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――難民キャンプ

 雨は止み遠雷の声もすっかり聞こえなくなった。テントの布が雨滴で濡れているものの、中にいる者達がずぶ濡れになることはなかった。
 夜になるまでにはこの区画の難民たちの手当は終わった。雨も上がり、火が使えるようになったので、ぬかるみに板を敷いてその上に台をおいてスープの炊き出しを清泉 北都(いずみ・ほくと)リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)は始めていた。寸胴の中から立ち昇る湯気が香りとなって食欲をそそる。
 はじめに香りにつられるのは大抵が疲れている健全な者達と決まっていた。食する気力のある者達から挙って寸胴の前に群がった。腹の虫が鳴いて仕方ないのだろう。
「雨で体が冷えたでしょう。冷めないうちに召し上がって下さい」
「感謝するわ。北都くん」
 振る舞われるスープをシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)(ウィッグ)を被ったリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が取る。
「……なにしているんですか?」
「奉仕活動でつかれたから休憩。奉仕者はもらっちゃダメなの? ねえアリスくん?」
 リカインがアリスティアに賛同を求める。まだ怪我人の介抱をしている。
「え?」
「愛も変わらず、頑張っているけど休んだらどう?」
 リオンも頷く。
「アリスティアさんも休んでスープどうですか?」
「……これが終わったら頂きます」
 一番疲れているだろうアリスティアの奉仕は見ている限りずっと続いている。献身すぎるとも言える。ローブの裾がすっかり擦り切れている。
「尽くし続けるのも結構だけど、そんなんじゃ身がもたないよ? 彼らは彼らで自力の生活能力を持たせるようなことはしないと」
 彼らとは難民のことだ。
 リカインの言うことも尤もだった。善行に尽くそうとも、こうも尽くすべき人数が多くては尽くす側が果ててしまう。しかし彼らには国も権利もない。仮借の土地が一応にあるだけだ。だが、この土地で自営していくことはできるはずなのだ。それには資金と人員が必要となる。【ノース】も【グリーク】も対応が曖昧で、活動もアリスティアたち十字教団に任せきりだった。
 リカインは埃のようにケセラン・パサラン(けせらん・ぱさらん)を払いスープに口つける。
「それなら、キングさんに任せています……彼が人を増やしてくれたおかげでだいぶ楽にはなったんですよ」
 キングは国境の街周辺と【ノース】で布教活動をしつつボランティアを募っていた。難民を救うにも自立させるにも人手がいるとわかっていたからだ。
 増やしているのはボランティアなのか、入信者なのか。どちらにしても同じことかもしれない。ボランティアは入信者となり難民も入信者となる。北都やリオンも気づかないうちに人が増えているのを改めて知った。
 ある種の幻想的な神話の伝え、信仰はあるものの、宗教というシステムは【第三世界】においては珍しいものだった。これが滅びを迎え行く世界でどれほどの浸透力をもつのだろうか。



――【ノース】 
「どうやら、あなた達の森での作戦は失敗したみたいね」
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)が告げる。【ノース】側の情報網では結果報告がまだ成されてもいないのにだ。
 相席するバルドル・ディン・ノースが尋ねる。
「拡張現実(オーグメンテッドリアリティ)の手術を成されているのですか?」
 拡張現実とはゲームの画面のように視界に直接別情報を表示する方法であり、それを可能にするにはメガネやコンタクトを掛ける外部ツールの使用――が、これは彩羽の格好からどっちらも使用していないことがわかる――、マイクロマシーンの投与によるソフトウェア的方法、脳や眼球を手術しそれ自体をツールとするハードウェア的方法がある。
 【第三世界】ではAirPADを使用した立体映像の拡張が主流となっている。手術及び医学的適性検査が必要となるソフトウェア的及びハードウェア的方法は“手間”なために好まれていない。
 バルドルは何らかの通信及びネットワーク危機を使う素振りのない彩羽がどうやって情報を得ているのか気になるようだ。
 違うと彩羽は答えその真相を話す。
「私たちがあなた達の知らない不可思議な力を使えるのは知っていますよね?」
「話には聞いています」
「その一つとして、他者と脳内の思考で会話をする《テレパシー》が私にはできるの」
「何らかの機器を使わずに?」
「訓練の賜物か先天的なものよ。私たちはこの手の能力で情報を共有しているの。だから、あなた達の兵士が私たちの誰かと交戦すればすぐに情報が来る。本来はワン・オン・ワンの能力にすぎないんだけど、それをソーシャルメディア的に相互共有する能力のある子がいるから、例え誰かに聞かなくても私には離れたところの情報が自動で入って来る」
「では、そのサーバーとなる人は今何処に?」
「それは本人に聞かないとわからないわ。すぐに何処かに行ってしまうような子だから。ただあなたたちのほしそうな情報ならこのネットワークを通じて教えてあげるわ。ただし、教える分私たちを贔屓してもらわないとね」
 口元を歪ませて彩羽は笑った。
 ここからは情報の押し売りだ。王子が選別するしないに関わらず、隣のSPも聞いてしまう敵国の情報につぶさにならざるをえない。自分たちと組むのが有益と認めるしかなくなるまで、あどけない王子の首が縦に振られるまで。