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冬のSSシナリオ

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冬のSSシナリオ
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 『ごちそうを召し上がれ』
 
 
 
 連日の訓練からようやく解放されて、ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)は久々に早く家に帰れることになった。せっかくのオフ――とまでは行かないが、まだ暗くなる前に帰れることになったのはラッキーだった。
 すぐに妻のナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)に連絡を取ると帰り支度を始めるのだった。

「……ルースさんが帰ってくる」

 嬉しい連絡の後、ナナはしばらく電話を持ったままの姿勢で止まっていた。
 久しぶりにナナの料理が食べたいと言われれば作らないわけにはいかない。もちろんそんなことを言われたら全力で作るに決まっているが、そもそも作れるメニューは限られてしまっていた。
 以前は料理の腕は壊滅的だったものの、ルースと夫婦になってからより一層努力したおかげでなんとか一般的に普通に食べられる味にまではすることができた。もっと腕を磨いて美味しい料理を食べさせたいのだが、その本人が仕事が忙しくなかなか帰ってこない。
 会えなくて寂しいという思い。
 誰かと一緒にいたいという思い。
 誰かに愛されたいという思い。
 それら全て、ルースと出会ってからナナの中で感情が大きく揺れ動いたものだ。誰かに必要とされることはあっても、必要としたいと思うことがなかった彼女にとって、ルースとの出会いはとても大きな変化をもたらした。
 そんな彼女が恋焦がれる、夫のルースが久しぶりに我が家に帰ってくるというのに、料理の腕前はそこまで上がっていない。それもそのはず。一番食べてほしい相手がいないのではナナにとって料理はただの作業に変わってしまう。
 それでも以前とは比較的に美味しくなったと言ってくれていた料理を作ることに決めて、早速材料の準備を始めたのだった。

「よし、これならば」

 ナナの腕でもそこそこ美味しく、かつ愛情を込められるメニュー。
 頑張りますと自分に言い聞かせてエプロンを身にまとった。

「ただいま帰りましたよ、ナナ」

 ようやく下ごしらえが終わっただろうかという段階でルースが帰ってきた。
 手を拭いてエプロン姿のままパタパタと玄関に迎え出る。

「お帰りなさい。思ってたより早く帰ってこられたんですね」
「久しぶりにナナとゆっくりできるんだと考えてたら、あっという間に家に着いてました」

 オレも驚いてます、と言いながら抱きしめられる。
 久しぶりの抱擁。以前よりもほんの少しだけ増した胸板。頬に当たる髭のチクリとした感触。タバコの香りに紛れた、ルースの匂い。たったそれだけのことでこんなにも安堵するものかとナナは不思議に思う。

「あ、ごめんなさい。夕飯まだ出来上がっていないんです。もう少し待っていてもらえますか?」
「ナナの手料理が食べられるなら、待ちますとも」

 申し訳なさそうに下から見上げるナナの頭をルースは優しく撫でた。

 ことことと煮込む音、トントンとまな板を叩く包丁の音。
 台所に立つエプロン姿の妻を見ながら、ルースは飼い猫のミケをじゃらして遊んでいた。
 本当は台所のナナとじゃれて遊びたいところだが、真剣に、ルースのために作っているので邪魔をするわけにもいかない。
 そつなくこなすナナのことだ。これから先、きっと料理ももっと上手くなるだろう。ルースが台所でいたずらをしても料理に影響が出ないようになるのにはどれくらいかかるのだろうか。エプロン姿の妻の後ろ姿を見つめながら夫はそんなことを考えているのだった。

 肉じゃがは落とし蓋をして少し経つし、味噌汁もほぼ完成。サラダはすでに冷蔵庫で、唐揚げは今回は油で揚げずにヘルシーにオーブンで。
 前回油で揚げるのにチャレンジしたのだが、油の跳ね具合と後処理やらで失敗したのを思い出して、大人しくオーブンに任せることにしたのだ。オーブンで焼くことによって使う油の量を抑えてヘルシーにでき、後片付けも簡単とナナにはいいこと尽くしだった。
 あとはもうまもなくご飯が炊けるのを待つばかり。
 もうすぐできますよ、と声をかけるが返事がない。居間のほうをのぞけば先ほどまでいたはずのルースの姿がなかった。
 台所に戻ろうとした時、居間の扉が開いてルースが酒瓶を抱えて戻ってきた。

「よかったら久しぶりに飲みませんか?」


 とくとくと二人分のぐい呑みにお酒を注ぎ、小さく乾杯する。
 台所のテーブルにはほかほかの湯気と食欲をそそる匂いのナナの手料理が並べられていた。
 じっくりと煮込んだ肉じゃがに、健康を考えたカロリーオフの唐揚げとサラダ。豆腐とわかめの味噌汁に炊きたてのつやつやご飯。
 どれもこれもが美味しそうで、どこから食べようか迷ってしまう。

「それじゃ、いただきます」

 丁寧に手を合わせて挨拶をし、久しぶりの自分の食器へと手を伸ばす。
 まずは味噌汁。ちょうど良い塩分が疲れた体に染み渡る。わかめの量も、豆腐の具合もちょうどいい。味噌汁なのになぜかしょうゆの味が濃かったり、汁よりもわかめが存在を主張していたり、煮たせすぎてすがたってしまった豆腐も今は初めから存在しなかったかのように姿を消している。

「うん、美味しいよ」

 ドキドキしながらルースを見守っていたナナの顔が少しだけ安堵に緩む。
 しかしすぐに気を引き締めなおして、次はどうかと尋ねてくる。

 続いて口に運んだのは、今回はオーブンで焼いたという唐揚げ。油で揚げてないのに唐揚げというのかどうかはさておき、カリッとした衣とジューシーな肉。油特有のギトギトさもなく、オーブン、様様である。
 そして、美味しそうな肉じゃが。
 じゃがいもとにんじん、たまねぎに豚肉のみとシンプルなものだが、今回は上手く作れた。味見の段階では醤油や砂糖の加減も今までよりも美味しくできていると思う。

「――うん」

 ルースの反応をドキドキしながら見つめている。
 嬉しそうにしたり、悔しそうにしたり。
 そんなナナの様子が見れるのがルースにとっては楽しい。
 二人でともにお酒を飲みながらゆっくりと夕飯の時間は過ぎていく。