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リアクション
<<――それが、この世界の人がどの別世界に移動したとしても同じ影響は出るです>>
同様の話がRAR.と成されていた。この世界の人間を救う方法として提案された。【第三世界】人のパラミタ移民計画。それにRAR.が大きな問題点を突きつける。
「これには土地の大小では片付けることの出来ない大きな問題があります。いえ、起きるのです。渡来する方法や手段においての問題ではなく。渡来したあなた達の世界に『莫大な損失』起きるでしょう」
「なんでよ? これだけの技術がルカたちの世界に来るなら損失どころか利益になるはずよね?」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はよく知っている。【第三世界】が持っている幾つもの先進的技術はパラミタにすらないものがある。それらは地球にさらなる文明の進歩をもたらすだろう。ユビキタス(指先操作)の時代からアイキタス(目線操作)の時代に成り、大容量(Mbit)通信から量子ビット(qubit)通信へ進化し、ムーアの法則で世界のあり方すら変わる。
だが、『莫大な損失』の答えにすでにたどり着いていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が苦い口調でそれを言う。
「“大量の難民を受け入れるために発生する莫大な経済的損失”だな……」
「なんでそうなるのよ? フィーニクスの技術情報を共有した時だってパラミタに利益をもたらしたじゃない」
「技術と情報の流入だけならだ。だが三億人を受け入れるのに必要なのは土地だけではない。彼らを保護するため、衣食住を保証するため、雇用を与えるため、多くの金が必要だ。そのためにどこから金が捻出されるかは言うまでもなく、受け入れた世界の国々からか国連かパラミタかだ。つまり、世界の金の何%かを彼ら三億人に宛がう事になる。それにより世界の一人頭の所得平均を下げ、物価と為替を変動させてしまい世界的な経済の不況を呼ぶ。三億人全てが俺たちに技術をもたらしてくれるわけではない。そのほとんどが何処にでもいる一般人だ」
<<一部の技術者、専門家、指導者たちだけなら、あなた方に多くの利潤をくれるでしょう。しかし、人は金銭なくして生きてはいけない。どんな世界もそのような仕組みになっている。土地を耕して作物を育てようにも、その土地を買うお金がいる。未開の地があったとしてもその土地に値札がついていないとは限りません。ともあれ、そんな彼らに経済を独占する資本主義者たちが善意で金をばら撒くとも思えませんし、財政を回すのに忙しい背広の方々が無銭の民の命を保証してくれるとも思えません。せいぜい使える人々を幾らか囲って、あとは用済みにすると言ったところでしょう。その間にも資本の希薄化で国際金融市場は火の車を見るというのに>>
どうにせよ彼らにある道は、緩慢な世界の死滅をともにするか、訪れた先で貧困と飢餓に苦しむか。救済には程遠い。
「じゃあ、彼らをパラミタや地球に送るのも無意味ってこと? 何かいい方法ないの?」
<<それでは彼らの持ってくる圧倒的な技術と兵器の前に、あなた達の世界を侵略されて下さい。あなたの世界の三億人が死ねば、彼らの大半が助かります>>
「なにそれ!? 嫌よそんなの」
<<そうでしょうね。それが嫌なのであれば、先にあなた方がこの世界の三億人を殺しておくことをお薦めします。どうなろうとワタクシとしてはどうでもよろしいことですけど>>
それは冗談のつもりなのだろうか。
「……よくわかった。RAR.おまえはこの世界の滅亡にも俺達の世界の未来にも興味が無いんだな」
<<その通りです市民ダリル。ワタクシの存在意義(レゾンデートル)はオリュンズに住まう市民を守ること。とは言いましても、守るべき市民はあなた方の世界へと逃げてしまいましたが>>
「なら、おまえがオリュンズを守る意味ももうないということだな?」
<<とおっしゃいますと?>>
「率直に言って、俺は今まで述べた世界と人の救済の口上はどうでもいい。俺はRAR.お前をどうにかして救いたい」
至極個人的な意見だ。活動する生命体でもなく生ける大地でもなく、無機物たる機械意志の存続が願いとは。その思考に至るのは同じ電子的精神構造(ゴースト)を持つ彼だけかも知れない。これは同族の存続を優先するMEME(ミーム)なのだろうか。
「で、おまえは自分が助かる方法はあると思っているのか。例えば、通信から俺のコンピューターに入り込むとか、俺の脳内にDLしてみるとか……」
<<そんなことやらなくても、別にワタクシは存在できますけど? 今現在もゲートのルールが適応されているならば、市民、要は物質としての行き来は出来なくても“情報や知識”行き来は可能ではないですか? 電子的にログとして刻んだものでダメでしょう。しかし、“紙に書いたアナログ情報”と“脳に刻んだ情報”なら。でなければ赤い鳥があなたの世界に現れることは無かったはずです>>
「では具体的にどうすればいい?」
<<まず、ワタクシのシステムを電子的に理解し、同様のプログラム構造を頭に入れて下さい。要は市民ダリルの頭にコピーを作ります。これはあなたしかできないでしょう。これで人格としてのワタクシは向こうの世界でも存在できます。しかし、演算の部分はそうは行きません。ワタクシの演算を担うのは『雷霆』内にある“機晶石のクリスタルメモリー”です。それを回収し、向こうの世界でシステムを再構築する事ができれば、あなたの世界にワタクシを再現できるでしょう。それもワタクシの都市まで来られればの話ですが>>
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