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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

リアクション

 火事現場。巨大な建物が激しい炎と煙を伴いながら真っ黒になっている。それに混じって助けを呼ぶ声も聞こえて来る。

「声がするな。早く救出にいかなければ」
 現場を見上げながら声を上げる陽一。

「……救出された人の手当は私がします」
「消火は俺がする」
 救援を呼んだローズと淳二。

「俺も手伝うぜ」
「これはひでぇ」
 白銀とソーマも駆けつけた。

「……あっ」
「ヨッシュ君、大丈夫だよ」
 ヨッシュと北都も現れた。ヨッシュはあまりの現場に驚いていた。

「父さんとエンは!?」
 きょろきょろと父親と妹がいないかと焦った様子で周囲を見回すヨッシュ。どこにも家族の姿が無い。嫌な予感が胸によぎる。手に持っていたチョコバーは焦りのせいで手から離れていた。ヨッシュはその事には全く気付いていない。
「ねぇ、どこにいるんだ。知ってるんだろ」
 ヨッシュは消火に集まったお姉ちゃんやお兄ちゃんに涙を浮かべながら必死にすがる。
「俺が今から助けに行く。だから待ってろ」
 陽一はヨッシュと目を合わせ、力強く励ましてから燃えさかる建物の中へと侵入した。ナノ強化装置で有毒な煙に対抗し、消火のための『氷術』とナノ熱感知センサーを使い救出へ向かった。
「……うん」
 ヨッシュは幼稚園での交流で顔見知りである陽一の顔をじっと見ていたがこくりとうなずいて見送った。
「泣くな。ほら、大切な物だろ」
 淳二はヨッシュが落としたチョコバーを拾い、優しく手渡した。
「……うん」
 ヨッシュはうなずいて妹にあげるチョコバーをしっかりと受け取った。淳二は陽一の援護のために『氷術』による消火を始めた。

「心配しないで、ヨッシュ君」
「……姉ちゃん」
 ローズはヨッシュの頭を撫でながら励ましてから何とか逃げ出した被害者の手当を始めた。
「俺達が絶対に家族に会わせてやるからな」
「オレも手当と救出を手伝うぜ。ヨッシュはここで大人しくしてろ」
 ソーマと白銀も手当と救出に乗り出す。その前に白銀はヨッシュに大人しくするように言ってから。
「……うん」
 ヨッシュは白銀にうなずきチョコバーを握り締め、大人しく待っていた。

 消火は順調に進み、どんどん取り残された人達の救出を完了していく。
「……救出したぞ。煙にやられている」
 ソーマが現れた。ソーマは『リジェネレーション』で多少の火傷を回復しながら煙にやられた女性を背負っていた。いくら回復出来ると言っても痛いものは痛いだろうが、気にしている場合ではない。
 次々と救出が続く。
「……煙とひどい火傷だ。急いで手当を頼む」
 陽一が重傷の男性を背負って外に出て来た。
「……子供を見つけたぞ。ぐったりしてるから頼む」
 白銀が小さな女の子を抱えて外に出て来た。発見時、女の子は陽一が助けた重傷者に守られるかのように抱き抱えられていた。
「えぇ、任せて。そこに寝かせて」
 ローズは陽一と白銀に安全な場所にある布の上に寝かせるよう指示をした。
「……行って来る」
 陽一は再び建物中へ。炎は少しずつ鎮火しつつある。
「えぇ、お願い。一つの命も失いたくないから」
 ローズは額に汗を浮かべながら陽一を見送った。絶対に犠牲者を出してはならない。
「煙を吸った奴はオレが手当をする」
 と白銀。
「俺は子供の手当だ」
 とソーマは子供の所に向かった。全ての治療を一人に任せていては助けられるものも助けられなくなる。大事なのはチームワーク。
「ありがとう。お願い」
 ローズは白銀とソーマに礼を言い、重傷者の治療に急いだ。

「……この現場が一番ひどいねぇ。他の建物に火が移らない内に消火をするよ」
「あぁ。救出活動も完了しつつあるが、消火を終わらせないと」
 消火をするのは北都と淳二の『氷術』。
 火事は程なくして消火され、建物内にいた人は全て救出されたが、治療は続いていた。

 様子を見守っていたヨッシュの顔色が変わった。陽一と白銀によって救出されたのは
「……父さん、エン!!」
 父親と妹だった。家族の姿に涙の混じった声を上げるヨッシュ。妹には多少のかすり傷はあるが火傷も煙による意識障害も無く熱でぐったりしてるだけだった。発見された時、妹には煙を吸わないようにハンカチが当てられていたのだ。深刻なのは父親。娘を守ったためか火傷を負い、煙もかなり吸っていた。
「おれのせいだ。エンがここを出ようって言ったのにおれがまだここで遊びたいって言ったからだ」
 ヨッシュは泣きながら自分を責め始めた。
 実は、ヨッシュは家族と現場となった場所に遊びに来ていたのだが、少しして妹が違う店に行きたいと言い出したのだ。ヨッシュがまだ遊びたいと主張するも父親にお兄ちゃんだから我慢しろと言われ思わず飛び出したのだ。いつもつも妹優先で我慢出来ずに。父親と妹はヨッシュが外に出た事を知らず、建物内を捜し続け被害に遭ったのだ。
「……大丈夫だから」
 ローズはすぐに重傷者、父親の治療を始めた。
「妹の怪我の手当は俺がする」
 ソーマはローズが父親の治療に専念出来るようヨッシュの妹の手当を始めた。妹は消毒し、包帯を巻くだけで十分だった。ソーマはヨッシュの妹の額に手を当て火照った体を冷やすために『氷術』を軽く使った。
「……兄ちゃん、大丈夫か」
 ヨッシュは手当を終えたソーマに訊ねた。チョコバーを持つ手にぎっしりと汗。
「もう心配無いぜ。目が覚めたら声をかけてやったらいい」
 ソーマはヨッシュを安心させるように言ってから他の怪我人の手当に向かった。
「……」
 ヨッシュは心配そうに父親と治療するローズを見つめていた。
「……おい」
 消火を終えた淳二がぽんとヨッシュの肩に手を置いた。
「……兄ちゃん。おれのせいで」
 ヨッシュは気付いて淳二の顔を見上げ、自分を責める言葉をまた洩らす。
「おまえのせいじゃない。悪いのは火をつけた奴だ。おまえは何も悪くない」
 淳二はヨッシュを励ました。
「……うん。でもおれが言う通りにしてたらこんな事になってなかった」
 淳二の言葉は頭では分かりながらも心では納得出来ていない。
「そう思うなら妹とお父さんが目を覚ましたらきちんと謝るんだよ」
 北都が優しく言葉をかけた。
「……うん」
 ヨッシュは妹と父親を見てからこくりとうなずいた。