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冬のSSシナリオ

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■樹のメイド修行!?

「何でこうなった? ……どうしてこうなったぁ!」

林田 樹(はやしだ・いつき)は、
ロング丈のメイド服を着用し、【ハタキ】をもって叫んでいた。

「ハイハイ、大声出しやがるなでございますです。
騎沙良様にはこちらの使用許可をいただいていますし
本日はこちらの準備がてら、樹様のメイド修行をしやがりますです」
ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)の計略により、
樹は、ニルヴァーナに完成した『華々しきヴァレット』に連れて来られていたのだった。

「嫌だぁ!
私は力仕事なら構わん、食事の支度も……百歩譲ってまあいい。
だがな、何故『メイド修行』なのだっ! 納得がいかぁん!!」

「だぁまらっしゃい樹様っ!」

キイイイイイイイイイイイイイイイイイイン。

「お、おお……」
部屋中に響き渡るような大声で、ジーナが叫び、樹がひっくり返る。

「樹様がしおらしくなればあのバカが大人しくなって
私の気苦労が三割減になりますから……ゴニョゴニョ」


「……ジーナ、何をぶつくさ言ってるんだ?」
「こ、こっちの事情でござりやがりますっ!
さあさあさあ、始めますですよ!」

「うわぁあああああ!! 勘弁してくれぇ!」
ジーナは樹を引きずってダイニングに連れて行った。

「こんな広い部屋、どうやって掃除しろと……」
「ごちゃごちゃ言わずにさっさと手を動かしやがるです!」
「うわああっ!」

ペンギンアヴァターラ・ヘルム達に手伝ってもらいながら、
テーブルを拭き始めた樹だが。

「ハイ、拭き残しは即不潔に繋がりますっ!」
「わぁっ!!」
ジーナの激しい指導が入る。

「ハイそこ! 椅子の乱れは心の乱れそのものっ!」
「うひゃぁっ!!」
椅子を並べていた樹がひっくり返る。

さらには、ナイフやフォークを磨くことになったが。

「シルバーは一点の曇りもなく磨き上げるっ!
この曇りはなんですか、心が曇っていやがりますですよ!」
「ひぃっ!!」
樹はナイフやスプーンを取り落とし、やり直しになってしまう。

スパルタなジーナの指導に、
樹は普段の勢いはどこへやら、タジタジになってしまう。

樹がどたばたしつつ、洗った食器を割ったりするたびに、
【おたま】を振り回してジーナが厳しく指導する。

「何してやがるです、樹様!
それでは立派なメイドになれませんですよ!」

「……だ、ダメだ、このままでは、死んで、しまう……」
ぐるぐる目の樹が、倒れそうになりつつ、限界をなんとかしようとする。
「そうだ、気力を回復しなければ……。
じ、ジーナ!
あそこを見てくれっ!」
「へ? 何がありやがるんです……」

樹が使ったのは、驚きの歌であった。


「捕鯨〜♪」


しかし、樹は超絶音痴であった。
クジラ型ギフトも捕まえられるような声が、キッチンに響き渡る。


「うっきゃああああ!!」


ジーナが悲鳴を上げて倒れる。


「防衛〜♪」


樹の歌声は、ドージェも防衛できるようなものであった。
周囲の皿が割れ、
キッチンの壁にかけられた鍋が落下する。

「ふう、これで気力も回復したし、残りの仕事に取り掛かるとするか。
……ん?
ジーナ?
それにペンギンアヴァターラ・ヘルム達はどうしたのだ?」

すっきりした表情の樹は、
周りで気を失っているジーナとペンギンアヴァターラ・ヘルム達を見て、
きょとんとするのであった。