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リアクション
「キャーキャー」
肝試しの些細な仕掛けで楽しそうに悲鳴を上げているのは、蒼空学園のツインテイル娘小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。
一緒についてきている、パートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)とはつい先日恋人同士になったばかり。付き合い始めたばかりの二人は、一緒にイベントを楽しみたいと思って仲良くやってきたのだ。
「ちょ……ちょっと……くっつきすぎだよ美羽……」
さっきから大して怖くもない仕掛けに大はしゃぎして自分の腕にしがみついてくる美羽に、コハクは顔を赤らめる。
「!」
俯くとますます目のやり場がなくなって、コハクは視線を彼方に逸らした。
何しろ美羽の浴衣は超ミニなのだ。健康的で真っ白な美しい脚線は、闇夜の森の中でも映えた。それを、美羽は大胆に近寄らせてくるのだ。
健全だがシャイなコハクは肉感的な刺激もあいまって、頭が半ばエラいことになりそうだった。
そんなコハクの表情を美羽は面白そうに覗き込んでくる。からかうような、それでいて真意を探っているような……イタズラっぽく無邪気な笑顔。
これが……恋人というやつか……。
幸せのあまり、コハクはごくりと唾を飲み込んだ。
そう、リア充。間違いなくリア充だ。ということは……。
「……」
邪悪な気配を察知して美羽の表情が変わっていた。厳しくて凛々しい……、こちらもいい、とコハクは見とれる。
瞬きするより早く、美羽は動いた。潜んでいたテロリストたちを発見し、問答無用で蹴りつける。
「胸小さくて悪かったわね!」
「ああっっ、誰もそんなこと言ってないのに……」
苦笑気味のコハク。
ゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシ!
【金剛力】を使った強烈な蹴りで容赦なく片っ端から蹴り倒す。
なぜなら、コンプレックスを刺激されたから。
今年18歳になったのに美羽はまだ小さい。まあ、その……色々と……。
それなのにパイ拓を取ろうなんざコンプレックスを刺激する存在だった。
許さない。相手が泣くまで蹴りつけて……。
「……!?」
ふと、正面に現れた人影に美羽とコハクはとっさに飛びのく。
マスクにマントの怪しい男。手に墨のついた紙を持っている。謎の人物、『ジェラシード仮面』。こいつは、ザコじゃない、と二人にはすぐにわかった。それが証拠に……。
「【神速】+【自在】!」
拳聖の秘奥義スキルが『ジェラシード仮面』から放たれる。
「!」
二人は飛びのくとすぐに身構える。
「……下がっていて、美羽」
相手の実力を見て取ったコハクは恋人を庇うように前に出た。あの温和な性格で戦いを嫌うコハクが。大切なものを命を賭けて守る真剣な男の顔で。
二対一だ。負けはしないだろう。だが、相手も素人ではないどころか、かなり強力な使い手だ。闘っている最中に怪我をするかもしれない。そんなことは、絶対にさせない。
「……コハク」
美羽は思わず見とれてしまった。
「……」
『ジェラシード仮面』が無言で迫る。それに対し、コハクも構える。
緊張の対峙で空気がピンと張り詰めた。
「ひゃぁあぁぁっはぁぁぁああぁっっ!?」
間抜けな叫び声に、ガクリと何かが崩れたような気がした。
「お疲れ様〜、みんな、お帰りの時間よ〜」
木の上に現れたのは、黒髪ロングに変なマントをつけた一人の女だった。
「貧・微を愛し、爆・奇を憎む……
黄金率を持つ女。
その名も
金!
色!
バストオォォッ!」
ぶっわさっ、とマントを翻したのは屋良 黎明華(やら・れめか)だった。
いや、今は「美乳」で「脅威の黄金率ボディ」を持つ、謎の女、黄金バストだった。
どっかぁあぁぁぁぁぁん! と背後で爆音が鳴り響き、プシューと白い霧が吹きだした。
「ひゃっはあっ! 激しく抵抗する人、パイ拓ハンター狩りの人の相手は『金色バスト』に任せるのだ〜!」
いや、やめておけって! と突っ込みたくなるほど、ばかばかしくなってコハクは脱力した。完全にやる気を失って振り返ると美羽もクスクスと笑っている。
「……」
『ジェラシード仮面』は、逃げ遅れたテロリストたちを回収すると、そのまま姿を消した。
「あ、逃げられちゃった!」
美羽が木の上を見上げると、さっきの変な女もいない。敵の気配がサササ……と消えていくのがわかった。
「まあいいか」
彼女はニッコリ微笑む。きょうはコハクのちょっといいところ見れたし。
二人は手を取り合うと、また楽しみを満喫するのであった。
「ひゃっはあ! 用宗たん、お帰りの時間なのだ〜」
金色バストがパイ拓テロリストたちの集まっている場所へと帰ってきた。
いや、メンバーはもうほとんど残っていない。あのベンチの二人組みの少年も、結局名前も活躍シーンもないまま退場していた。知らない間にボコボコにされて今頃病院のベッドの上だろう。
十分成果も挙げられたし、退却するしかなかった。
「私、結局巨乳には勝てなかったな……」
名残惜しそうに言う用宗たいらに、金色バストはひゃっはーとマントを広げる。どうやら慰めてくれているらしい。
「子供の頃から、ママや叔母さんが『貧こそ正義! 貧こそ美学!』って散々聞かされてきたので、貧で悩む事なんて全然ないのだ〜♪」
「ありがとう、金色バスト。私……明日からまた普通の女子生徒に戻るわ」
ムシがいいかもしれないけど、とたいらは笑って、森の外へ歩き出した。
「ひゃっはああ! パイ拓ハンター狩りや警備員は、この金色バストに任せるのだ〜」
金色バストはマントを翻すと、ぶわりと走り去っていった。追っ手をひきつけて安全に帰れるようにしてくれるのだろう。
他のパイ拓テロリストたちも、散り散りにいなくなった。それをしばらく見送って、心から礼を言う。
「ありがとう、みんな。こんな私に最後まで付き合ってくr」
たいらはその場にぺたりと座り込んでいた。
「あ、あれ……?」
身体に力が入らない。いや、それどころか体調が……。
「ごふっ……!」
血を吐きながら、たいらはばたりとその場に倒れる。
「あ、あう……」
「【悪疫のフラワシ】だよ。しびれ粉まで効いてきたかな……」
フリーテロリストたちと行動を共にしていた毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が説明してくれる。仕掛け主は彼女だった。
「あらら、完全に猛毒が回っちゃってるね。まあ運がよかったら助かるでしょ。バットでボコボコだけはやめておいてあげるよ……体力の無駄だし」
大佐は、たいらの身体を探って麻痺と猛毒で動かないのを知ると、スカートの中に手を突っ込む。するり、と白いパンツを引き剥がした。
「あ……」
「じゃあね。ちょっとは楽しかったよ。パンツもたくさん手に入ったし」
それだけ言うと、大佐は鼻歌交じりに去っていった。
「……」
たいらは目を閉じる。
人々は去り、森に再び静寂が戻った。
パイ拓テロの夜はこうして終わったのであった。