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殺人鬼『切り裂きジャック』

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殺人鬼『切り裂きジャック』

リアクション

 3章


 時刻は夜の9時になろうとしていた。
 サイアス・カドラティ(さいあす・かどらてぃ)ルナ・シャリウス(るな・しゃりうす)の二人は、そんな暗闇に満ちた空京の街を練り歩く。
 彼らの目的も勿論、ジャックを見つけ、捕獲することだ。歩きながら、サイアスは1つの推測を述べる。
「国軍、空京警察が動いているのに、犯人が捕まる気配はない……。空京の監視カメラにも映っていない。さらには訓練された契約者さえも殺されている。となると、国軍や空京警察内に犯人がいる、と考えられませんかね」
 対し、ルナは納得したような仕草を見せる。
「国軍、警察なら……監視カメラの位置も把握しているし、国軍の契約者が殺されたのも、犯人が顔見知りだったから無警戒だった、と考えれば自然ね。でも、それってただの推測でしょ?」
「そうですね。カメラの位置なんかは、調べようと思えば簡単に調べることができますし……。契約者が殺されたのも、単純に犯人が強過ぎると考えることもできますし。結局は推測です。言ってみただけです。忘れて下さい」
 そんな会話をしながら夜道を歩く二人。と、そこでルナが何か声がするのに気づいた。サイアスを身振りで黙らせ、耳をすます。声はすぐそこの路地裏から聞こえてくるものだった。
『うぁ。まだ一人も殺してないよ。おねーちゃんは?』
『私も駄目です。私達を捕まえようとしている人達がいるようで、上手くいきませんね』
『むー、どうする? 今日はやめとく?』
『予告状出してますし、そういうわけにはいかないでしょう。仕方ありません。これからは二人一緒に行動し、確実に1人ずつ殺っていきましょう』
『そだね。あ、結構糸が減っちゃったんだよ。おねーちゃんのちょっと頂戴』
『もう全部あげますよ……。よくこんなもの使えますね』
 サイアスとルナはそんな会話を耳にし、会話の流れとこれまでにまわって来ていた情報から、声の主は殺人鬼ではないか、と推測する。
 サイアスは少し身を乗り出し、路地裏を見てみる。そこには案の定、白い少女が二人いた。
(……二人、いますね。先程の情報にあった、狐樹廊さんの推測は的中していましたか)
 サイアスはもう少し近づこうと思い、身を乗り出した。その瞬間、顔に何か糸のようなものが引っかかる感覚がする。
(糸? 情報にあった少女が使っていた糸? 何故こんなところに? ――まさか!)
 気づいたときには遅い。すぐに二人の少女がいた場所に目を向けるが、既に二人は消えていた。
「やられました。事前に糸を周囲に張り巡らせ、感知トラップを形成していたとは。ですが、二人いるところを確認できました。すぐに情報をまわしましょう」

   ■   ■   ■

 ルカルカ、ダリル、リカイン(の頭にいるムーン)、狐樹廊の4人は、これまでの被害者の殺害現場、その1つに来ていた。
 ルカルカと狐樹廊が現場の至るところに【サイコメトリ】をかけ、過去の出来事を視ていた。
「やはり、二人、ですね」
 狐樹廊が視たのは、二人の白い少女が被害者に向かって、ナイフ、鎌など、様々な刃物を振り下ろし続けている情景だった。
 ルカルカもそのような情景を視たようで、
「よくやるわね、こんなこと……。それにしても、ジャックが子供だったってことも驚きだけど、二人いるってことも驚きだね。……でも、こんな子供が何故こんなことをしているのかしら? そこが分からないわ」
「それについては、何となくわかったかもしれない。とはいっても、これが理由なのかは分からないが……」
 ダリルがノートパソコンを操作しながら、そんなことを言う。
「さっきのDNA鑑定、その結果を、色んな機関に回しておいたんだ。事前に捕まっていたりした者ならば、記録が残っているかもしれないと思ってな。そしたら、1つの病院で、一致するDNA情報が記録されていたんだ」
「うん? 病院?」
「あぁ。それも精神病院。そこには、数ヶ月前まで件の二人の少女がいたらしい。少し前に脱走したんだとさ」
「ふぅん。その二人が今回の殺人鬼ってことね。……で? 何でその二人は精神病院なんかに?」
「それが……何と言うか。殺人衝動を抑えられない、殺人行動をしていないと気が済まない、そんな精神病にかかっていたらしい。そこの病院の人間は『殺人症候群』なんて言ってたけどな」
 そこでリカインが反応し、言う。
「それがあの子達の殺人の理由? ……だとしたら、今すぐ捕まえないとまずいかもしれないわね」
「あぁ。『殺人症候群』なんてものが理由なのだとしたら、衝動が起こる度に人殺しするってことだ。つまりは『殺人が止まることは無い』。すぐに止めないと」
 やる事がはっきりしたルカは、気合いを入れて言った。
「成程、よし。さっき連絡のあったサイアスの話だと、二人一緒にいるらしいし、まとめて捕まえるチャンスだね。すぐに契約者全員に情報拡散して、ルカ達も動くよ!」