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【逢魔ヶ丘】邂逅をさがして

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【逢魔ヶ丘】邂逅をさがして

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第8章 突入の時

 人影もまばらで、静かだった廃プラント内が一気に騒がしくなる。
 襲撃を察知した構成員たちが武装して飛び出してきた――が、第2陣として潜入していた捜査官たちによって簡単に制圧される。
 プラント内の概略図を作った時に、「見回り」人員らの詰所となっている部屋はすでにマーク済みだった。短時間で一気に制圧・捕縛するために、その時には手を出さなかっただけのことである。
 捜査官たちに同行し、彼らと共にその詰所の前で待ち伏せしていたクリスティーが、部屋から飛び出してきた十数人の男を、乱闘が始まるより早く【毒虫の群れ】で襲って動きを封じ込め、あっさり集団でお縄となった。
「コクビャク本体との連絡を妨害しておいた方がいいと思うんだけどな」
 クリスティーは前もって空京警察にも言っていたが、ここで捕まえた構成員が契約者だった場合、敵本体が異変に気付けばパートナーを殺して口封じに出るかもしれない、と懸念していた。それくらい平気でやる連中だろうとも思える。
(【情報攪乱】で妨害できる類の通信ならいいんだけど、パートナー通信だと手が無いんだよね……)
 だが、捕まえた構成員一人を捜査官が締め上げて訊くと、契約者はいないらしい。コクビャク本部との通信手段は知っている人間はなく、何人かが「コンピュータ室でやってるのだと思う」と推測で口にしただけだった。
 どうやら本部との交信権限も、下っ端にはないらしい。
 

 こうしてプラント内ですぐ目についた構成員たちは割に苦も無く捕縛できたのだが、問題は、飛空艇発着場らしき例の扉の、向こうにいるはずの構成員である。
 人数も把握できない。それに、ホームレスたちの情報からして施設内部に閉じ込められていると思われる少女及びその仲間も、今まで見つかっていないところを見ると、すでに扉の向こう側に連れて行かれていると思われた。
 警察は突入部隊を送り込んだ。続々と、扉の前に詰めかける。見張りの3人はすでに、そこに控えていたルカルカと彼らによって捕縛されている。



 おとり捜査の援護の依頼を受けて動いている十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は、パートナーのコアトー・アリティーヌ(こあとー・ありてぃーぬ)とともに、プラントの2階を走っていた。
 【スレイプニル】でバンを追尾し、彼らが建物に入ってからは忍び込んで、おとり役の2人を援護するために追いかけていた。装着した【エクソスケルトン】は、コアトーの【天空の衣】とともに、コアトーのスキルで【迷彩塗装】を施していた。
 だが、2人の行く廊下が複雑に入り組んでおり、出会いがしらの戦闘を想定して一層慎重に進んでいたら、やや遅れを取り、2人が入った部屋を見失ってしまった。
 彼らの通信手段は、コアトーの【テレパシー】である。そのため、今回の捜査であらかじめ『情報の集積と拡散役』を任されたダリルと面識を持って、テレパシーを使えるようにしておいたのだが。
「みゅ〜。お兄ちゃん、大変。2人に付けた発信機が使えなくなったみたい」
 そんな情報を得て、いささか慌てて捜索を開始していた。
 そんな時、奇妙な一団の姿を、1階の吹き抜けから見上げた2階の廊下に見た。
「何だあれ。……!!」
 数人がかりで何か大きなものを担いで運んでいるのかと思ったが、よく見るとあれは、おとり役の一人、卯雪だ。
「何が起こったんだか知らないが、行くぞ、コアトー!」
 そうして、彼らが入っていった2階の1室に辿りついた。
(どうやって入る? 蹴破るか、忍び込むか……事を荒立てて人質の命を盾にされてはマズい……ん??)
 柱の影に身を隠して様子を窺っている宵一の前で、反対側の廊下からやって来た一人の少女が、何の躊躇もなく、その部屋の扉を開け、入っていった。
 重たそうな質感の腕輪が、鈍くギラリと光っていた。



「らんぼうなことはしていないだろうな」
 少女の居丈高な物言いに、大の男3人がひたすら平伏する。
「申し訳ありません、あまりに抵抗するものですから、少々眠ってもらっただけで、傷つけるようなことは何も……」
 部屋の中には古ぼけたソファがあり、そこに卯雪は横たわっていた。意識がないらしく、周りの言葉に反応する様子もない。
「エズネルのかわりとなりうるものかもしれないんだ。へんにそこなうようなことをしてはだめだからな」
「はっ、重々弁えております」
 少女は、じろじろと卯雪の顔を見下ろしていたが、ふと、右手を彼女の額に伸ばした。
「!」
 びくっとしたのは、しかし、卯雪が何かしたからではない。突然、腕輪に赤い光が灯り、それから色とりどりの光が明滅し始めたからだ。
 少女は舌打ちをした。
「ちっ。またしてもろっくをかいじょしたのか。しつこい“ばぐやろう”め」
 少女は右手で腕輪を忙しなくタップしはじめる。卯雪を運んできた3人がおろおろとそんな彼女を見つめる中、宵一は室内に突入した。
「誰だ!?」
 狼狽して叫ぶ男たちに、宵一は落ち着き払って刀の切っ先を向けてひたと狙いを定める。コアトーが武器形態に変化した「白蛇・裏式」だ。薄暗い部屋の中で刀身が、塵を払うように眩しく煌めく。
「彼女を返してもらおう」
 誰何には答えず、宵一は言い放つ。会話を盗み聞いていて、どうやら連中にとっても卯雪は傷つけてはならないほどの価値のある存在らしいと判断し(理由は分からないが)、下手に盾に取るような真似はしないだろうと踏んでの踏み込みだった。だが、価値があるといっても、むざむざと奴らの手に渡すわけにはいかない。
 腕輪の少女は、男たちに背後に庇われながら、胡乱げな――どちらかというと五月蠅そうな目で、宵一を見ている。
「このいそがしいときに、ねずみがふえるとは」
「ご心配には及びません、下がっていてください、タァ様!」
 白蛇・裏式を構えたまま、じりじりと宵一は距離を詰めていく。



 1階では、空京から到着した捜査官や、ホームレスたちに協力する一団が次々に建物の内部に入りつつあった。扉の外のほとんどの構成員が捕まっている以上、正面玄関からの突入は何の障害もないと言ってもよい。
 問題は、例の扉だ。


 扉の向こうは、穏やかに制圧された建物内部とは比較にならない騒ぎが起こっていた。
 稼働音を立てる、中型の大きさの飛空艇。
 無理矢理それに乗せられそうになっている、まだ若い子供が中心の契約者たち。
 それを妨害するように箒で飛び回り、攻撃してくる組織のメンバーたちを躱し、懐に潜りこんで【火術】を叩きこむ千結。
「ふふふ、読みが甘いんだよ〜」
 その千結を陽動として時間稼ぎを任せ、北都は敵の目をかいくぐり、時にはホワイトアウトで相手の動きを封じながら、巨大な開かずの扉に辿りつき、その横にあるコントロールパネルを開く。
 使い方は【サイコメトリ】で調べる。
 そして。


 扉が開いた。