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■開幕:嵐の前の静けさ
青天であった。
夏の暑さは影をひそめ、やや肌寒くなった気温が秋の訪れを知らせている。
雲一つない空。心地よい風。それだけならば良い収穫日よりだったろう。
たった一つ残された問題がなければ。
村の北側に広がる畑は丘の地形を生かした段々畑となっている。棚田とは違って稲だけではなく、カボチャやニンジン・ジャガイモにサツマイモなど数多くの野菜が作られている。西側は樹林となっていて栗や柚子が実っていた。
「これは壮観ですねえ〜」
キリエ・エレイソン(きりえ・えれいそん)が眼下に広がる田園風景を眺めながら感嘆の声をあげた。
彼の視線の先には段々畑が広がっている。ただそれだけならば絶景というだけで終わるのだが――
「これ全部がそうなのか……面倒事引き受けちまったな」
キリエと同じように田畑を見下ろしていた佐野 和輝(さの・かずき)がため息交じりに呟いた。
彼の言う面倒事とはキリエの見ていたものに他ならない。
畑をよくよく眺めていると実っている作物がうようよと動いているのが分かる。それは視界に収まったすべての畑で起きているようで、言ってしまえば村一つが冬を越すのに困らない程度の食材が動き回っている事実を意味していた。
たとえるなら庭に生えた雑草の一つ一つが勝手に動き回っているようなものだ。これを面倒と言わずしてなんと言えばいいのか。
「これは大変だな。まずは近くの畑から順に対処するか。お先に失礼するよ」
メーデルワード・ローゼンフェルト(めーでるわーど・ろーぜんふぇると)が佐野に会釈をするとキリエ、セラータ・エレイソン(せらーた・えれいそん)、ラサーシャ・ローゼンフェルト(らさーしゃ・ろーぜんふぇると)らを連れ立って畑の方へと下りていく。
「僕、カボチャプリンとポタージュが良いな〜」
ラサーシャの言葉にならばとメーデルワードが続いた。
「ああキリエ。私はカボチャパイが良いな」
考えることは皆同じのようでセラータも二人に続いた。
「それなら俺はカボチャの煮つけとカボチャを練り込んだパンが良いです」
仕事を始める前に食べることを話している皆にキリエは言う。
「わかりましたよ。きっちり仕事をすればお礼にカボチャを頂けるとのことなので明日は南瓜フルコースですね〜! 今日は大きな鍋を囲むイベントがあるとか。そちらもとっても楽しみです〜♪」
誰もが食べることを楽しみにしているようである。
そんな陽気な声にあてられた、というわけでもないだろうが佐野が背後で佇んでいる二人に声をかけた。
「ちゃっちゃと終えてゆっくりするか」
「うん! いっくよ〜」
「いくですよお〜」
アニス・パラス(あにす・ぱらす)とルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)が『おーっ!』とやる気を感じさせる掛け声を叫ぶ。そんな二人の姿を見ていた高崎 朋美(たかさき・ともみ)と高崎 トメ(たかさき・とめ)らが武器を片手に話す。
「お子たちには負けられまへん。うちらも向かうとしまひょ」
「そうだね。ボクたちもやることやらないと、ね」
朋美は言うと手を開いて火を起こした。ゆらゆらと火は揺れながら強さを増したり減らしたりと調節されてゆく。
「焦がしたらあきまへんよ」
「トメさんも気を付けてよね」
朋美の視線はトメの手にしている物に向けられている。
軍用ショットガンだ。野菜にでも撃ったら粉々になること請け合いである。
「安心してうちに任せよし」
トメは笑みを浮かべると朋美の背中を軽く叩いた。
行こう、ということなのだろう。朋美もトメの肩を軽く叩くと歩き出した。
彼女たちの進む先では剣を振り回したり、カボチャを凍らせたりしているキリエたちの姿があった。
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