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・海京観光 その1


「……ここが海京か」
「そうだ。地球における『最もパラミタに近い都市』だ」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)は、パートナーになって間もないガウル・シアード(がうる・しあーど)とともに、海京にやってきた。
 天沼矛を見上げるガウル。高さ6000メートルの軌道エレベーターの佇まいに、彼は目を奪われているようだ。
「パラミタにいると、こうして見上げる機会はない。が、これがパラミタと地球を繋ぐ象徴だ」
 ガウルに簡単に説明した後、空京で買った観光ガイド『Kaikyo Walker』を開く。
 海京を訪れたことは何度かあるが、全て依頼絡みだ。こうして時間を作って散策するのは、初めてである。
「今でこそパートナーを持たないパラミタ人も気軽に来れるようになったが、それでも頻繁に行き来できるのは、空京に住むごく一部だ。パラミタ全体で見れば、まだまだ少ない」
 だから、と言葉を続ける。
「せっかく俺のパートナーになったんだ。今まで行ったことがなかった場所に俺が連れて行ってやる。
 否、言い方が悪かったな……ともに行こう」
 見慣れぬ街並みにやや戸惑っている様子のガウルを先導するようにして、レンは海京の市街地へと繰り出した。
 ルートとしては、天沼矛がある中央地区から南地区へ。そこから時計回りに各地区を見て行く。東地区を最後にしたのは、腰を下ろしてゆっくり休める場所がそこに多いからである。
「空京の街並みにも驚かされたが……それ以上だ」
 舗装された道路、立ち並ぶ高層ビル、街道に並ぶ最新式の電光掲示板。道路を走っている車には、SURUGAのマーク――最新の機晶自動車だ。ガウルにとっては、目に映る全てのものが新鮮だろう。
 レンにとってもそうだ。改めて街並みを眺めることで、気づくことも多い。もうすぐクリスマスということもあってか、天御柱学院へ続く街道沿いにはイルミネーションが展開されている。夜になれば、ライトアップされたものを見ることができよう。
 天御柱学院を外から眺めた後、二人は西地区へと向かった。
 レンにとっては、苦い思い出のある場所だ。
 中には入らないものの、極東新大陸研究所海京分所、海京警察本部と順にガウルを案内。
 北地区へ向かう前に、ふと立ち止まる。
「レン、どうした?」
 工事現場となっているそこには、かつて旧天御柱学院風紀委員会の出張オフィスがあった。
「少し前の話だ。大体一年半ほど前か……。この海京で、大きな戦いがあった。俺も友人の依頼で参戦していたが、その時の戦場がここだ」
 ここにあったビルの屋上で、レンは戦った。
「とても……後味の悪い戦いだったよ」
 クーデター自体はその日のうちに制圧され失敗に終わったが、海京は大きな被害を受けた。犠牲となった者も少なくない。民間人が被害ゼロ、というのは奇跡だ。
 黒幕は当時存在した強化人間管理課の課長で、彼が強化人間を操っていたとされるが、今でも様々な憶測が飛び交っている。首謀者とされる人物亡き今、真相は闇の中だ。
 自分の知っている限りのことを、レンはガウルに伝えた。
「…………」
 沈黙。いや、何と言っていいか分からない、という感じか。あるいは、ガウルにも何か思うところがあったのか。
 上空を、白銀色の人型が飛んでいく。ジェファルコンだ。一瞬気が逸れたところで、
「……こんなところで、あまり暗い話をするものではないな。すまない」
「いや、気にしないでくれ。例え、過去に悲惨なことが起こっていたとしても……それを乗り越えているからこそ、今のこの街がある。私としては、そういう面があるならばそれを知っておきたい。いや、知っておく必要があるのだろな」
 何かを悟ったように、ガウルが言った。
 それならば、と話を止めることなく北地区へ向かって歩き出す。その事件で最大の被害が出た場所だ。
「あれが地球の飛空艇か……」
「飛行機、と地球では呼んでいる。パラミタの人から見れば、少し異質に見えるかもしれないな」
 到着した二人は、海京空港の滑走路を遠目に見た。
「今はこうして整備されているが、ここにはかつて国軍の駐屯地だった。もちろん、なくなったわけではない。規模は小さくなったが、天沼矛のある中央地区に移転している」
 壊滅状態に陥ったこの場所も、劇的な復興を果たしている。
 観光ガイドによれば、空港では、海京土産だけでなく、パラミタ名物も一部取り扱っているようだ。といっても、土産を買うにはまだ早い。
 北地区を歩いていると、白と黒が反転した天学の女子制服を纏った少女とすれ違った。左肩には赤い「風紀」の腕章。水色の髪で、雪模様の入った青い鞘の刀を腰から提げている。天学の風紀委員だ。
 レンの脳裏に、ある少女の姿がよぎった。
 彼女は今も、この街を守るために行動しているという話だ。
「……知り合いか?」
「いや。ただ、どことなくある少女と同じ空気を感じただけだ」
 足音が遠ざかっていく。
「……そろそろどこかでひと息つくとしようか。次に行く東地区に、評判のいいロシアンカフェがある」
「異論はない。まあ、ゆっくり腰を下ろした方が話もしやすいだろう」
 二人は、観光ガイドのおススメにあるロシアンカフェを目指すことにした。