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・海京観光 その2


 新たなパートナーとともに海京の観光に来ているのは、レン・オズワルドだけではない。
(いろんなところを見せてあげようと思ったけど、パラミタは最近どこも慌ただしいし……やっぱりココになるわね)
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)を連れて海京を訪れた。
「真上にパラミタ周りは全部うーみー」
 祥子に巻き付いた義弘が目を輝かせ、天沼矛内にある展望台から太平洋を一望している。
「……そういえば、ニルヴァーナにあるのは、こういう『海』じゃないのよね」
 ニルヴァーナで海と呼ばれているのは夕陽海だが、あれは赤い。広大な青い海を見るのは、彼にとっては初めてなのだ。
「お母さん、ここって地面の下も海になってるんだよね?
 学校とか研究所とか大きな建物がたくさんあるのに浮いているなんて、不思議だね〜」
 ロストテクノロジーであるギフトが、地球の最先端技術を不思議がろうとは……。
 契約者であるとはいえ、地球生まれの祥子にとっては、パラミタやニルヴァーナの方が不思議の塊のように思える。というより、今でも多くの地球人にとってはそうだろう。
(慣れって怖いわね……)
 海京の街並みを堪能したところで、そろそろ地上に降りて見学に行こうとする。
 ひとまずルートを決めるため、売店で買った観光ガイドの特集を見ることにした。
「義弘、この中でどっか行ってみたいところある?」
「僕は街を見るのが楽しいから、行き先はお母さんのいきたいところでいいよ!」
 しかし、いざそう言われるとなかなか思いつかないものだ。
 祥子は、とりあえず歩きながら考えることにした。
(東地区の甘味処『わだつみ』は行ってみるとして、あとは西地区にあるSURUGAのショールームかしら? まだテスト段階の商品も展示されているみたいだし)
 街並を見たいというなら、近未来的な空間となっている西地区からが良さそうだ。
 天沼矛を降りた祥子は、西地区へと歩を進めた。
 海京区役所の前を通過し、ガラス張りのビルへとやってくる。入口にはSURUGAのロゴ。
「わぁ〜、イコンだ〜!」
 ショールームの中に入ると、多少ディティールの異なる天学系列機が飾られていた。実体翼のジェファルコンやブルースロート、ロールアウトして間もないストークの機体は純白で、背部には翼状スラスターの代わりに、エナジーウィングを展開させるためのフレームがある。
 案内板にある型番には『EX‐CHP』の文字。何らかの性能を検証するため、SURUGAの工場で製造された実験機だ。
 ここにあるということは、既に役目を終えたということなのだろう。あるいは、SURUGAの技術力を誇示するために、あえて人目につくようにしているのか。
(何にせよ、地球側も水面下で色々と動いているみたいね)
 ふと、義弘に目線をやると、彼は別の物に興味を引かれていた。
『こんにちは。何かお困りでしたら、お申し付け下さい』
 ショールームのガイドを務めている、二体の女性型アンドロイドだ。一体は遠目には人間そっくりに見える容姿で、もう一体はブルースロートを人間サイズにしたようなデザインだ。
 多少ぎこちなくとも人とコミュニケーションが取れるだけの、高度なAIを積んでいる。普通なら驚くべきところだろうが、機晶姫やギフトといった機晶生命体を知っていると、それほど凄いとは思えない。
「あれは、あなたとは違うものよ」
「うん、そうみたいだけど、どういう仕組みで動いてるのかな?」
 ギフトがそれを言うか。
 そうは思ったものの、特に口には出さない。
 ひと通りショールームの中を見終えると、観光ガイドを取り出して地図を確認した。
 改めて中を見ていると、祥子は気になる文章を見つけた。

 ――海京都市伝説特集! その3『ロシアンカフェに現れる謎の猫耳メイド』

 海京東地区にあるロシアンカフェに、ごく稀に現れる猫耳美少女。マスターが言うには「人手が足りない時、どこからともなく現れる」とのこと。カフェを手伝った後はすぐにいなくなってしまうため、彼女がどこに住む何者なのかは未だ明らかになっていない。
 一説によれば、この海京の地祇であるかもしれない。……と、ガイドには記されていた。
 猫は猫でも、ウミネコなら分からなくもないが……。
(これは興味深いわね。噂の現場に向かいながら、ちょっと聞きこんでみましょうか)
 いざゆかん、メイド探しへ!
 休憩はロシアンカフェに決め、ひとまず有名店である甘味処『わだつみ』に立ち寄り、『冬限定 抹茶汁粉』を頂くことにする。
 残念ながら、ガイドに載っている写真では顔にピントが合っていないため、顔を頼りに探すことはできない。しかしロシアンカフェのある東地区に店を構えているのなら、そこで情報も得られるかもしれない。
「ところでネコ耳メイドってなーに? 美少女? 女の人?」
 義弘が興味深げに聞いてきた。
「この写真だと分かり難いけど、インタビューとかを読む限り、相当な美少女みたいよ。なにせ都市伝説になるくらいだから、かわいくないわけがないわ」
 実は、祥子はこの人物の姿を見たことがある。しかし、それがこのガイドに載っている「謎の猫耳メイド」と同一であるなどとは夢にも思っていない。
「会えるといいねー」
 そうこうしているうちに、『わだつみ』に到着。店主に聞き込みを行った。
「ああ、それかい。見つけてどうするつもりだい?」
「……そうですね、名前を聞いて写真くらいは撮っておきましょうか」
「う〜ん、記念撮影っていうのをすればいいのかな?」
 二人の答えを聞き、店主が頷く。
「探すんなら、覚悟した方がいいよ。なんでも、猫耳メイドは仮の姿で、本来は海京警察の秘密部隊に所属するエージェントって話さね。あのロシアンカフェは客が客だから、色んな情報が集まる。要は、潜入調査ってことらしい。迂闊なことをすると、海警に目つけられるよ」
 それが冗談か本当かは、店主の顔からは窺い知れない。
 ともあれ、実際に会えれば何かしら分かるだろう。
「……まあ今日はあの店、人手が不足してるし、なによりクリスマスシーズンだ。客も多いはずだから、もしかしたら働いているかもね」
 店主に礼を言い、祥子たちはロシアンカフェへと向かった。