かないんじゃない?」
「あぁ〜…、そういうことなのか」
他の者への通信手段の代わりに、発炎筒をくれたのだとやっと理解した。
「誰もいないようですわね…」
グラキエスたちと離れた場所で、綾瀬は漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を脱ぎ、木の枝をハンガー代わりにかける。
「リトルフロイラインも水浴びしましょう」
「はい!」
少女は元気よく返事をすると、纏っていた服が植物の蔓へと変わり、それはしゅるるると身体から離れて消えた。
「冷たくて気持ちいいですね、綾瀬様」
「えぇ。もう昼近くですから、かなり暑くなってきましたわ」
「水浴びっておもしろいですね!」
「(問題は、一連の事件が魔性の仕業だとしたら、セイニィ様をすきに出来る程の力を持っているのですから。気を引き締めないといけませんわね…)」
はしゃいでいるリトルフロイラインに微笑みかけた。
その笑顔の裏側は険しく、セイニィを連れ去った者について考えていた。
村の風呂を利用しなかった理由は、観光客や現地民、更にはセイニィまでもが行方不明になっているため、その誰もが立ち寄りそうな川に何かあるのでは?と予想したからだ。
注意深く周囲を見ながら水浴びをしていると、そこへ何者かの影が迫る。
ルカルカたち女子は、誰か覗きに来ないか監視している。
「―…今のところ、誰も来ないみたいね」
「なぁ、川で調査するやつもいるだろうし。危ないんじゃねぇか?」
「綾瀬がいるの知らないで来ちゃうこともあると思うの。ルカたちが止めるから大丈夫♪覗きはビンタするけどね」
「ねぇ、誰かこっちに来てるよ!」
「もう来ちゃったの!?」
「なんだか周りを気にいるみたいですよ。覗きでしょうか!」
ルカルカと歌菜は綾瀬たちの元へ駆けた。
「覗き!?んな危ないヤツ、ぶっ飛ばしてやる」
「陣くん、見ないでっ!!」
「はっ…?おぶっ!!?」
綾瀬たちに迫る者に、仕置きをしようと木陰から出ようとした瞬間、陣はリーズに力いっぱい殴られ、地面に突っ伏した。
「ひでぇ、気絶してんぞ」
「哀れだな」
ぴくりとも動かない陣に、カルキノスと羽純が哀れみの目を向けた。
「そこの怪しいやつ、止まりなさいっ」
ルカルカは両腕を広げ、影の主の前に立ちはだかった。
「…俺のことか?というか、怪しいってどういうことだ」
「オヤブンは、川で調査しているだけよ」
「え、そうなの…?」
「覗きじゃなかったみたいですね」
「―…は?覗きって…」
安堵の息をつく歌菜の視線の先に、顔を向けようとする一輝だったが…。
「いやーっ、見ないでオヤブン!!」
大声で叫ぶコレットに、頬をバシンッとビンタされた。
「な、何するんだコレット」
「だって、そっちは見ちゃいけないんだもん」
「見るなって、何を…。うわぁあっ!?」
その先には綾瀬たちがいることを知らずに、いったい何があるのか気になり、見ようとすると再び激しく頬を叩かれた。
「あら…、どうなされました?」
川岸に戻り、ドレスを着た綾瀬は何事かと聞く。
「なんかほっぺたがすごいことになってますよ…?」
リトルフロイラインもすでに、服を纏っている。
「おいおい、こっちも相当ひでぇことになってるぞ」
陣を引きずりながら来たカルキノスが、まとめてグレーターヒールで治してやる。
「すみません…。ちょっと水浴びしていたもので…」
「…そういうことだったか」
なぜいきなりぶたれたのか、ようやく理解した。
「川で調査を行っていたということですが。何か発見出来ました?」
「あぁ、いろいろとな。もうすぐ昼だから村に戻るところだ」
「そろそろ私たちも戻らない?綾瀬」
「えぇ、そうしましょう」
一輝たちが村に戻るということ聞き、綾瀬たちもジャタの森から出ることにした。
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