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リアクション
第四章 少年と老魔女
消火が完了する前。
「確かに悪い事をするようには見えんな。利用されているという線が濃厚だろう。グィネヴィアと知って近付いたのかもしれん」
幽は少年の姿を確認しながら言った。
「……イングリット=サンの言葉アタリです」
アリステアは幽に力強くうなずいた。
「そうだ。しかし、情報はまだ足らん。聞き込みをする。情報はあればあるほど標的に遭遇した際、有利になる」
幽はやるべき事を説明する。他にも情報収集を担当する仲間達はいるが、多くて困る事はない。
「ナルホド。ジョウホー社会ですね」
アリステアは自分なりに納得していた。
「……まぁ、そうだな。落ち着かせ、怪しまれず速やかに情報を手に入れる。聞き込みの相手選びも間違えてはならん」
アリステアの納得の仕方に多少気になりながらも後続指導を続ける。アリステアを立派な忍者にするために。
「……アノ人はどうですか」
アリステアは周囲を鋭く見回した後、一人の派手な格好をした若い女性を指さした。どことなくお喋りが好きそうな印象。
「よかろう。行って来るのだ。落ち着いて聞き出せ」
幽はアリステアにアドバイスをして送り出した。
「……下忍候補見習い補佐代理くらいには役立つか」
幽は聞き込みに行くアリステアを見守りながらつぶやいていた。
「……あ、あの、この少年=サンについて何か……その」
アリステアは少年の画像を見せ、顔を赤くし、どもりながら訊ねた。
「……大丈夫か」
送り出したものの心配になる幽。
「この子? あぁ、知ってるわ。ティル・ナ・ノーグから来たって、百合園の行き方を聞いて来たのよ。それで恋人でもいるのかって聞いてね。ちょっとからかいたくなってさぁ。恋人でなくて故郷にとって大切な人でその人の力になりたいとか言ってたわ」
女性はじっと少年を見た後、思い出したように笑いながら話した。
「……サンキューです」
アリステアは任務達成にほっとし礼を言って幽の元に戻った。
「そうか。ティル・ナ・ノーグから来たのか。よし、追跡を開始する。ここの土地勘は無いと考え、来た道を戻ったと考えるのが一番だろう。見つけ次第、確保し、事情を聞き出す。見たところ少年はおぬしと同年代わかりあえる事もあろう」
アリステアから情報を聞いた幽は少年の行動について推理し、次の行動を決める。
「リョーカイです」
アリステアは元気に返事をする。
「今までの修行をサンズリバーなどと弱音を吐いていたが、今度からは更に厳しくなるぞ!」
幽はこれからが本番と言わんばかりに表情を厳しくし、語調も強めた。
「ダイジョウブです」
アリステアの返事は先ほどと同じく元気だった。ここで白狐面に黒の強化骨格スーツに早着替え。
「よし。ではわらわをおぶって追跡を始めろ。これも修行の一環だ。おぬしにとってチャメシ・インシデントだろう?」
幽はさらなる修行を課す。
「モチロンです」
考える事無く即返事し、幽を背負った。
「まぁ、まだひよっこ……初の実戦ゆえ見落としも多かろう。おぬしの背中からビシバシ指導していくから安心しろ」
背中から幽。
「……では、少年=サンがマッポーめいた事件に関与していることはメイハク。何者かがリヨウしているのやもしれぬ。悪はタオスべし、慈悲は無い……インガオホー、しからばゴメン!」
アリステアは気合十分の様子で口上を述べた。
「……よし、百合園に向かう道を急げ。少年を発見した際、わらわ達を見て逃げるやもしれん。その時は得意の手裏剣で足止めすればよい」
アリステアの気合の口上が終わったところで幽の指示。
「スリケン?」
「……クナイでもよい」
聞き返すアリステアに持っていないと判断した幽が代用としてクナイを口にする。
「はい。クナイならあります」
そう言ってアリステアはクナイを出して見せた。
「では、追跡開始だ」
幽の合図でアリステアは屋根へと移動。
「……屋根を伝わなくてもよいのだぞ」
幽が聞く。このまま疾走するとばかり思っていたので。
「ニンジャリアリティショック回避です」
アリステアは、一般人が忍者と遭遇する事でパニックになる事を恐れているのだ。そのための屋根から屋根への移動。
「……ニンジャリアリティショック……まぁ、よい。行くぞ」
幽は気にはなるが、突っ込まず追跡を促した。
火事も起きて騒がしいので地上を行ってもそれほどパニックにはならないとは思うのだが、屋根の方が相手にとって奇襲になるかと思ったり。
アリステア達は屋根から屋根へと追跡を始めた。ちなみに少年の情報については幽が他の仲間に連絡を入れた。
グィネヴィアから事情を聞いた後、
「事情を聞いたところ、少年はただ利用されただけの可能性が高いわね。それでどうするつもり?」
コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は答えを知りながらも葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)にこれからの事を聞いた。
「犯人を見つけて退治するでありますよ!」
吹雪はコルセアの予想通りの答えを口にした。
「……確かに元凶を叩いた方が速そうよね。そうと決まれば情報収集ね」
コルセアは遠くの火の手を見ながら言葉を吐いた。
「行くでありますよ!」
吹雪の合図で犯人退治が始まった。
「何だこれはあちこちから火が……大量放火か」
たまたまヴァイシャリーにいたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)はあちこちから上がる火の手や煙を観察し、街の異常を認識していた。
「……何か事件か……イングリットさん、か」
エヴァルトが今の状況について推理を始めようとしていた時、イングリットからの救援要請が入った。
「……シャレじゃ済まない事件だな。友の友も俺の友、さて奔走するとしようか!」
エヴァルトは急いでイングリットの元へと駆けつけ、情報を得るなり犯人捜しに急いだ。
「大変です! 先ほどイングリットさんよりご連絡があり、グィネヴィアさんが何やら大変な事態になっているとの事でして……こういったものはマスターが御詳しいのではないでしょうか?」
イングリットからの救援を受けたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)はベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)に訊ねた。
「……そうだが、とりあえず詳細が必要だ」
そう言い、ベルクは詳細確認に今度はこちらからイングリットに連絡を入れて説明を求めた。
話が終わった事を見計らい
「マスター、どうでしたか」
フレンディスは説明を求めた。
「エロ吸血鬼、さっさと話すのです」
忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)がベルクを促す。
「……話は」
ベルクは詳細を語った。
「そうですか。確かに火事が見えます。あれも犯人の仕業なのですね」
フレンディスは建物から立ち上る炎に視線を向けながら言った。
「……子供を利用し、グィネヴィアを狙わせた。何が目的か聞き出したいところだな。聞いたところでろくなものじゃねぇだろうが」
忌々しそうなベルク。話からグィネヴィアに接触した少年は犯人に利用されている事は明白。そして、そのような事をする人物がまともではない事も明らか。
「マスター、犯人捜しですね。今日はマスターの力になりますよ!」
フレンディスはぐっと握り拳を作りながら力強く言った。いつもはベルクに助けて貰っているばかりなので今回はその分以上のフォローをしたい。溢れる好奇心は控え真剣任務モードに変わっていた。
「……あぁ。とりあえず、情報が欲しいな」
フレンディスの元気な返事に不安になりながらも気持ちを受け取るベルク。
その時、フレンディスに幽からの連絡が入った。
話を終えたのを見計らって
「ご主人様」
ポチの助は話すように促した。
「新しい情報ですよ」
そう言ってフレンディスはアリステア達が聞き込みで得た少年の追加情報を話した。
「……故郷にとって大切な人、ティル・ナ・ノーグか。確かグィネヴィアの出身もそうだったな。その共通は偶然とは思えねぇな。もしかしたら犯人も同じ可能性がある。事件発生という事は、この街でも何か起こしているかもしれねぇ。おい、お前の方で手掛かりになる情報漁れねぇか? つかハイテク忍犬言うならやりやがれ」
「グィネヴィアさんを助けるためにお願いします」
ベルクの乱暴な頼みとフレンディスの必死な願いにポチの助は嬉しそうに尻尾を振った。
「エロ吸血鬼の頼みなんかききたくありませんが、グィネヴィアさんのためとご主人様の頼みなら仕方がありません。ご主人様、この僕の優秀なるハイテク忍犬としての力で必ずや犯人を見つけ出しますよ!」
ポチの助はすっかり優越感に浸っている。ベルクより役に立っていると。
「ごたくはいい。さっさとしやがれ」
「ふふん、エロ吸血鬼。この僕にそんな口を聞いていいと思っているのですか」
ベルクの急かす言葉がますますポチの助を喜ばせる。
「ポチ、お願いします」
「……ご主人様、任せて下さい」
フレンディスの言葉でポチの助はノートパソコン−POCHI−を使うために獣人姿に変わり、グィネヴィアの国やこの街で今回と関連があるものは無いかと検索し始めた。
『コンピューター』、『情報通信』を持つポチの助はすぐに検索を終えた。
「……ご主人様、グィネヴィアさんの国の情報はありませんでした。でも……」
グィネヴィアの国については未開の地のため思ったように情報が集まらなかったようだ。『博識』、『ナゾ究明』による知識と推理で今回と関連性が高いと思われる記事を発見していた。
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