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冬のSSシナリオ

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キルティス・フェリーノ

「ねぇ円華さん、円華さんから見て、ボクって変じゃありません?」
「えっ?へ、変って言うと、どんな?」

 知泉書院(ちせんしょいん)での調べ物を一旦休憩し、皆でお茶をしていたその最中。 キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)の口から出た、突然の質問に、五十鈴宮 円華(いすずのみや・まどか)は思わずオウム返しに聞き返した。
 キルティスのパートナーの東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)も、突然の質問に「おや?」という顔をしている。
 
「いえ、あの……例えば、ボクが女装してることとか……」
「ああ、その事ですか。それなら昨日も言いましたけど、私は何とも思ってませんよ。それよりも……」
「それよりも?」
「男装してるか女装してるかで、口調とか性格まで変わってしまう事の方が、気になりますね。あの、変とかじゃなくて、不思議っていう意味で」
「あー、それねー。それは実は私も、ずっと前から不思議に思ってた」

 秋日子が、ウンウンと首を縦にふる。
 円華も秋日子も、キルティスが実は男なのだという事実を、つい昨日知ったばかりである。

「うーん、それはこう、なんていうんですかね。一応、両方共同じ自分なんですよ。ただ、自分というキャラクターの持つ『幅』みたいなモノの、両極端を出してるというか……」
「細かい所は違うけど、本質的な所は一緒とか、そういうコトですか?」
「うん、そうそう。そんなカンジ」
「そう言われてみるとキルティって、男のカッコしてる時と女のカッコしてる時で、好きなモノの好みが変わったりはしないよね」
「そういえば、キルティスさんはいつでも御上先生が好きですよね……。ねぇキルティスさん、男の人が男の人を好きになるのって、どういうカンジなんですか?」

 円華は、常々気になっているコトを口にした。
 男性でもあり、女性でもあるキルティスならば、女性の自分にも分かるように説明してくれるのでは無いかと思ったのだ。

「ど、どういうカンジって……。ボクとしては、男の人を好きになった時も、女の人を好きになった時も、『好き』っていう気持ちに、特に違いはないですよ」
「エエッ!?キルティスさん、女の人好きになったことあるんですか!!」
「そりゃボクだって一応――いや、一応ってコトも無いか――とにかく男だもの。女の人を好きになる事もあります」
「そ、そうだったんだ……」
「なんですか秋日子さんまで!」
「いや。今までずっと一緒にいたけど、もしかしたら私もそういう目で見られてたのかなーと思って」
「ああ。秋日子さんにソレはありません」
「流石にそうハッキリ言われると、微妙に腹立つな〜」
「ゴメンナサイ、別に他意は無いんです。ただ、秋日子さんはあくまで親友でありパートナーであって、恋愛対象ではないと言う事が言いたかっただけで――」
「それじゃキルティは、どんな人が好みなの?」
「そうですね……例えば、円華さんとか」
「エエッ!?わ、わわわわわ私ですか!!」

 キルティスの予想外の発言に、目に見えて狼狽する円華。

「うん。もし御上君よりも先に円華さんに出会ってたら、きっと円華さんのコト好きになってたと思いますよ」
「そっかー。キルティ、円華さんもコト好きなんだー!」
「あ、あの、そのき、キルティスさん……。そ、そう言って頂けるのは嬉しいんですけど、あの、その、な、何と言ったらいいか……」

 元々が箱入り娘で恋愛経験のほとんど無い円華は、キルティスの告白に顔を耳まで真っ赤にして、しどろもどろになってしまっている。

「落ち着いて、円華さん!それはあくまで喩え話。今ボクが、本当に円華さんのコトを好きな訳じゃないんですから」
「え……?た、喩え話……」
「そうそう、喩え話」
「そうだよ円華さん。キルティ今、『もし御上先生よりも先に円華さんに出会ってたら』って言ってたじゃない」
「あ、ああ!そ、そうですね!スミマセン私ったらすっから気が動転しちゃって……」「
「でも、そんなに意外かなー?ボクが円華さんのコト好きになるの」
「んー。そうだねー。そう言われると、円華さんと御上先生って、なんか似てる所あるよねー。妙に一生懸命な所とか、理想が高い所とか。それに二人共優しくて、思いやりがあって――」
「そ、そんな私なんか、先生に比べたらまだまだ……」

 秋日子の言葉を、ブンブンと手を振って否定する円華。
 その表情には、単なる謙遜以上のモノがある。

「言われてみれば、そうですねー。そうやって考えると円華さんは、結構先生の影響を受けてるのかしれませんね」
「それは、あると思います。御上先生は、私が初めて出会った『先生』と呼べる人ですから」
「そういえば御上先生って、蒼空学園の先生になる前、円華さんの家庭教師をしてた事があるんでしょう?」
「はい、私がまだ、子供の頃の事です。あの頃御上先生は、シャンバラの各地を旅して歩いていて、その途中病気になって困っていた所にたまたまお父様が通りがかって、先生を家にお連れしたんです」

 円華の言う「お父様」とは、五十鈴宮家の家宰だった由比 景信(ゆい・かげのぶ)の事だ。
 景信と円華が血縁関係にある事は、ごく一部の人間しか知らない秘密である。

「それで、先生が病気療養のためにうちのお屋敷に逗留してる間、先生に私の家庭教師をしてもらうことになって……」

 当時を懐かしむように、遠い目をする円華。

「私が地球とシャンバラをつなぐ『絆』になろうと思ったのも、先生から聞いた外の世界に憧れたからなんです」
「はー。コレは、確かにスゴイ影響を与えてるなー、御上先生。まるで、中学校の先生みたい」
「似てくるのも、無理は無いですね」

 秋日子とキルティスは、顔を見合わせて笑った。

「それより秋日子さん、今度は、秋日子さんのお話が聞きたいです!」
「え!ワタシ!?」
「ハイ。そういえば、秋日子さんの好きな人の話とかって聞いたコトありませんけど……いるんですよね、好きな人」
「い、いいじゃないそんな、私の好きな人のコトなんて」
「え〜、気になります〜」
「そういう円華さんの好きな人はどうなの?」
「エエッ!わ、私ですか!?」
「そうだよ円華さん!円華さんが教えてくれたら、私も教えてあげる!」
「そ、そんな私は……好きな人なんて――」
「いないの?」  
「し、知りませんっ!」
「ナニナニ円華さ〜ん、顔真っ赤にして〜。怪しいな〜」
「も、もうっ!からかわないで下さい、キルティスさんっ!」


 午後のお茶会の恋バナは、このあともまだまだ続く。

 「御上倒れる」の報が届くその時が、すぐ間近に迫っていることなど、楽しげにさんざめく彼女たちには、知る由も無かった。