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リアクション
From:おにーちゃん
To:ワタシ
拝啓、クーラーで夏風邪を引きたくなるくらい残暑厳しいこの頃。いかがお過ごしでしょうか。御神楽 陽太(みかぐら・ようた)です。
この度は、僕の銀行口座を足がかりに勝手に建造された【第三世界】の宝石店がめでたく竣工いたされたこと、心複雑ながらお祝いいたします。
つきましては――
携帯に残っていたメールを「借金」と書かれているところまで読んで、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は携帯を閉じた。序に電源も切った。どうせここでは使えない。
携帯を閉じると、ESCの前で空間が裂けて人が出てきた。アリサたちだった。たちというのも、アニスや鉄心もついて来たからだ。
「アリサ!」
ノーンが名を呼び、手を握る。
「迎えありがとうございます」
「どうせ迷子になるでしょう? それより、AirPADは切ってる? あれでワタシたちの位置を監視している気がするの。アリサがいま“ここ”にいるの知られると不味いよね?」
【グリーク】と契約しているのに【ノース】にいるというのは確かに不味いだろう。それも説明もせずに。何かの取引に行ったと思われるかもしれない。
「大丈夫です。私には持たせてもらえないので」
アリサのゲート能力を使用した移動方法は、パラミタと【第三世界】を行き来するため、重層世界のルール“重層世界の物質をパラミタにもっていけない”ことに抵触する。それではAirPADを持ち運びすることは出来ない。外側へ持っていけば、AirPADは消える。
何度も世界を行き来するアリサの持ち物は【第三世界】のものはない。持つことが出来ない。故に、AirPADの個別ID管理情報から現在位置を割り出すことは出来ない。
ついて来た彼らもまたAirPADは【装輪装甲車】の中に置いてきている。備品を消滅させる訳にはいかないから。
「それじゃ、行きましょう」
――パーティー会場
【ノース】の新しい宝石店兼パラミタ拠点。
会場はその3階。
雑務を終えたセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が戻ってきた。
「荷物運んでおいたぞ……て、聞いてないか?」
命令した当の本人たちは、談笑中とあって雑務の苦労を労うことはないようだ。
アイアンハンターなんて重たいものを並ばせておいて……と心で僻み、僻みを言うのも場に合わないと改めて、セリスも会場の空気に混じった。
雑務を要求したマネキ・ング(まねき・んぐ)はというと冷 蔵子(ひやの・くらこ)から冷えたアワビとビールを取り出し、近場のテーブルにおいた。切り身を醤油で頂く。アワビを頂ける口がマネキにあるのかと思われるが、今回は人型の様相を呈している。
「アワビもビールもいい冷え具合……!」
「お母様のためによく冷やしておいたデス! ちょっと電気代高く付けたデス!」
冷蔵庫がしゃべる。電子AIが内蔵されているわけではなく、意志を持っている庫子。「ぞうこ」じゃないぞ。
「流石冷蔵子。これならばこの世界を維持する柱にもなれるであろう」
マネキの思考としては、過去に機晶姫が世界の依り代になっていたことを聞き、それにこの冷蔵子を利用しようと考えている。
「崩壊するこの糞価値もない世界のためにワタシを依り代すると? それで世界を救うんですか!」
この世界の維持をしていたのは元々「HAL」という機晶姫だった。冷蔵庫に見えても冷蔵子は機晶姫――代替わりになることはできるだろう。
だが、それは『大いなる者』の意志に侵食されたHALを破壊する前までのこと。今となってはただの「無駄贄」になるだけだったりする。
マネキとしては基本的には「アワビの養殖所を失いたくない」だけだ。
「これでワタシ一躍英雄……って!? 可愛い娘の私を生贄に捧げるとかヒドすぎデス!!」
世間の冷たさに凍える冷蔵子(内部温度5℃)だった。
「なんか知らないのが冷蔵庫と話しているけど。アレ誰?」
「誰でしょうね?」
初めて見たと御神楽 舞花(みかぐら・まいか)もミナミ・ハンターも首を傾げる。
ミナミの持ってきたプレゼントのクマちゃんは部屋の隅に飾り、二人は二人で談笑していた。話題はもっぱらおもちゃの話だったが、いつの間にか機晶石の商談の話になっていた。
ミナミが何に機晶石を使うのかと考えると、傍から商談を眺めて不安を募らせるばかりだ。
会場にノーンが入る。
「ただいま〜! アリサ連れてきたよー。序に序な人もー」
「序とはナンデスカ」
序呼ばわりされてイコナがおこになる。
「アリサもいらっしゃい」
「舞花さん竣工おめでとうございます。お祝いになにか持ってくればよかったですね」
「いいですよ。楽しんでいって下されば」
テーブルには随分と多くの料理が並んでいた。基本的にケーキ類やお菓子類と飲料物。そしてアワビ。イコナとティーが食べ始めたスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)のもってきたプリンをここに加えておこう。
ただ、まだ余り人は集まっていなかった。今一番の団体様が入場したところだった。
「もうすぐ他のお客さん(ゲスト)も来ますから」
「ゲスト?」
アリサが問を口にすると、警備役のマスク・ザ・ニンジャ(ますくざ・にんじゃ)が天井から現れて通達する。
「例の御人が参られた」
「ここに通して」
舞花に命じられて、ニンジャが消える。しばらくするとカツカツと“カカトを蹴る”音が聞こえた。
扉が開いた。
そして、ラビットフットが現れた。
筋書きは知ってのとおりだ。
紫月唯斗がレイラ・ザネ・フォールを保護し、柊真司が裏切り偽物を森へと逃がした。本物は柊恭也が国境を超えてパーティー会場へと運んだ。ナイトナインは偽物へと接触し、遅れてさらに偽物へと【ノース】がESC社兵をけしかけた。これらの状況を画策したのは佐野和輝だ。エドワードほか別の契約者にαネットとAirPADで偽の情報を共有させ、【グリーク】側への情報戦をかく乱させると同時に天貴彩羽を経由して【ノース】に偽情報を売らせた。
そして、装甲車を途中で降りた唯斗だが、彼がラビットフットから聞いた最後のピースを遅らせならば語る必要がある。
能力の謎についてだ。
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