リアクション
恋人用のスペースの中でも比較的なだらかで麓に近いところでは、山葉 加夜(やまは・かや)が山葉 涼司(やまは・りょうじ)の車椅子を押しながら、ゆっくりと景色を見て歩いていた。
「もうすぐ結婚2年目になりますね」
「ああ、そうだな」
綺麗な景色を見ながら美味しい空気を吸って歩いていると、疲れなどが少しずつ体から抜けて行く。
「涼司くんが深い傷を負って病院に運ばれた時は頭が真っ白で何も考えれなかったですが、今、傍に居れる事の幸せをとても感じています」
「本当に、心配と面倒をかけてすまないな」
「大丈夫ですよ」
加夜は、涼司が無理をしていないか気を配りながら、ゆっくりと車椅子を押して歩いて行く。こうして涼司が一緒に外出できるほどまで回復していることが嬉しくて、加夜はつい顔が綻んでしまう。
「……ん? 何でそんなにニコニコしているんだ?」
「ふふ、完治するまで無理しないで下さいね」
振り返って見上げようとする涼司に加夜はそう言って、少し静かな丘の一画で車椅子を止めた。
二人は、加夜の作ったお弁当とを暖かいお茶とを広げてランチにすることにした。弁当は胃の負担にならないようにと考えられたもので、健康に配慮してある。
「涼司くん。――はい、あーん」
病院では人目があり、なかなかこうして食べさせてあげられない。
「ん、美味い」
「良かったです」
二人はゆっくりと食事を終えると、二人はゆっくり景色を眺めた。加夜は、涼司のことをそっと抱きしめる。
「どうした、急に」
「涼司くんの傍は安心できますから」
加夜はそう言って、涼司の胸に耳を当てるように顔を埋めた。
「……涼司くん」
「ん?」
「結婚記念日は、どうやって過ごしたいですか」
涼司は少しだけ思案して、
「そうだな……二人でゆっくり過ごせれば、と思っている」
と答えた。
「今まで本当に心配をかけてしまったからな、無理に俺のしたいことに合わせなくてもいいんだぞ」
「いいえ、私も――結婚記念日には、外出許可を貰って家でのんびり一緒に過ごしたいなと思っていたので」
加夜は微笑んだ。二人は静かに寄り添っていた。