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リアクション
「諸君、私はリア充が嫌いだ。
諸君、私はリア充が嫌いだ。
諸君、私はリア充が大嫌いだ
海で、山で、街中で、学校で……。
この地上に存在するありとあらゆるリア充が大嫌いだ」
森の中の一角。
暗闇の中、薄ぼんやりとした光に照らされながら現れたのは、蒼空学園の誇る『HIKIKOMORI』上條 優夏(かみじょう・ゆうか)だった。
今夜、彼がここに登場したのは当然理由があった。正しい引きこもり道を説き間違った非リアの有様を是正するためであった。
優夏は、満足げに頷く。
目の前には、彼のカリスマを信じて彼方からやってきた配下たちが集まっている。
この光景を見た大勢の一般人は、彼が一人で喋っているように見えるだろう。だが違う。彼には見えているらしい。本人がそう言うのだから、そうなのだろう。
この森で死んだと言われる非リアの幽霊たちの姿が。
優夏はゆっくりと続ける。
「リア充の勝ち誇ったような目つきが嫌いだ。
リア充の放つ甘いオーラが嫌いだ。
リア充に居場所を奪われ地べたを這い回るのは屈辱の極みだ。
諸君、私は“パイ拓”を地獄のようなパイ拓を望んでいる。
我々はわずかに少数派の敗残兵に過ぎない。
だが、諸君は一騎当千の非リアだと確信している。
我々の消えることのない嫉妬の炎で、リア充たちを燃やし尽くしてやろう。
連中に恐怖の味を思い出させてやる。
さあ、逝くぞ諸君。死して屍拾うものなし。
紙と墨ならたくさん準備はできている……」
どこかで聞いたことのあるような演説を終え、彼は呼応を呼びかける。自分の言葉で。
「えーか、リア充どもに死を! 非リア充に永遠の安息を! 立てよ非リア充! ジーク、ニーート!!」
「ジーク、ニーート!!」
答えてくれるのは、優夏の【ドッペルゴースト】だ。
高らかに応じ返してくる幽霊たち。実はドッペルゴーストの一人芝居だった。
パイ拓ハンターばかりでなく、かつて無念の死を遂げた強力な怨霊が今ここに蘇ったのだ。まあ、多分……。
彼らは逝く、森の中を。死の行進の始まりだった。
「許さへん。許さへんで、どいつもこいつも……」
非リア幽霊を引き連れた優夏は所構わず攻撃を始めていた。
「リア充爆発しろ!」
「お前らも爆発しろ!」
リア充はもとより、テロを企んだ非リア充の連中までまとめて幽霊をけしかける。主な攻撃は【ドッペルゴースト】だが。
「ぎゃああああっっ!」
「ひゃ〜っは! お前らの嫁(二次元)の事なら心配すんな。HDDの全消去は任せとき!」
「お、おのれ……、何モンなんだお前は!?」
「HIKIKOMORIや!」
彼にはポリシーがあった。
本来、非リア充はHIKIKOMORIしつつ、リア充爆発を自宅で延々と呪って自滅させるのがあるべき姿! テロする時点でリア充に落ちたも同じ!
「お前らみたいなハンパモンがおるさかい、真面目なHIKIKOMORIまでが色眼鏡で見られるんや! 次世代の非リア充の安住の地を脅かさん為にも、お前ら全員爆発や!」
リア充爆発しろも理解できるが、テロを企てた非リアも許せない。
リア充も敵、非リア充も敵。手当たりしだいに暴れ始めた優夏に、周囲は大混乱になる。
「ヒーハー! 全員墓穴へHIKIKOMOらんかい!」
「穴があったら入るべきなのは、キミでしょ! ……本当にもう、恥ずかしい!」
不意に、そんな優夏の背後から聞き覚えのある声がかけられる。
「……」
ギギギ……と振り返った優夏の視線の先に、パートナーのフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)とチルナ・クレマチス(ちるな・くれまちす)が二人並んで立っているのが見えた。
「げっ、フィー、チルナまで!? なんで、こっそり出てきたのに!?」
「こんなことだろうと思って様子を見に来たのよ。せっかく可愛い浴衣まで着てきたのに何やってるのよ!?」
ずいっと迫るフィリーネ。
「ねー、ひりあじゅうってな〜に〜? おもしろいひと〜?」
こちらはチルナ。そこにいる人と遊んでいいと聞いているから魔法で遊び始める。すなわち、問答無用で【氷雪比翼使】や【アシッドミスト】を撃ち始めた。
「はは……」
優夏はじっとりと汗をかきながら引きつった笑みを浮かべる。ほんの少しだけ言い訳を考えて。不意に彼方を指差す。
「……あ、あれは!?」
「え?」
フィリーネとチルナがそちらを見た瞬間を見計って、優夏は脱兎のごとく逃げ出した。
「キミって人は……」
走り去ろうとする優夏にフィリーネが魔法のステッキ【愛天使ステッキ《ヴェリテ》】を振りかざす。
「夏祭りに行こうと思ってたのにこんな所でカップルさんの撃滅の片棒担ぐなんて、周りの迷惑な人達ともども少しは反省しなさーい!」
【崩落する空】が優夏に直撃した。
ぎゃああああ、と断末魔の悲鳴を上げ、優夏は倒れ伏した。
「無念……非リア充死んでもHIKIKOMORIは死なず、や」
それだけ言い残すと優夏はガクリと動かなくなった。
そんな彼を、フィリーネが引っ張っていく。
「もう自分もリア充なの認めなさいよね、さー夏祭り行くわよ……あたし達の夏の思い出に、ネ」
「あ、まって〜、あたいもいく〜」
非リアへの攻撃も飽きたチルナが後から追いかけてきた。周囲に死屍累々の被害を残して。彼女らは去っていく。
「なつまつりで、あたい、たこやきたべたい〜」
そう言ってから、ふとチルナは赤くなっているフィー見つつ聞いてみる。
「ふぃーはゆーかのことすき?」
「え? そ、それは……」
とにもかくにも。
こうしてよくわからない幽霊騒動は終わったのだった。