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リアクション
四
第二班受験者:緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)、七篠 類(ななしの・たぐい)
第二班は、セレンフィリティ・シャーレットの作戦にまんまとはまり、最も距離のあるルートを取ることになった。しかも【ヒプノシス】のせいで眠気に襲われ、集中力も途切れがちだった。
おまけに【その身を蝕む妄執】で、気味の悪い幻覚まで見せられた。手の平ほどのゴキブリやムカデが足元から這い上がってくる。すぐに幻と分かったが、いい気はしない。
更に類の手元から、「さざれ石の短刀」が奪われた。向きを変え、持ち主である類を襲う。
「おっとと!」
類が飛んでくる短刀を避けていると、今度は歌が聞こえてきた。【悲しみの歌】と【恐れの歌】だ。
「これはいけません……」
陽子は歯を食いしばり、アンデッド:レイスを呼び出した。
「朧さん、敵を見つけてください」
「朧さん」は、絵本から抜け出したような、白いふわふわしたレイスだ。陽子の命令に従い、歌声に導かれるよう三人の後ろへ向かった。ややあって、「キャア!」という叫び声と共に、歌が止まった。
「今の内!」
透乃の合図で、三人は駆け出した。「さざれ石の短刀」は、途中まで追いかけ、曲り角でぽとんと落ちた。
巻物の部屋は真っ暗だった。灯りがないだけではない。【エンドレス・ナイトメア】のせいだ。
陽子は部屋に足を踏み入れるが早いか、【ディテクトエビル】で敵の存在に気付いた。はっと顔を上げ、【神の目】を使う。閃光が弾け、天井から何かが落ちてきた。【エンドレス・ナイトメア】が解けたのか、たちまち闇が晴れていく。
そこにいたのは、黒くぴったりとしたボディスーツと面を被った何者かだった。まるで鴉だ。
「クッ、クケケ、ギヒヒヒヒヒィ!!」
奇声を発し、その鴉はぴょんぴょんと狭い部屋の中を飛び回った。巻物は目の前の床の間にあるが、近づけない。素早いために狙いも定まらない。
「私がぶん殴ってやる!」
部屋に入ろうとする透乃を、陽子が止める。透乃の攻撃は素手だ。当てるためには、とにかく手数を増やすしかないが、下手をすれば部屋事態を破壊しかねない。そうなれば試験は失格だ。
「任せてください」
陽子は虚無霊:ボロスゲイプを呼び出した。ボロスゲイプは大きな口を開け、部屋の中身をぱっくりと丸ごと飲み込んだ。
数秒してボロスゲイプが消えると、ダメージを受けた鴉が横たわっていた。透乃が素早く部屋に入り込み、巻物を手に戻ってくる。
陽子は透乃を先に行かせた。しばらく見ていたが、鴉は動く様子がない。やがて、十分時間を稼いだと判断し、陽子は障子を閉めると己も透乃の後を追った。
鴉が気づいたのは、その少し後だ。
「酷い目に遭いました……食べられるなんて……」
レイカ・スオウ(れいか・すおう)は半べそをかいている。彼女の体から離れたユノウ・ティンバー(ゆのう・てぃんばー)は、不満そうだ。
「暴レ足りなイ!!」
「まあ、次があるから……」
「次こソ、ボコボコにスる!!」
これを機に明倫館の生徒と友達になろうと思っていたレイカであるが、無理そうだと思い始めていた。
「天下一刀流一番弟子、クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)だ! いざ尋常に勝負!」
透乃の前に立ちはだかったのは、「栄光の刀」を正眼に構えたクリスティーだ。
「上等!!」
透乃はにんまり笑い、正面から突っ込んだ。無防備な特攻に、クリスティーは躊躇った。透乃の頭を狙うつもりだったが、当たれば死ぬ。咄嗟に軌道を逸らし、彼女の肩へ振り下ろす。
だが、透乃は【龍鱗化】で肉体を強化していた。クリスティーの刀が肩にめり込んだ。肉が裂け、血が噴き出すが、刀が動かない。
「そんな!?」
愕然とするクリスティーの顎目掛け、拳を叩き込んだ。クリスティーは吹っ飛び、柱に頭を打ち付けて気絶した。
透乃は刀を引き抜いた。どばっと血が噴き出し、すぐに止まる。見た目より傷は浅いが、痛みはある。治療は必要だろう。だが、相手も本気だったという証拠だ。僅かな間だったが、
「楽しかったよっ」
透乃は笑いながら、類の待つ場所へ向かった。
夏休み前のことだ。
登校した類は、耀助から親しげに声を掛けられた。慕われているのかな、と思ったのはその時だけだった。すぐ後に、平太から次の授業について尋ねられて気づいた。
先輩だと思われていない、という事実に。
だから補習に参加した。成績が悪かったわけでも、出席日数が足りなかったわけでもない。断じてない。ちょっと新入生と交流してもいいかな、と思ったりしたことは否定しないが。
だから、ちょっと張り切っていた。
【殺気看破】で周囲に気を配りつつ、敢えて堂々と出口から出てみた。――頭上から、タライが降ってきた。
ぐわわん、と頭の中がシェイクされ、それでも一歩踏み出すと、そこに落とし穴があってずっぽりハマった。
「な、何だ、くそ……」
類は頑張って這い上がった。すると今度は目の前に、白い何かがそこにいた。それも二つ。怖いとは思わなかった。レベルの低いお化け屋敷のようだ。問題はその近くに、
「そこだ!」
「さざれ石の短刀」はなくしたので、ブッチャーナイフを投げつけた。
「ぎゃぎゃ!」
地面から飛び出したのは、親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)だ。
「何するんだぎゃ〜」
「それはこっちのセリフだ。変な悪戯をして……大人しく道を開ければよし。さもなくば」
「やっつけて、スバの食べ物食わせてやるぎゃ!」
夜鷹は【鬼眼】で睨んで、類の攻撃力を下げた。だが類は構わずに突っ込み、【実力行使】で夜鷹の体を引っ繰り返すと、そのまま落とし穴に放り投げた。
「何するぎゃー!」
「ま、こんなもんだ。ゴメンな」
類は穴の中に謝り、ぎゃーぎゃー叫ぶ夜鷹を置いてゴールを目指した。
第二班 全員合格
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