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リアクション
【装輪装甲車】の中で、AirPADの通話画面を起動して彼は言った。
「よう。我が総統閣下(マイロード)。剣を回収したぞ。今から処分するところだ」
恭也が画面の向こうのカーリーに話しかける。
<勝手な呼び方をするな狗。それで、どう処分する気だ? その国境からウサギの元へ亡命させるわけではないだろう? 貴様らの世界にでも連れて行く気か?>
「あら。バレてる」
<貴様らの行動なぞ予想の範疇だ。【ノース】の奴らには――>
「情報はばれていないはずだ。あいつらはスティレトの能力もなにも見ていない。知っていて、“子どもが兵器を持っていた”ってところだけだろうぜ」
<ならいい……。それで“あの子”は?>
「ああ、今からアリサが連れて行くところだ――」
<どうした?>
「……外でなんかあったようだ」
「よう、レイラ! ひさしぶりじゃ〜ん」
レイラはその連れられてきたパーティー会場に居た人物に顔をしかめた。馴れ馴れしく近づいてくるミナミに嫌な顔をする。
「ミナミ……ナンデあんたがこんなところに」
「何って、ゲスト。で、あそこに飾っている『クマちゃん』、竣工祝い。アンダスタン?」
酒の匂いが鼻につく。
「臭い……あなた“出来上がっている”わね! 飲み過ぎじゃないかしら。お酒に含まれるアルコールは肝臓で分解されてアセトアルデヒドになって血中をめぐって脳細胞を破壊するっていうのに。いちおう科学者でしょう。今後もその仕事を続けたいなら――」
「ああいいのいいの。少しくらい脳細胞も死なないと新しいの出来ないわよ?」
「なんてむちゃくちゃな……そもそも脳細胞は――」
ノーンが二人の会話に割って入る。
「あのーお二人はお知り合いですか?」
ミナミが答える。
「そーよ。こいつとは同じラボの出身。あたしはこいつと一緒にESCに入社して、こいつは【グリーク】軍に引き抜き。まあ、ESCがまだ【ノース】じゃなかった頃のはなしだけどねぇ」
「こんなところでこんなのと会うなんて不幸よ……」
「ひどーい! そいや、あんた、軍から子どもを連れてここに逃げてきたんですって?」
「お子さんがいるんですか?」
「ノーン。こいつに『子どもがいるなんて冗談』はやめてよね! ないない。こんな世紀の“サディスト”に男どころか子どもなんてできやしないわよ!」
ミナミがゲラゲラと腹を抱えて笑う。酒のせいか何がそんなにおかしいのかというくらいに腹をよじっていた。
笑うだけ笑うと、ミナミは息を整えてレイラの耳元で囁いた。
「で、あんたはその子どもを連れてなんの実験をしてるのよ――?」
科学者特有の好奇に満ちた目と悪辣につり上がった唇が交差した。
「じゃあ、行こうか」
アリサは立ち上がりスティレットの手を引いた。
「うん!」
子どもらしい元気な声で頷き返すスティレットを見て《ゲート》を開いた。
アリサは先に自分がゲートを潜り、ゆっくりとスティレットの手を誘導する。
スティレットがゲートを潜る瞬間。
彼女の頭の髪留めがちぎれた。
「あっ!」
とちぎれた熊の髪留めに片手を伸ばす。
半身はゲートへと消え、もう半身は――