リアクション
鷽ッ巣 「ここが、指定された座標ですね」 コンロンの南西にある島、その中央近くの周囲を山に囲まれた場所に、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)たちの乗るE.L.A.E.N.A.I.が着陸しました。 そこは、一面に銀色の砂が敷き詰められた場所です。 垂直着陸するスフィーダによって、堆積していた銀砂が激しく舞い上げられます。まるで砂嵐が巻き起こったかのように、想像を遥かに超える銀砂が、周囲に広がっていきました……。 「周囲に、危険物はないようです」 一応センサーでイコンの外の安全を確認してから、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が言いました。 「下りても大丈夫でございましょうか」 「下りてしまいましょう。大丈夫ですわ。鷽を見つけたら、少し離れた所から、じっくり観察すればよろしいのですわ」 少し警戒するアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)に、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)がシートの安全ベルトを外しながら言いました。 「そうですね。さあ、鷽を探しに行きましょう」 みんなをうながすと、非不未予異無亡病近遠はイコンの外へと出ていきました。 「あそこに、何か建物が見えるようですが……」 こんな所に、近代的な大きな建物があることを訝しみながら、イグナ・スプリントがその巨大な建物を指さしました。 「これって……」 「蒼空学園!?」 ユーリカ・アスゲージとアルティア・シールアムが、驚いて顔を見合わせます。 そこにあった物は、紛れもなく蒼空学園の校舎でした。 ★ ★ ★ 「燕馬ったら、いったいどこへ行ったのだよ」 「捜すしかないじゃろう。それにしても、蒼空学園の分校がこんな所にあるとはのう」 はぐれてしまった新風 燕馬(にいかぜ・えんま)を捜しているザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)と新風 颯馬(にいかぜ・そうま)が、蒼空学園の中でそんな会話を交わしていました。 なんだか煙っていると言うか、霧のように舞いあがっている銀砂の中にブラウヴィント・ブリッツで降下したのですが、そこに見えてきたのは蒼空学園でした。一瞬、元の場所に戻ってきてしまったのかと、新風燕馬にあらぬ疑いをかけられたナビゲーターのザーフィア・ノイヴィントでしたが、ここは鷽の巣です。何が出てきても不思議ではないのでした。 屋上エアポートにイコンを着陸させると、さっそく中の探検に出かけたわけですが、突然何かを見つけたらしい新風燕馬が走りだしてしまい、迷子になってしまったという次第です。 「まったく、燕馬ときたら、しょうがない」 新風颯馬と手分けして捜すことにしたザーフィア・ノイヴィントでした。 ところで、肝心の新風燕馬と言えば、見覚えのある人影の後を追って、蒼空学園の校長室近くへとやってきていました。 「待て、貴様、何をしようとしている!」 校長室のドアに手をかけかけた人影を、新風燕馬が鋭く呼び止めました。 振り返ったのは、長い黒髪に、一見ぼんきゅっぼんの妙齢の女性です。ただし、その顔は……。 「待て閻魔、てめえ、何、チクる気だ!?」 そこに立っていたのは、輝新閻魔(きあら・えんま)。新風燕馬が、裏世界の闇医者として活動するときの変装した姿でした。最近、屋根裏とか、天井裏とか、壁裏とか、畳裏とかの裏社会に、ぺったり貼りついているという都市伝説級の妖怪です。 もちろん、本物の新風燕馬はここにいますから、これは鷽の作った偽物です……多分。 けれども、偽物とはいえ、鷽の作る物ですから妙なところでリアルには違いありません。はたして、いったいどこまで新風燕馬の裏の顔を知っているのでしょうか。いや、多分、ないことないことないことないこと、知っているに違いありません。そんなことをべらべらとしゃべられて、うっかりザーフィア・ノイヴィントたちに聞かれたら大変です。 「ふっ」 輝新閻魔が微かに笑いました。 これは、何かをチクる気満々です。別に、鷽空間の校長にチクられてもなんともありませんが、こういう場合、絶対知り合いがその場に居合わせることになるのがお約束です。 「永遠にお口チャックだ、この偽女!」 新風燕馬が、元々は自分のコスプレだということも忘れて、魔剣ヤミー・レプリカで斬りかかっていきました。 「ぷっ」 口許を手で押さえながら、輝新閻魔があっさりと新風燕馬の攻撃を躱します。 「貴様、コロース!」 新風燕馬が、逃げていく輝新閻魔の後を追いかけていきました。しかし、繰り返しますが、敵は自分本人です。 輝新閻魔を追いかけて、新風燕馬が蒼空学園の外に飛び出してきたときでした。 突然、安い特撮セットのような破片が周囲に飛び散り、建物を崩して中から巨大鷽が現れたのです。 「鳥を見た!?」 思わず、新風燕馬が叫びます。 そのとき、一天にわかにかき曇り、蒼空学園の上に嵐が巻き起こりました。 |
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