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リアクション
まるで夢を見ているようだった
勝手に動く体、目の前で戸惑う良く知った仲間達……全てがスクリーンの向こうの出来事のように展開されていく
その全てを、何の感慨もなく無機質に眺めていた自分の意識が不意に波立った
突如、質の悪いスロー再生のように流れ出した周囲の光景を眺めながら
まるで【思考】という行為を、今まで忘れていた様にぼんやりと霞がかった感情が疑問符を描く
私……なんでここにいるんだっけ?
確かゲームのゲストとして呼ばれ、一通りのゲームルールやシステムを泪から聞き、仮想世界にログインした
自分の役割どおり、最終ダンジョンと呼ばれる塔の入り口で共に挑戦者と呼ばれる参加者と出会うのを待つだけ
そんな自分に呼びかけた声があって……ふと気がついたら着慣れない格好をさせられて……それで
そこからの意識はない、だが記憶だけはあるようで、頭にうかぶ様々な情報と光景がピースとなって繋がり
何となく今起こっている光景、そして自分の状況も理解する
その結果が、目の前の自分の良く知る全ての仲間達の行動と表情を呼び起こしている事を解っていながら
それでも、自分は自分の置かれている状況も、原因すらに対しても怒りや混乱の様な心の波を荒立てる事は出来なかった
『あれ、怒ってないの?』
うん、だって悪気があってやったわけじゃないんでしょ?
そりゃあんな毛恥ずかしい格好させられた時はびっくりもしたし、文句は一杯あるけどね
『でも、今はもっと大変な事になってるよ?それでみんなは凄く怒ってるし』
まぁ、怒るだろうね……そこらへんは、その……ちょっと前に似たような事で皆を困らせた事があって……
『え、そうなの?……うわ、知ってればもうちょっとやり方変えてたのになぁ』
仕方ないよ、だってこれを決めたのは君じゃないんでしょ?
それに君に悪意なんてない……なんか随分悪ぶってるけど、この状況に一番戸惑ってるのは君でしょう?
『あ〜……いや、それは………』
誤魔化しても無駄よ?私も伊達に修羅場はくぐってないからね、そういうのはわかるつもりよ
それに、こうやって色々君ともリンクしてるから、尚更ね
……でも、それと君の行動が良いか悪いかは別だから
しょうがないから手伝ってあげるけど、ちゃんと後々ハッキリさせてもらうからね……君にこんな事を頼んだ人に
『あ、うん……でも悪いけど』
どうせ元に戻ったら、この記憶も消去される……そう言いたいんでしょ?
でもね……気持ちって言うのは魂みたいに体に残る
だから、絶対この瞬間、君との会話を忘れたとしても……私は絶対君を追いかける
ううん、そうじゃないか……私の仲間が絶対君も、すべても突き止めてみせる
『………そうかもね
ちぇ、フツーにゲームを賑やかにしながら、それでデーターを取るつもりだったのにさ
【特定の状況下におけるヒトの心の動きを仮想世界でシュミレートする】
それだけの事だったのに、裏道やらハッキングやら誰かさんの説得とか救出とか……エライ騒ぎになったもんだよ
ま、モトは十分取らせてもらったけどね……あれ、笑ってる?』
ごめんごめん、でも君もこの世界の……私の仲間達を知らなさすぎね
何にだって全力全開……どんな状況でも、自分達が決めた行動は絶対に曲げない
本気でぶつかりもするし、本気で手も取り合うのよ……そんな人達が集まれば、想像通りになんか進まないわよ
『そうだね、ひとつ……いや、とても勉強になったよ
じゃぁ悪いけどあとはよろしくね、フリューネ・ロスヴァイセ』
言葉と共に、関係はさておきこの世界に関わったときから共にあった存在が立ち去るのを感じた
半分電子の情報と化した自分の最大限の能力を使い【彼】の痕跡を手繰り寄せる
【彼】の存在した痕跡にはたった4文字の後しか残ってなかった
【M】【A】【D】【・】【A】
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「少々予想外の展開であるが、想定範囲内ではあるな
元よりあの招き猫の所業としては事が大きいとは思っていたのだ、これで合点はいった」
『……で、どうしますか魔王殿、カオスのデーターの採取は容易ではなくなりましたが』
「こちらの立場は変えぬよ作戦参謀、かわらずの仕事を遂行せよ
敵も動揺の純度の高い思考AIをもっているのだ、今この戦闘を記録しておくだけでも収穫になる」
『わかりました、では御武運を』
十六凪と通信を終え、再び目の前の戦闘に専念する【魔王クロノス】ことドクター・ハデス(どくたー・はです)
うすうすと察知していた第三者…真の黒幕と思しき存在がわかった以上、現在の共闘関係を破棄しても良いのではあるが
あえてこのまま戦闘を続ける事を選択した
元より戦闘はここだけでなく、外では変わらず【メカフリューネ】との戦闘もあり、何か巨大ロボまで出ているらしい
完全なゲームバランスの崩壊はこの世界の維持を限界まで導きつつあるようだ、そこで態々悪を貫いて妨害するメリットはない
……だが、目の前の状況は極限の極みなのも確かだ
【フリューネ】という存在に縁のある連中が、ほぼ本人が操られているに等しい【カオスフリューネ】にどう立ち向かうのか
それを見極めるべく、今度は逆に方針を変更して戦闘に加勢しようとする面々に【魔剣カリバーン】を突き出した
(もっとも剣本体の聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)あたりがどう思っているかは解らないのだが……)
「ククク、さあ、プレイヤーどもよ、全力でかかって来るがいい!
その戦闘データ、我らオリュンポスが開発する兵器のAI用に有効活用してくれるわ!」
再び某秘密結社側の妨害が再開される一方
単なる邪魔のつもりで参加したヒラニィの方は内心冷や汗を流しまくっていた
(おかしい……普通のゲームの用にPKとは行かずとも悪役を楽しむはずが、何かリアルで悪者ではないかい?)
ゲームに誘ってくれなかった腹いせもあり、選んだ道とはいえ
この一方的にKYと思われても仕方が無い状況は、不本意以外のナニモノでもない
当の仲間の鳳明すらえらくマジ気味な怒りのオーラを感じる……このままだとリアルに戻っても何かされそうだ
(せ、せめてこちらの本心ぐらい気ついてくれれば助かるの……大丈夫、奴らとも長い付き合いじゃ)
情けと叙情酌量の余地を求めるため、戦いながら必死に鳳明にウィンクを送ってみる地祇様
そのシグナルに気がついた天樹がそれを数秒凝視し、思案に暮れた後……何か彼女通信で話している様だった
束の間のやり取りの中、改めて自分を見つめ直す仲間の眼差し……そして鳳明の口が開かれるのをヒラニィは見た
(おお!わかってもらえたか!流石は我がパートナ……)
「自分達のやってる事が解ってるのに【てへぺろ★】なんてふざけ過ぎにも程があるよねっ!
フリューネさんの事が第一なのはかわらないけど……全力で反省してもらうからね!」
「通じてねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ヒラニィの不条理への嘆きでこちらも戦闘の幕が再び上がる
真っ当にゲームを貫く者ほどその傾向が強いのは、まこと人の心のなせる業とか何とか……
しかし、真にそれが試されているレンやリネン、アイビスやパフューム達は、逆に連携も取れず翻弄されるばかりであった
みんなを支援するべくアダムとヴァルがカオスのパラメーターを調べ、その数値を見て言葉に詰まる
クラスステータスこそキャラらしく【魔剣士】であるものの、パラメーターは初期設定と違いフリューネと同じ数値らしい
通常なら一蹴してしかるべき戦力差だというのに、それでも互角のバランスを保っているのが何よりの証明であり
力技よりも精神的なプレッシャーの方が効果的的と踏まえられた、消えた黒幕の最後の置き土産は見事というほか無かった
何より精神的な負荷は、体力数値のそれより明確にリネン達の根本的な体力を削っていく
それでも他の者が僅かな戦力を注いでの加勢を試みるのだが、ハデスがそれをさせず戦力は拮抗するばかり
一番フリューネの身を案じるものが、その想いゆえに満足に連携と戦闘ができない皮肉に多くの者が苛立った
冷静かつ非情な思考で考えれば、単純に彼女を倒せば目標を達成できる事は一目瞭然なのだが
その際のフリューネの身の安全については何も語られてはいない……その懸念が戦闘の進展を遅らせる
戦わないと決めた意志を変える事もできず、リネンとアイビスはひたすらカオスに呼びかけ続けていた
「やめてフリューネ!もう戦う理由はないでしょう!このままあなたが生存する方法があるはずよ!」
「リネンさんの言う通りです!システムを解析すれば、あなたと中にいる【フリューネ】を分離する方法だって!」
「まだ言うか!誰も馴れ合いの生存などに協力を求めてはいない!勝手にこの世界の断りを乱すなっ!」
二人の言葉を一蹴したカオスが【タービュランス】を放つ
それをかろうじて【カウンター】を駆使してリネンが回避する、本来なら【メンタルアサルト】で心に訴えかけるつもりだったが
彼女の存在を定義できない迷いがそれを遅らせ、突風の渦の中から彼女めがけてカオスが飛び出してきた
「リネンさんっ!!……くっ!!」
ガードが間に合わないリネンをかばおうと、カオスの前にアイビスが飛び出した
とはいえ、彼女事態も防御手段の選択の余裕がなく、体でその魔剣を受け止める事となり衝撃でリネンの方に吹っ飛ばされる
パートナーの被弾を知り、急ぎ朝斗とパフュームが迎撃に向かう中、リネンがアイビスを抱き起こす
傷ついた機晶の体で動けないものの、かろうじて致命のダメージは回避できたようだった
「ごめんなさいアイビス……私のせいで」
「いいえ……私が同じ事なら、リネンさんだって同じ事をしたはずです、大丈夫……気にしないで下さい」
ニコリと微笑むアイビスの痛々しい姿に歯噛みするリネン
本当はどうすれば良いかは皆わかっている、だがその決意にどうしても踏み出せない
それは自分の甘さでだけではない……自分の【救出】という決意に多くの人が協力してくれた想いを切り捨てる事ができない
顔を上げれば、遠くでパフュームの【サンダーブラスト】を掻い潜るカオスの姿が見える
不意にその目が合い、その眼差しに絶えられず、どうしようもない想いと共にリネンは遠くにいるカオスに叫んだ
「どうしたら…如何したらあなたの剣を止められるの!?
あなたの欲しいものは何?教えてよ!……私に出せる物なら…なんなら……私をあげてもいいいから」
それ以上言葉が続かない彼女を見下ろしながら、カオスはつまらなそうに返事をする
「……お前のデーターをベースにすると?……思い上がるなよ
そんなつまらない私情で剣を捨てるような腑抜けなら……私の手で消してやる!」
言葉と共に、瞬時に稲妻と迎撃の群れを掻い潜り、カオスがリネンの目前に迫る
(ああ……あなたに倒されるのも、いいかなぁ)
【ライド・オブ・ヴァルキリー】その何度も見慣れた技による神速を目の当たりにし、目の前に突き出された槍を見て
リネンは一瞬、その黒い誘惑に身を委ようと、目を瞑る
だがその刹那、無数の銃弾が二人の間に割って入り、リネンの前に現れる赤い影があった
「いつまで微温湯に浸っているつもりだ、リネン・エルフト」
「レン!」
「俺達のやるべき事は既に決まっているはずだ、いちいち迷う事が空賊の仕事ではないだろう!」
銃口を変わらずカオスに向けながら、背中越しにリネンに向けてレンは言葉を続ける
その矜持としての正論に心を揺さ振られながら、それでもリネンは赤いコートの男に反論する
「あなたはそれでいいの!あなたの想いだって私に負けてないはずよ、なのになぜそうやって銃を向けられるの」
「戦う事をアレは望んでいる、それを断る事こそ彼女の冒涜になるのなら……俺は迷わず銃を取る事を選ぶ、それだけだ」
【強化装甲】によってレンの銃弾を防ぐカオスに、朝斗や美羽、パフューム達が挑んでいく
銃口を下ろす事無くそれを見つめたレン……だがその銃をおろし、まっすぐにリネンの方を見る
「俺がこれから言う言葉はお前が決めた行動に反する物だ、そして俺の行動にも反するだろう
だが今から俺はお前の枷を外す、この戦いに俺が……俺達が終止符を打つ為に!」
サングラス越しにも曇りなく突き刺すレンの視線がリネンを貫き、彼女を動かす言葉が彼の口から電光の如く放たれた
「かつてお前は言ったはずだろう!?……リネンを他の誰にも殺させない、殺すのは自分だと!
そう言ったその魂が変わらないのなら……今こそ共に在ることを願う物として、剣を取るべき時だ!……戦え!」
レンの言葉に呼び起こされる記憶
……そう、それは同じように【孤高の戦姫】が囚われた時に自分に刻み込んだ誓いの言葉
それは彼女の中で呪いの様に縛り付けられていた闘志を奮い立たせるのに十分だった
言葉の真意を受け止め、彼女は遠くでここに辿り着き、顛末を見守る仲間達を見る
レンの言葉は彼女達にも聞こえていたのだろう
ヘイリーが……ユーベルやフェイミィが彼女の行動を察し、行けと強い眼差しで後押しする
ここからは決めた行動ではない、彼女の……そして多くの【フリューネ】を想うもの達で築く物語の終焉
リネンを筆頭に、全ての者の眼差しが変わるのを見て【カオスフリューネ】は満足そうな笑みを浮かべ、戦いの宣言をする
「ようやく決心が付いたようだな……ならば興じるとしようか、この余興の終幕になぁ!!」
言葉と共に【絶対闇黒領域】を発動するカオス……そこからは、ただただ純粋な戦いだった
この混沌のゲームに信念を持って辿り着いた者達が集えば、結末は簡単だったのかもしれない
それでも敵役に徹したハデスこと【魔王クロノス】達の応戦もあり、戦いは拮抗した
だが長い戦いとはいえ、終焉は近づくもの……
カオスの放った何度目かの【タービュランス】を掻い潜り、リネン達がカオスに特攻を駆ける
それをさせまいと【魔王クロノス】がメティスとレイナの猛攻を掻い潜り立ちはだかる、だが……
「これ以上、邪魔しないで!」
背後から言葉と共に放たれたパフュームの【ファイアストーム】が魔王に炸裂する
「無駄だ!そんなものこの配下の【魔鎧】の力でっ!」
言葉に見える余裕の通り、それでも【魔鎧モード】で彼を守るアルテミスの力で凌ぎ
炎熱の中カリバーンを振りかざし、リネン達めがけて『カリバーンストラッシュ』の構えを取る
だがそのタイミングを狙ったかのように、炎の中から彼の前に飛び出す影があった
「これ以上邪魔はさせないっ!!」
影……鳳明が魔王の構えが完成した瞬間を狙い、その手元に【黒縄地獄】を打ち込んだ
【チャージブレイク】と【神速】で倍化されたそれは、決定的ダメージを与える事は出来なくても、動きを止めるには十分な威力
衝撃に耐える魔王の脇をリネン達は通り過ぎ、目の前のカオスに肉薄する
「面白い!まとめて相手をしてやろう!」
言葉と共に放たれる【乱撃ソニックブレード】……闇の威力が倍化されたそれが近づく集団を散らし、直線状の連続攻撃を封じる
それでも個々の戦意と勢いは潰える事無く、一番手のごときレンのナイフがカオスの死角から襲い掛かる
それを察知済みと剣撃で相殺し、続けて美羽とコハクの連撃を受けながら、なおもその脇腹に剣を叩き込んでいく
最後の力を使い果たしたとばかりに吹っ飛ぶ二人だが……その顔に笑みが浮かんでいるのをカオスが察すると同時に
正面からリネンが襲い掛かる……その剣を魔剣で受け止め、腹部に蹴りを叩き込み、そのまま彼女に追撃とばかりに剣を振り上げる
だがそれすらも戦術……振り上げた手が無数のワイヤーで拘束され、動けなくなる……朝斗の【鋼の蛇】の力である
もちろん、そんな力に長時間拘束されるラスボスではない……だが、その動けない一瞬があれば次につながる
そのワイヤーを強化された力で引きちぎった瞬間、腕に別の衝撃が走り、先端から石化が始まった
石化の腕に突き刺さったそれが【物質化】するのを見て楽しげにカオスが、その武装を投げた天樹を見た
「【さざれ石の短刀】か……やるな!」
そして彼女の眼差しが蹴りで飛ばされたリネンの方に向けられる
彼女の【空賊王の魔銃】はしっかりカオスに照準が向けられ、その反対側からレンの【魔導刃ナイト・ブリンガー】も襲い掛かる
どちらにしても連携であるいじょう、どちらかは被弾する……それによって崩れた体勢に続け様に攻撃が繰り出されるに違いない
「………チェックメイト……というわけか」
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
穏やかに目を瞑るカオスに迷いを吹き散らすような咆哮と共に二人の攻撃が続けざまに炸裂する
連撃を喰らいながら、HPを減らしカオスのそれがゼロになっていくなか
二人は微かな……カオス本人も気がついていない呟きを聴いた気がした
『お疲れ様……ごめんね、また迷惑かけて……ありがと』
その呟きは、彼女の消滅の光と共に僅かな光となり……周囲で見守る全ての者の心の中を通り過ぎていった
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