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【逢魔ヶ丘】邂逅をさがして

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【逢魔ヶ丘】邂逅をさがして

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終章2 願おう、仲間の幸せを


 後日、警察は施設から持ち帰ったデータをもとに、【丘】なる戦場があるであろう場所を絞り込んだ。
 シャンバラ北西部にある、浮遊島群の中の一つではないか、というのが、その推測である。
 元は大きな浮遊島だったのが地脈活動か何かで小さな破片のようにばらばらになった、といわれるこの島しょ群は、まるで宇宙のデブリのように小さな数多の島々が、パラミタ大陸よりも高い高度の所に浮かんでおり、その細かな島々の散らばりようから飛空艇などでの行き来も難しく、空賊さえも滅多に立ち入ることはないという。
 全く偶然ではあるが、弥十郎の「丘は空の上にある」というその場をごまかすための戯言が、奇妙な形で当たったことになるが、あの時、ホームレスたちと彼らに協力する契約者たちが廃プラントに突入するのを後方から妨害者の出現を警戒して見守り続けた弥十郎や八雲がその事実を知るのは、後のことになる。
 島しょ群にはかつて、パラミタでもかなり古い血筋でる守護天使の一族が住んでいたとされるが、非常に長い間彼らは外界との連絡を絶っており、今もそこに定住しているのかどうかは不明である。
 だが、島の中にはその狭さにも関わらず、山や谷などの起伏に富んだ地形を持っているもの、古い時代の遺跡があるものも存在すると思われ、その中にコクビャクが「将来の要地」と見なすほどの重要な『何か』のある場所があるのかもしれない。
 そのような推測から、空京警察は、捜査の範囲をこの島しょ群に絞ることにした。


 あの後、契約相手であるラランと、ガモさんは空京内のレストランで改めて対面した。
 呼雪とヘルが、突入前に間に合わなかったガモさんの身支度とコーディネートをきっちり遂行したおかげで、ラランは10歳くらい若返ったガモさんを見て「最初に逢った時とは違う人みたい」と目を丸くしたとか。
 ちなみに飲食代は、警察からの協力感謝の謝礼が当てられたらしい。
 顔を合わせ、互いを知る前にパートナーとなっていた2人は、互いの身の上のことなどを包み隠さず話した。ラランには身寄りがなかった。
「こんな年寄りのホームレスが契約相手だなんて、がっかりしただろう」
 柔らかく、しかし自嘲気味に笑うガモさんに、ラランは大まじめに首を振って否定した。
「見も知らない私のために、あなたはここまで来てくれたわ。
 ――コクビャクなんかの手でだけど、私、本当にいい方と契約したんだなって、思ったのよ」



 事が終わってから、凛とシェリルは、オッサンと騾馬と話をした。
 契約というのは生きている限り破棄できるものではないということ、だからこそパートナーロストという危険がいつもあるということを説明し、
「でも、契約には相性やご縁が必要なのです。
 いくら契約者となる適性があっても、誰とでも絆を結べる訳ではありませんの。
 逆の事も言えるかも知れませんが……
 少なくともロクさんとムギさんには、お2人とのご縁があったんですわ」
 そう、凛は言葉を尽くした。
 話を聞いて、オッサンは、
「……そうか。ま、そうなんじゃないかな、と、薄々は分かってたけどな」
 いつになく殊勝気な表情で言った。隣りで騾馬も頷く。
「姐さんが呆れるくらい軽率な成り行きだったかもしれないが、これでも俺は別に、後悔はしてないんだぜ。
 どっかロクさんとは、気安くなれそうな感じがしてな。
 ……縁、か。いつどこに落ちてるんだか分かんねえ代物だったんだな、縁って」
「違いないな」
 相槌を打つ騾馬の口元が、珍しく微かに綻んでいる。彼の気持ちも、オッサンと同じらしい。
 契約という者に2人が納得したようで、凛は胸を撫で下ろした。
「それで……ロクさんとムギさんは、今後どうするんだろう? 契約もしたし、パラミタに残るのかな?」
 シェリルが尋ねると、オッサンは首を振った。
「話したんだが、あの人たちにはガモさん以外にも、地球で仲間がいるっていうんだ。
 その人たちと仲良く過ごしたいって気持ちは、俺らにも分かるからよ。
 一旦地球に戻るとさ。なに、契約したんだ、また会いたくなったら会えるだろう」
「そう……なのか」
「ガモさんは、あのラランって娘を一度、地球に連れていくらしい。ラランが見たいって望んでいるんだとさ」
「まぁ」
「俺たちはな、あの人たちに気の合う仲間と太平に過ごしてほしいと思うんだ。
 俺たちがそれを望んでいるようにな。
 無理に一緒に行動しようとは思わねえよ。でも機会があったら再会したいもんだ。……うん、こんな感じさ」
 もちろん、帰る前には酒盛りをするつもりだ、と言って豪気に笑うオッサンに、凛とシェリルは少し苦笑いしたのだった。


 凛たちが話をしている間に、姐さんは鷹勢と話をした。
「怪我は?」
「何ともないよ、ありがとう」
「そうか……」
「で、話って、何かな?」
 姐さんは率直に、パレットの様子がおかしいことを打ち明け、彼とパレットがクリスマスに何を話したのか聞きたいと申し出た。
「そう……なんだ」
 自分の話のせいで彼が気に病んでいるのかと思うと申し訳ない気持ちになる。鷹勢は、姐さんにパレットとのやり取りを打ち明けた。
 ある、禁書中の禁書と呼ばれる魔道書に興味を持っていることを話して、パレットに鋭い警告を受けたことを。
「……本の名前を、聞いてもいいかな」
 姐さんがやや表情をこわばらせながら尋ねると、鷹勢は少しの間ためらったが、低い声で答えた。
「……『万象の諱(ばんしょうのいみな)』
 姐さんの目が鋭く狭まり、ほとんど睨むように鷹勢を見返した。
「――その名を聞いてしまったら……あたしには、パレットと同じことしか言えない」
 ハスキーな声が僅かに震えている。鷹勢は、息苦しそうに視線を外す。
「一つ聞いていいかい? 鷹勢」
「何……?」
「どうして、その話をパレットにしたんだい?」
「え……っ」
 虚を突かれたような表情で鷹勢が視線を戻すと、姐さんの目はもはや、完全に睨んでいるといった険しさだった。

「その本の特徴が、パレットに似ている――そう思ったんじゃないのかい」

 鷹勢は無言だった。顔はやや青い。
「もし、まだそう思ってるんだとしたら……もう、あいつには近付かないでくれないか」
 姐さんはくるりと、鷹勢に背を向けた。
「あいつがどんな内容で、人間にどんな評価を下された書物なのかは誰も知らない。誰にももうわからない。
 けど、あいつはあたしらのかけがえのない仲間で――
 あたしらは誰一人、あいつを失いたくない。その危険を冒したくないんだよ」
 鷹勢の言葉を待たず、姐さんは歩き去った。








「それにしても、これはいったいどういう意味なんですかねぇ」

 警察のコクビャク捜査本部では、今日もまた、何度もその言葉が呟かれ、一度も答えが返ったことはない。
 それは廃プラント制圧の折り、ダリルがコンピュータから拾いだしたデータの一部である。

 元が何のデータなのかも判別できない、ほとんどが意味のない記号の羅列と化した文章の中で、わずかに読み取れた一部分を抜き出したものだ。


『灰の娘


      エズネル以外は




   可能性


 ウユキ・アヤトオは???????』




担当マスターより

▼担当マスター

YAM

▼マスターコメント

参加してくださいました皆様、お疲れ様でした。
今回、それぞれの動きが若干わかりにくいところがあるかもしれません。申し訳ありませんでした。
ホームレス側と警察側、若干人数に偏りが出たので、どうなるかと思いましたが、このような形に結実しました。
皆様に称号という名の行動記録(…)をお渡しいたします。今回考える時間がなくて、正直、どちら側で行動したかということを判別するだけの2種類だけです。重ね重ね申し訳ありません。
あと、実際にリアクションに出てきている以上の方々に、ホームレスたちの身なりの心配をしていただいてました(笑)。感謝です。

それでは、またお会いできれば幸いです。ありがとうございました。