空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

壊獣へ至る系譜:炎を呼び寄せるディーバ

リアクション公開中!

壊獣へ至る系譜:炎を呼び寄せるディーバ

リアクション


■ 捜索からの発見 ■



 住民は既に避難していたので駆けつけた村には村長と数人が残っていただけだった。
 話を聞けば、住民の避難で手間取りようやっと落ち着いてこれから救援を呼ぼうか決めようとしていた所だと言う。
「むしろ契約者様たちが来てくださり有難い限りです」
 村長から盛大に感謝されたのを思い出して柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は唇を引き結んだ。
「村で起こったトラブルなのに、別の人間がツァンダ家に連絡を入れた。と考えていいだろうな、この場合」
 銃型HC弐式・Nを弄る。
 村長と、少女の両親から話を聞いて、だいたいの事情は飲み込めた。
 体の弱い娘の元に腕が良いと自称する薬師を連れて来て、薬を飲ませたら突然歌い出し、百にものぼるサラマンダーが出現し、少女を取り囲んだと言う。避難誘導の時に騒ぎが頻発したがその薬師が一緒に村を出た様子はなかったらしい。
 念のためその薬師の詳細を聞こうとしたが、首を横に振られた。男性だった以外の特徴が引き出せなかった。
 魔女の行方も尋ねたがこちらは全く見ても聞いてもいない事もわかった。
 ということは、捜し人は最低二人、か。
「つかその男もあやしいだろ」
 肩を竦める。聞けば聞くほど元凶にしか思えない。
 魔女と男、果たしてこの二つに関連性はあるのか。
「村人は居ない。つまり、家には誰も居ない。サラマンダーは村の中心に集まっていて屋内に入り込んでいる様子も無い、とすると……低い可能性かもしれないけど、賭けてみるか」
 モニター画面が切り替わったのを確認して、恭也は歩き出した。
「誰もいない家に誰かいたらスゲェ怪しいだろ?」
 熱源を頼りにツァンダ家の依頼を遂行すべく魔女の足取りを追った。



 家々の間を飛び交う様に巡り、静かに家屋の中を伺っているのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。
 他の契約者たちとの連絡もこまめに取り、逃亡中の魔女が潜んでいるだろう場所を絞り出していく。幸い恭也から入る情報がこの作業を楽にさせてくれていた。
「魔女、見つかるかな」
 サラマンダー出現の経緯は聞いた。が、そこに魔女の気配はしない。代わりに違う人物が浮上してきたが、関連が無いとも言い切れない。偶然が重なるには不自然過ぎるのだ。
「まぁ、見つければいいか。吐かせちゃえば全部わかるよね」
 皆にゴッドスピードを掛けておいたのもあってか大幅な時間の短縮がはかられ、探索作業は残す所あと数軒にまで数が絞られていて、それほど大きい村で無いのがよかったとルカルカは思う。
「(ルカ)」
 と、耳元で囁くようなダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)のテレパシーがルカルカの元に飛んできた。
「(見つけたって本当?)」
 現場に急行し、テレパシーのまま確認するとダリルは無言のまま頷き、駆けつけた契約者達に手振りだけで指示を出し協力を求めた。皆の了承を得たダリルがコード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)を引き連れ建物の出入口に移動する。
 ルカルカは再度室内を確認した。
 ソファの上に長く波打つ茶色の髪を束ねること無く背中に流し白を基調にしたいかにも魔女風の服に身を包んだ茶色い瞳を持つ見覚えのある少女。
「(魔女、ね。他にもう一人居る)」
 少女の傍らにはフードを被る黒い外套の人物が居た。
「(村長が言ってた薬師かな。 ――よし、死角に回り込んだわ。一気に突入しよう)」
 ルカルカは壁抜けの術の発動させ壁に両手を押し付けた。



 ダリルの合図で突入したのと、魔女ルシェード・サファイスがテーブルに両手を落とすように叩くのとが同時だった。
「えッ」
 目の前に出現したミイラに笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)は玄関をこじ開けたパワードアームでそのまま初撃をガードし耐えた。パワードアームから紅鵡専用の対物機晶ライフルに素早く持ち替えてミイラに数発、容赦なく撃ち込む。
 その間十秒満たず。ミイラは沈黙し後ろに倒れこんでそのまま塵となって消えた。
「見つけたよ魔女……いや、オバちゃん!」
「ごっあいさっつぅー。でもぉ、過激なの好きよぉ、あたしぃ」
 銃声の余韻を残す室内に響いた紅鵡の言葉に、ルシェードはぎゃははと笑って、乱入者全員を歓迎した。
「読んでいたか」
 呟いたダリルにルシェードはにっこりとほほえむ。
 もう一体のミイラを床に叩き伏せたルカルカは奇襲が失敗に終わった為、次の行動をすべく構えた。
「やっぱりぃ面倒な事になったなぁ、ってわわ」
 半眼で呟いたルシェードを乗せたソファが、ふわり、と浮いた。
 笹奈 フィーア(ささな・ふぃーあ)のサイコキネシスだ。それに気づいたルシェードが肘掛けを力なく叩くのを見て、紅鵡はフィーアの方を向いて出現したミイラに引き金を引いた。
 銃声音を合図に動いたのはコードだ。疾風迅雷の素早さで突っ立っていた破名に接近し狼ギフト剣を閃かせブラインドナイブスを打ち込む、追い打ちをかけるように紅鵡も対物機晶ライフルの引き金を引くがこちらはミイラに阻まれた。
「くッ」
 一撃に崩れた破名は傾いだ重心のままルシェードの腕を掴むと彼女をソファから引きずり落とす。
 ルシェードが居た空間にダリルが撃ちだしたショック銃の麻痺弾が通過した。
「おお、危機一髪」
「喜ぶな馬鹿が」
 前方にあった椅子に倒れた込んだ破名はそこで一度膝に力を入れ直し立ち上がると窓枠に背を預けて、床に転がった歩けない魔女を引き寄せ胸に抱き直した。
「全く気が逸い連中だ。先にサラマンダーの方をどうにかすると考えていたが同時にこっちも探していたとは……二兎追うものという諺を知らんのか。 ――と、抵抗する気は無いからサイコキネシスは止めてくれ。そちらの警戒を解いてくれるならこちらの警戒も解こう」
「はなちゃん白旗上げるの早すぎぃ」
 構えたフィーアへと軽く片手を振った破名にルシェードは汚いものでも見るような半眼になった。
 好戦的な魔女とは対照的に男は消極的な態度だ。それは、ここでの争いを避けているようにも見える。
「そんな白状するってことは、つまり、またテメェ等が原因って訳か?」
 警戒を解くので警戒しないでください、と言われてはいそうですかと言えない恭也が凄んだ。
 ルカルカは片手を自分の胸に当てる。
「貴女、ルシェードと言うのね。罪を償わずにまたこんな事をして……」
「え、なに、説教ぉ? 問答無用にあたしの足砕いといて説教ぉ? てね、冗談だよぉ。大丈夫心配しないでぇ。全部自覚してるしぃ、開き直ってるかあぶぶ」
「俺はお前に此処で喧嘩をさせるためにツァンダ家から連れてきた訳じゃない」
 その一言にルシェードの口を塞ぐ破名に全員の視線が集中した。男は溜息を吐いた。
「すまない。今回は俺の落ち度で騒ぎを起こしてしまった。事態を収拾したいので協力願いたい」
「協力? 説明を請おうか」
 代表してダリルが聞き返す。
「すまないが説明は出来ない。しかし、双方悪い話じゃないはずだ」
「と、言うと?」
「簡潔に言う。少女を助けたい」
「少女を、助ける?」
 誰かが呟いた。その訝しむ声音は信用出来ないと語っている。
 紅鵡が無言で銃口を破名に向けた。
「証拠にこちらは抵抗しない。先のミイラは正当防衛と受け取って欲しい」
「外道殺すべし、慈悲は無いと知れ!」
 恭也の言葉に破名は頷いた。
「気持ちは分かる。ルシェードは手段を選ばないからそこは俺も同感だ。だが今回ルシェードとは全く関係ないから、どうか割り切って欲しい」
「どうしてそいつをツァンダ家から連れ出した」
「あまり悠長に話ができるほど時間が無い――」
「本当に時間が無いのか? それを理由に物事を自分優位に進めようとしてるのでは?」
 ダリルの突っ込みに破名は一瞬黙った。唯一見える口元がやりにくそうだと言いたげに歪んでいる。
 中に居るよりは外の方が逃げ出しやすい。逃亡する機会はやらないと一歩進んだ恭也がそう圧力をかけた。
「そうだな。こんなところで隠れていられるんだ、時間あるんだろ。吐けねえってなら吐かしてやるぜ」
「同感。抵抗しないってのと白状するってのは違うからね。なんなら拷問もしてあげるよ。ボクはそういうの得意だよ」
 恭也も紅鵡も俄然やる気だ。少女の保護を目的に動いている契約者達は信頼に値する。こちらでどうこうしている間にもあちらの方が早くケリがついてしまうかもしれない。
 事件は首謀者だと語るこの男が全て吐けば解決するのだ。魔女に汲みする相手が一筋縄で行くようなら、そもそもこの様な周りくどいことも隠れることもしない。目的が他にあると見ていいだろう。そして、隙をついて逃げ出そうと画策しているのは考えるまでもない。
 縄で縛るまでは何一つ信用できないと無言の重圧を受けて、騒動の大元は沈黙した。
「はなちゃーん馬鹿みたいぃー。うぐッ」
 締め上げる腕の中のルシェードだけが騒がしい。

 ――異変は、すぐさま起こった。

「ちょ、まってぇ。はなちゃん締めすぎぃ」
 お仕置きのではなく、本気の締め付けを受けてルシェードが声を上げた。魔女の非難に何事かと契約者達は構える。
「……シャット、ダウン……した」
 恋人を掻き抱くような形のまま固まった破名は小さく呻き、片手で頭を抱える。
「どうした?」
 呻く破名にダリルは問うた。
「事情が、変わった」
 耐える様に唇を噛み締めた破名はダリルに答えると頭から腕を離し、窓を叩き割る。
「そんなに遊びたいのならリクエストに応えよう」
 ひらりとした身のこなしで窓から脱出を図った破名は、見える口を悪魔的な笑みを型どり、室内にいる人間にまるでダンスの相手を頼むかのような軽さで一礼した。
 魔女を抱えて、男は少女目指して走りだす。