リアクション
日が少しずつ傾いてくる頃、広明は九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)の元へ向かった。ローズは、以前広明とお花見に一緒に行った際お世話になったお礼と迷惑をかけたお詫びに、と言ってピクニックに誘ったのだ。
少し遅めのお弁当を食べながら、二人は雑談をしながら過ごしていた。
「この祭は婚活の祭だと聞いたが、実際にこの祭が切っ掛けで結婚する人もいるんだろうな」
広明はお茶を一口飲んで、眼下に広がる丘にいるカップルたちを眺めた。
「……広明さんは、ご結婚の予定は無いんですか?」
「ま、相手がいればな」
ローズの質問に、広明は笑い話のように答えた。
だんだんと日が傾いてくる。ローズは「広明さん」と声を掛けて、言葉を紡ぎ始めた。
「このお祭りの始まりは、恋を司る兎の精霊がこの夕日を背に受けて告白したという逸話だそうですね。その逸話を元にしているので、恋愛成就の意味合いがあるのだと……」
ローズは、真剣な表情で広明と向き合った。ちょうど、夕日を背に受けるようにして――。
そして、ローズは広明の手を取り、自分の両手で包んだ。
「広明さん……好きです」
素直で、真っ直ぐな声だった。
「まだ私は未熟者ですし、広明さんから見たら娘のようなものかもしれません。
ですが、来年私が成人して、広明さんを支え、助け合えるような立派な大人になるまで、広明さんが認めてくれたこの手に自信をつけられるまで……傍で見ていて貰えませんか?」
思いの丈を、ローズは一気に吐き出した。
「と、すみません……ごちゃごちゃ言っちゃいましたが、簡単にまとめると、えーと――」
ローズは自分の中の感情を整理するように、ひとつ大きく息を吐いた。
「好きです。真剣なお付き合いをしてもらえませんか? ……ですかね……」
互いに出会ってから、幸せが増えたと思えるようになりたいです……と、ローズは小さく呟くように付け足して。
ローズの告白から、しばらくの間沈黙が続いた。そして、広明はようやく唇を開いた。
「――――こんなオッサンで、本当にいいのか?」
戸惑うような声で、広明は答えた。
「それって……」
「いや、オレみたいなオッサンで良ければ……」
そう言って、広明はもう一方の手でローズの手を包み込んだ。
二人向き合うローズと広明の姿を、夕焼けがそっと照らし出していた。