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理不尽世界のキリングタイム ―デブリーフィング―

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理不尽世界のキリングタイム ―デブリーフィング―

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第九章 いのちをだいじに

「誰も意見は無いのですか?」
 なななが首を傾げる。
 そもそも不可能だった任務の失敗を、一体誰の責任だというのか。どう動くべきか皆様子を探っているようである。
「意見が無いなら全員が反逆者ということになりますね? やはり貴方達全員を爆死――おや?」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が挙手をしている事に気付く。「どうぞ」となななが促すと九条は立ち上がった。
「一つ、重要な事に気付きました」
 九条はそう言うと、その場に居る全員を見回し、大きく息を吸った。
「先程ななな様は全員が反逆者と言いました……そう、ここにいる全員が反逆者なのです」
 その言葉にどよめきが走る。
「容疑者九条、何故貴方は明後日の方向を向いているのでしょうか?」
 なななが指摘したように、何故か九条は全く関係ない方向を向いていた。
「え? カメラがあると思って」
「ありませんよ」
 カメラ目線を目指したようであったが、なななに指摘され渋々と言った様子で向き直る。
「さて、容疑者九条。全員が反逆者という事は貴方も反逆者という事になりますね?」
「ええ、勿論です」
「ほう、潔いですね」
 即答した九条に、感心したようになななが言う。
「ええ、私も含めたこの場全員が反逆者……そう、それはあなたも例外ではないですよななな様――いえ、なななさん?」
「……ほう、聞きましょうか」
 なななに言われ、九条はこほん、と一つ咳払いをすると口を開いた。
「まず我々から。我々は任務に失敗しました。失敗したという時点でどうしようもない反逆者です。それはどうしようもないミスで散っていったクローンも然り……ところでなななさんは我々の任務を見ていたのですよね?」
 なななはええ、と頷く。
「なら、反逆行為に対して直接手を下したことはあったでしょうか――答えは否! この世界にグレーはない! あるのは幸福なトラブルシューターと反逆者という白と黒のみ! 疑わしきも処刑すべき筈! 反逆行為と判断したらすぐさまそいつは処刑すべき! これは義務です!」
 すると九条はなななを指さした。
「それを怠ったという事は、なななさんも反逆者という事です!」
 それから九条は皆に向き直る。
「……私はこれから忠誠を見せるべく自殺します。他の方々はどうぞ御自由に。まあ……ついていけない方は反逆者の疑い濃厚、になりますがね」
「死ぬ前に一つよろしいでしょうか、反逆者九条?」
 なななに九条が「なんでしょうか」と向き直る。
「自殺する、と言いましたが……どうやって?」
「……え?」
「いえ、ですから手段がないじゃないですか。舌でも噛み切るんですか? それとも頭でも打ちつけるんですか?」
 なななに問われると、九条は黙ってしまった。そこは盲点でどうすべきか考えているのか、それとも『頭打ちつける……一人パイルとか自殺でやれるんじゃ』とか考えているのかもしれない。
「喜びなさい反逆者九条。その潔さに免じて、直々にこの私が手を下しましょう!」
 黙り込む九条になななはそう言うと手に持っていたボタンを押した。
 一瞬にして爆散する九条。残機は勿論残っていない。ガメオベラである。
「反逆者九条が爆死しました……さて、今の発言からすると、貴方達も反逆者となりますがどうですかね? 反逆者九条のように自害する、というのなら手を貸しますが?」
 そう言ってなななが全員を見回した。勿論、自害を名乗り出る者など居なかった。

「……冗談じゃないわ。何とかしないと」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が呟くと、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が何やら不安そうに彼女を見る。
「さゆみ……何か嫌な予感がするんだけど、何を考えているんですの?」
 そんなアデリーヌに対し、さゆみは心配させないように笑みを見せる。
「何でもないわよ。ちょっと隙見計らってななな殺そうかって考えているだけだから」
「何でもありますわよ! 絶対やめてくださいな!」
 小声でアデリーヌがさゆみを押しとどめようと腕を掴む。
「何言ってるのよ。あのななな、何言い訳したって絶対難癖つけて皆殺しにするわ。私達だけでも助かるんだったら誰かに……それこそなななにでも全責任押し付けてでもしないと、後は直接殺るくらいしか手はないわよ」
「お願いさゆみ、襲い掛かるなんてことしても失敗するだけだからそれだけはやめて。全責任押し付けるならば協力しますわ」
 アデリーヌにそう言われると、さゆみも渋々と言った様子で「わかったわ」と頷く。
「話は聞かせてもらったわ」
 さゆみとアデリーヌが振り返ると、そこにはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がいた。
「今、あのなななに全責任押し付けるって話していたわよね? その話、あたし達も乗るわ!」
 グッとセレンフィリティが親指を立てた。

「……ふむ、自害をするという方はいないのですか。という事はやはり貴方達は反逆者――」
「「ちょっと待った!」」
 なななの言葉を遮り、立ち上がったのはさゆみとセレンフィリティであった。
「おや、自害希望ですか?」
「違うわよ。自害するならあたし達なんかよりもっとふさわしい反逆者がいるわ」
 セレンフィリティが勝ち誇ったように言い放った。その視線はなななを向いている。
「ふむ、それは誰でしょうか?」
 その視線に気付いているのか、将又気づいていないのか、なななは首を傾げる。
 そんななななをさゆみが指さした。
「反逆者は……ななな、あなたよ!」
「ほう……この私が反逆者であると?」
 そうよ、とさゆみが頷く。
「こんな任務未満の任務を発令したなななが悪いのよ!」
「成程、話は聞いてあげましょう」
「そう言っていられるのも今の内よ。そもそもこういう任務はその性質上、教導団のメンバーのみで実施すべきところをロクな軍事経験もない他校生にまで協力をもちかけた時点で最初からこの任務の失敗は約束されたようなもの。しかも、任務というだけで、任務を遂行するに当たりその詳細な情報は一切伝えず、スキルや装備などに対しても制限を加えたんだから、どんな無理ゲーよ!」
「彼女の言う通りね。任務の内容をロクに伝えずこれが失敗に終わることは明白だった、にも拘らずその任務の遂行をゴリ押ししたのは無能な参謀少尉なななよ」
 さゆみに続き、セレアナが頷きながら言った。
「軍事的な作戦任務への参加経験は殆どないような私やアデリーヌまで参加させるとか、生き残ったからいい物を……かの有名な某作戦の某中将ですらもう少しマシな采配をするというレベルよ。こんな失敗率百パーセントの任務を指令したのは誰かしらね? それはあなた、なななよ!」
 さゆみがなななに指を突きつける。
「破壊行為云々に関しても言わせてもらうわ」
 続いてセレンフィリティが口を開いた。
「研究所を襲撃してこれを破壊し、なおかつ罪のない兵士を大量虐殺した……なんてなななはほざいて……じゃなくて言ってたわね。けどそもそもあたし達は『任務』として研究所へ赴いたのよ。『任務』である以上、そこではあらゆる事態を想定して行動に移す必要がある。そして『任務』を遂行するに当たり、必要とされる措置を必要な時に必要なだけ行っただけよ。その措置の中には『破壊』や『殺戮』といった行為が含まれてるのは事実だけど状況などを鑑みれば当然、研究所の破壊や、抵抗する兵士らの排除は『任務の中に含まれていた』こと。あたし達は任務の範囲内で適切な行動を取っただけよ!」
 セレンフィリティの言い訳に「無茶苦茶言うわね」とセレアナが少し頭を押さえていた。だが今は勢いに乗った方が押し切れるとセレアナは判断し、「そ、そうね」と頷いた。
「この場合任務に関しての詳細を述べなかった責任者に問題があるわ。責任というなら作戦に直接従事した自分たちが負うべきではないわね。誰かが責任を負う、というのであればそれはなななが相応しいのではないかしら?」
 そう言ってセレアナがなななを見据える。なななは黙ったまま話を聞いているだけであった。
(よし、状況は悪くないわ! アデリーヌ、そっちはどう?)
(残念ながら……材料が少なすぎて)
 アデリーヌがさゆみに首を横に振った。アデリーヌは何をしていたかと言うと、先程の映像からなななを更に追い込む材料をでっち上げてでもいいから、と探していたのだが何分なななに関しての材料は少ない。でっち上げようにもできない状態であった。
(まあ仕方ないわね。でも結構追いつめたわよ。これなら――)
「話は終わりですか?」
 なななが口を開く。その様子は冷静そのもので、追い詰められた者のそれとは違っていた。
「なによ、随分落ち着いているわね。自害の覚悟は済んだの?」
 セレンフィリティの言葉に答えず、なななはさゆみに向き直る。
「容疑者さゆみ、質問していいですか?」
「な、何よ?」
 その様子に少々たじろぎながらも、さゆみはなななを睨み返す。

「容疑者さゆみ……『教導団』とは一体なんですか?」

「……え?」
 質問の意味が解らない、とさゆみがぽかんと口を開ける。それは他の者も同様だった。
「教導団というのは、物凄く簡単に言うと契約者達が所属する数ある場の内の一つです……普通ならば知らない情報ですが、何故貴方はそれを知っているのでしょうか? それともう一つ」
 なななは今度はセレアナに向き直る。
「私の事を貴方は『参謀少尉』と言いましたね? 教導団は階級が存在する契約者達が所属する場では珍しい場所です。私をその様に呼んだということは、貴方も教導団について知っている、という事になりますね? 普通ならば知らない情報を知っている――つまり貴方達を契約者と判断します」
 そう言うと、なななはボタンを取出す。それを見て四人は事態を把握し、顔を青ざめさせる。
 だがもう遅い。既になななはボタンを押していた。

「「「「強引すぎるわよぉぉぉぉぉ!」」」」

 さゆみ、アデリーヌ、セレンフィリティ、セレアナの四人が爆散した。残機は無い。ガメオベラである。
「まあ他にも容疑は色々ありましたけどね。例えば【ブルーライトボム】が研究所破壊の原因の一つなのではないか、という容疑とか。ま、口を滑らせてくれたおかげですぐ済んだのは助かりましたが」
 散った残骸を見て、なななは一人呟いた。