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【夜は、朝の始まりである】

 夕暮れの後には夜がある。だが、夜の先には朝がある。
 だとするならば、夜は朝の始まりであり、夕暮れは長い夜を超えた先にある朝の始まりとも言えるのではないか。

 一日間、様々な人々の取材を続けてきて、多くの人々の関係が変わって行くのを見た。
 未来に向かって、少しずつ変化する絆。これこそが、人生の醍醐味と呼ぶにふさわしい。
 私はその瞬間に立ち会いたくて、この取材を行いに来たのではないか――とさえ、今は思っているのだ。




 フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)フィリップ・ベレッタは眺めの良いスペースで、フレデリカの手作りのお弁当を食べて過ごしていた。のんびりと過ごした遅めのランチタイムは終わり、二人はおしゃべりを楽しんでいる。
「……最近ね、周りにいる人たちがどんどん進路を決めているの。けれど、私はまだ将来の進路について迷っていて、どうしたらいいのか悩んでいて……」
 フレデリカは、悩みを打ち明けた。可能なら、卒業後も炎の魔導師としてフィリップの側で力を磨いていけたら。そう思ってはいるのだと。
「フィル君は、卒業後の進路どうしたいの?」
「僕はイルミンスールに残って、これからも魔法の修行や研究をしていきたいと思っています。そうして、後輩を育成したりしていけたら、と」
 フレデリカの質問に応えて、フィリップは「でも」と言葉を付け足した。
「でも僕は、僕の進路に関係なく、フリッカさんの進みたい道を見つけてもらえたら、と思うんです」
「私の進みたい道……」
「もちろん、可能なら一緒に居られる道が良いですけれど……フリッカさんがやりたいことを諦めて後悔したりするのは、嫌だって思うんです」
 ミスティルテイン騎士団の名門魔法貴族の生まれとして、「騎士団の要職」や「EMU議員」になるという使命と、ごく普通の女の子らしい夢である「素敵なお嫁さん」への憧れ。その間で揺れるフィリップにとって、その言葉は難しい選択だった。
 フレデリカの前を、数人の子供たちがはしゃぎながら通り過ぎて行く。無邪気で、何の不安もなさそうな子供たちを眺めていると、
「――フリッカさんの子供、きっと可愛いんだろうなぁ」
 と、フィリップが呟いた。つい口から零れてしまったらしい。はっと顔を上げたフィリップの目の前で、フレデリカが顔を真っ赤にしている。
 お互いに頬を赤に染めながら、二人はどちらともなく、そっと手を繋いだ。フレデリカの中にはびこっていた不安は、静かに消えてなくなっていた。