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【琥珀の眠り姫】聖杯と眠りに終焉を

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【琥珀の眠り姫】聖杯と眠りに終焉を

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第二章 聖杯

「さあ、空賊の母艦に乗り込んで、聖杯を奪い返すわよ!」
 リベリオンに同乗するルカルカ・ルー(るかるか・るー)の声と共に、大型飛空挺目掛けて一斉に砲撃を開始した。
 その船体の左右に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)の乗った飛空挺がぴたりとつける。
「このまま突撃するぞ!」
 ダリルは機晶アクセラレーターを作動させる。風を裂く音。ダリルの飛空挺がぐんと加速した。
「しっかり掴まっててね!」
 ルカとコードも同時に加速し、三隻の中型飛空挺は上空から敵の母艦目掛けて急降下していく。
 母艦からの砲撃を交わしながら突撃する三隻の飛空挺。――だったが。
「避けろ!!」
 ダリルの叫びと共に、飛空挺は三方向に散った。その中央に、禍々しい気を纏った分厚い雷撃の光線が放たれる。
 ――飛空挺の甲板の中央を埋めるように描かれた巨大な魔方陣。そのほど近くに、異形の姿があった。
「聖杯だかなんだか知りませんが、それはあなたたちの手に余る魔道具……。
 禁呪というものの真の恐ろしさを、少しだけ教えてあげましょう」
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)――否、その異形の怪物は低く篭った笑いと共に、再度魔方陣に魔力を充填し始めた。
「一旦散って、突撃の隙を狙おう」
 コードは冷静に呟いた。三隻の飛空挺は、母艦を三角に囲むようにして散った。
 キロスの背後では、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が心配そうにことの流れを見つめている。
「空賊も、本気で聖杯を守りにきてるね……でも、空賊に眠り姫を奪われたりするわけにはいかないよ」
 コハクが空賊の母艦を眺めて、強い意思の篭った声で呟く。
「……ねえ、本当はどうして眠り姫を起こしたいの?」
 美羽の質問にキロスはにやりと笑みを浮かべる。
「美女をコレクションにしてみたい、だけじゃ理由として納得いかないってか?」
「納得いかないっていうか、どうしてキロスがここまで一生懸命頑張っているのかな、って思って」
 その質問は、もっともだった。
「ま、もちろん俺のコレクションにするために起こしてやろう、ってのはある」
 声はそのままの調子だが、キロスの表情だけはすっと真面目なものとなる。
「で、眠り姫――ヴァレリアのことを調べるうち、ユーフォリアと関係があると分かった。調査の中でロレンスの遺言も知った。
 そうなりゃ、これからも空賊に狙われていくより、今ユーフォリアのとこで引き取ってもらった方が良いだろ。
 ユーフォリアの意思を尊重したいし、このままじゃ、ヴァレリアがせっかくの美女なのにお茶にさえ誘えねえし」
 女性のためなら別にどうってことねえよ、と付け足してキロスは口を閉ざした。
「……なわけで、相手が賊だろうが怪物だろうが、とりあえずぶった切って聖杯を奪い返す」
 キロスは、上空を見上げた。首領の乗った飛空挺より遥か高くを、聖邪龍ケイオスブレードドラゴンが飛んでいる。
 その背には、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が乗っていた。
 二人はドラゴンの上から、空峡で行われている戦闘の様子を窺っていたのだ。
「……行くであります!!」
 吹雪はその背でバードマンアヴァターラ・ウィングを展開した。背に生える翼を持った吹雪は、ドラゴンの背から飛び降りると、首領の大型飛空挺目掛けて急降下していく。
「愚かな……」
 エッツェルは魔力を再度充填しはじめる。コルセアの乗るドラゴンのブレスが詠唱中のエッツェルを狙った。
 被弾したエッツェルの体は、見る見るうちに再生されていく。
 
「この隙に突撃するであります!」
 吹雪の合図と共に、空賊の母艦の右、左、後ろの三方向に散ったルカ、ダリル、コードの飛空挺が再び加速した。
 ダリルとルカは、激突寸前にアクセラレーターをフルに使って旋回、母艦の左右に割れた。
 コードは、自身の乗った飛空挺から母艦の甲板を視認した。その視線の元へと、コードの体は瞬時に移動する。
 操縦者を失ったコードの飛空挺は、積み荷の機晶爆弾諸ともに母艦の横腹に突き刺さった。
 間一髪、その飛空挺の残骸をエッツェルの光線が薙ぎ、吹き飛んだ飛空挺は塵ひとつ残さずに消えた。
「成功したみたいね!」
 轟音とともに母艦に大きな穴を見て、美羽はコハクと視線を合わせる。
「僕たちも行こう!」
 キロスとダリルの乗った飛空挺は、コードが飛空挺で開けた穴へと寄せると素早く潜入した。