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渚の女王、雪女郎ちゃん

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渚の女王、雪女郎ちゃん
渚の女王、雪女郎ちゃん 渚の女王、雪女郎ちゃん

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「ヒラニプラならルカも住んでるよ! 麓の方だけど、もう少しすると紅葉が綺麗でいいよね!」

 ルカルカと淵と一緒にテーブルに座った雪女郎は質問攻めにあっていた。

「雪女郎ちゃんの家かぁ〜。どんな感じのお家なの? 行ってみたいなぁ〜」
「こら、あまり詮索することもなかろう! 困っておるではないか」

 横から淵に怒られてルカは少ししゅんとする。

「あ、そういえば雪女郎ちゃんって名前なんていうの?」
「名前?」

 ルカルカに問われて雪女郎は首を傾げながら考えるが出てこない。

「雪女郎って種族の名前でしょ? あなた個人の名前よ。呼び名って言ったほうがいいかしら」

 考えているようだが、それでも出てこないらしい。
 そんな様子を見て淵が疑問を口にした。

「おまえ、もしかして名前がないのではないか?」

 少し考えてそうかもしれないと小さく答える。

「名前ってないといけないものなの?」
「う〜ん、そういわれちゃうとなくても困ることはないのかもしれないけど……あ、そうだ! 友達になるときに名前がないと困っちゃうよ」
「名前がないと友達になれないの?」

 うー、とルカルカが困り始めたのを見て、淵が変わりに話し出す。

「友達にはなれるさ。でも名前がないと、友達が自分を呼んでくれる嬉しさと言うものは分からないだろう」

 あ。
 雪女郎ちゃん。
 そう呼ばれて心がぽかぽかしたのはあのときの自分。
 一人だと思ったときに、一人じゃないと分からせてくれたときの他人の優しさ。
 そうか。あれは嬉しいって感情だったんだ。

「名前がないというなら、どれ、俺がつけてやろう。つらら、なんてどうだろうか」
「つらら?」

 つららは小さな小さな水滴から大きな大きな氷へと変わっていく。ぽたりと落ちた水滴が冷やされて凍りつき、どんどん大きな形を作っていくのだ。

「気に入らんか?」

 ぱちくりと瞬きして淵を見ていた雪女郎だったが、すぐに満面の笑顔に変わって元気にありがとうと答えた。

「いいってことだ。このカリスマの夏侯淵様に名前を付けてもらう機会などそうそう――」

 ふふんと得意気に語る淵の言葉は、集団ちみっこ軍団によって遮られてしまった。

「ねぇねぇ、あっちで一緒に食べようよ〜」
「せっかくだし私もいろいろお話したいです。えっと……」

 千結の提案にミュリエルも続いて口を開くのだが、雪女郎を見て少し困ったような顔を浮かべている。
 こそっとルカルカが耳元で名前を言うのよ、と呟いてようやく雪女郎は名前を聞かれているのだと理解した。

「つ……つらら」

 消え入りそうな声で呟かれた名前だったが、ミュリエルたちの耳には確かに届いていたようだった。

「素敵なお名前ですのね。もっと早くにお聞きすればよかったですわ」
「あ、あの、皆でいたら、きっと楽しいよ」

 賢狼に乗ったルナの後ろに隠れるようにしながらついてきたアニスも、おずおずと出てきて恥ずかしそうに告げる。

「そうと決まったらさっそく皆でパーティーだー!」

 ロートラウトがつららの手をとって走り出す。
 それを追いかけるようにミュリエルやルナたちも走っていった。

「さっそく出来たようじゃないか。友達」

 その様子の一部始終を見ていた淵が嬉しそうにつららたちを見て笑う。

「あら、混ざってきてもいいのよ。淵も十分ちびっ子なんだし」
「何だと! 俺を誰だと――」
「英霊の『かりちゅま』、でしょ?」

 ニコニコと笑うルカルカの横で淵がごとりとテーブルに沈んだ。


「まったくこのあたしのどこに負ける要素があったっていうのよ!」
「えりりんやきょーちゃんだけならともかく現役アイドルのこの私が負けるなんて信じられないっ!」

 きぃきぃと文句を言っていただけの二人だったが、ここでぴしりとエリスの眉間に本格的なしわが刻まれた。

「ちょっとそれどういう意味?」
「何ようっさいわね!」

 次第にエスカレートしていく言い合いをおろおろとした様子で見つめるきょーちゃんのもとへ、瀬山がすすいと現れる。

「あんさんも大変やなぁ。どや、そのストレス我が妬み隊で発散せぇへんか?」

 ふふふと商売人の顔をして瀬山がじりじりと距離を詰めていく。

「今ならもれなく癒し系ぬいぐるみと五寸釘セットをプレゼントやで!」
「い、いりません!」

 そんなつれないこと言わんとって〜ときょーちゃんを追い掛け回す。
 浜辺は夜だというのにこんなにも賑やかだ。

「みんなお待たせ〜買って来たよ〜!」

 セレンとセレアナが店長たちとともに買ってきたのは大量の花火。
 ひゅるるるぅと音がして高く高く上って空に華を咲かせた。
 何輪も、何輪も。
 空に咲いてはすぐ散ってしまうけれど、それはとても綺麗な火でできた花。

「夏もいいもんでしょう?」

 セレアナに聞かれた言葉に、つららもまた顔をほころばせるのだった。


 来年は、もっともっといい夏になりますように。
 暑さ対策もしっかりしていこうっと。

 パーティーのあとに皆で取った集合写真をひとしきり眺めた後、つららは今日も次に訪れる夏の日を夢見ながら目を瞑るのだった。



担当マスターより

▼担当マスター

宇角尚顕

▼マスターコメント

 最後まで読んでいただきありがとうございます。
 参加してくださった皆様方、本当にありがとうございました。
 少しでも楽しみながら読んでいただけるような物になっていればと思います。
 それではまたどこかでお会いしましょう。

 宇角尚顕