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一寸先は死亡フラグ

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一寸先は死亡フラグ

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DIE2章 運が悪ければ誰であろうと死にます

 香菜とルシア、千明はホテルのロビーへと来ていた。スレヴィに誘われ、ショッピングフロアへと向かっていたのであった。
「部屋にこもってるよりは気晴らしにはなるだろ?」というスレヴィの提案であった。
 キロスが大変な事になってしまった+新たにリリとララが犠牲になった状況で気晴らしとかしている場合ではないと思うのだが、他に何ができるわけでないためホテルの人に部屋を任せることにしたのであった。
「そういやこのホテルカラオケとかもあるから……ん? なんか騒がしいな」
 ふと、スレヴィがロビーが騒がしい事に気付く。また新たな事件かと思われたが、すぐに違う事が解る。
 ホテルの従業員と小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)の2人が言い争っていたのだ。
「どうしたんだろ?」
「さあ……」
 その様子を見て、ルシアと香菜が首を傾げる。よく見ると美羽と忍を従業員が必死になって止めようとしているのである。
 一体どうしたのか、と思った直後、美羽と忍が堪りかねたように叫んだ。

「こんな状況で殺人鬼なんかと一緒にいられるか!! 私は帰らせてもらうよ!」
「こんな恐ろしいホテル、一秒だっていられるか! 俺は帰る! 帰るぞ!」

 その一言で全てが理解できた。
「いけません! この吹雪で外に出るなんて……お、お客様!?」
 美羽と忍は従業員が止めるのも聞かず、外へ飛び出してしまう。開いた扉から見えた外の景色は、猛吹雪であった。
「やれやれ……仕方ねーな」
 その様子を見ていたのか、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が溜息を吐いた。身に【紅き祝福の装束】を纏い、何やら重装備である。
 そして平然と外に出ようとしてこちらも従業員が止めに入る。
「心配いらねぇって、ちょっくら救助呼んでくるだけだって」
「ですからそういう問題では……ああお客様!?」
「なぁに、すぐ救助隊連れて帰ってくるからよ!」
「お、お客様! 救助を呼ぶも何も、連絡はもうついているんですってぇ!」
 やはりこちらも従業員が止めるのも聞かず、外へと出て行ってしまった。外の景色は、相変わらず猛吹雪だ。
「むぅ、仕方ないのぉ」
 その様子を見ていたようで、ロビーで手持無沙汰な様子を見せていたカスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)が重い腰を上げると外へと足を向ける。
「今度はなんなんですか! 危険なので外に出てはいけませんお客様!」
 半分泣きが入った従業員が止めに入るが、カスケードは笑みを浮かべるだけである。
「救助隊が来るというのならちゃんとした道が必要じゃろうて。ちょっと雪かきしてくるだけじゃ」
「この猛吹雪の中雪かきしてどうするんですか!?」
 従業員が尤もな事を言うが、
「なぁに、わしは丈夫じゃからこの程度の吹雪大した事ないわい。ああ、壊れた個所があったらついでに修理しておくからのぉ」
残念な事にカスケードの耳に言葉は入ったが意味は伝わらなかったようである。
「それじゃちょっくら行ってくるわい」
 カスケードは止めるのも聞かず、勝手に持ち出したスコップと梯子を肩に担いで外に出て行った。外の吹雪は心なしか強くなった気がする。
 この光景を見ていた者達の心は今一つになった。

――ああ、アイツら逝っちまったな、と。人の話を聞かないからな。

「……お、そうだこの飴食べてみろよ。さっき食べてみたけど、結構美味かったんだ」
 気を取り直そうとしたのか、思い出したようにスレヴィが雨の入った袋をルシア達に差し出す。
「わ、ありがとー」
 ルシア達は袋に手を突っ込み、包みを取り出す。
「あらホント、美味しいわね。これ何処で買ったの?」
「ああ、これ売店で売ってるやつですね」
 香菜の問いに千明が代わりに応えると、スレヴィが頷き、包みを剥がし飴を口に放りこんだ。
「そうそう。なんか新商品って言うから買ってみてさ。結構美味いから後でまた買ってみようかと思うぼぉあッ!?」
 何の脈絡も無く、スレヴィは口から【自主規制】を吐きだすと、そのまま膝から崩れ落ちた。その身体はピクピクと痙攣しているが、起き上がる様子は全くない。
「「「……え?」」」
 あまりに唐突だった為、一瞬思考停止に陥るルシア達。だが痙攣するスレヴィを見て、慌てて駆け寄るが既に手遅れであった。
 一体何故、とルシア達は顔を見合わせる。この状況で考えられる原因は飴である。飴に何か仕込まれていた、と考えるのが自然だ。
 だがこの飴はスレヴィ自身が持っていた物であり、売店で普通に販売されている物だ。そしてルシア達も飴を食べたが、今の所問題は全くない。
「となると無差別……あら?」
 香菜が飴の袋を手に取り、ある記述に気付く。

【当たり付き! 当たりの飴は死ぬほどの美味しさ! ご注意を!】

「……いくらなんでも強引すぎよ」
 香菜が頭を抱えた。売るなやんなもん。
「いえ……今はこれが当たり前になっているのかもしれません」
 千明が小さく呟く。その言葉に「どういうこと?」とルシアが問う。
「さっきから嫌な予知しか起きないんです。誰を見ても、何かしただけで……それがちょっとしたことでも、碌でもない結末に辿りつく。今はそんな状態なんです」
「ちょっとしたことって……」
 千明の言葉に、香菜は痙攣するスレヴィを見る。
 スレヴィが取った行動は、香菜達を誘い外に出て、買った飴を食べたくらいだ。だがそれが何故かは知らないがこのような結末に辿りついてしまった。それが死亡フラグという現象である。
 何がトリガーになったのか、香菜は考えてみたが「駄目ね、解らないわ」と溜息を吐き首を横に振った。
「……ねえ、聞きたいんだけど」
 先程から黙っていたルシアが、千明に問いかける。
「あのさ、誰を見ても、ってさっき言ったよね? それって私達も含めて?」
「外、吹雪が止みそうにないですね」
 ルシアの言葉に、千明は目を外に向けた。しらばっくれているようであるが、その態度から答えは明白であった。
「ちょっと! 何が見えたのよ! はっきり言いなさいよ!」
「さ、最初に占いコーナーで『悪い事が起きる』って言ったじゃないですか! 具体的に解るなら言ってますよ!」
 香菜が詰め寄るが、千明は涙目で応えるだけである。
「……仕方ないわね。ならこの状況を何とかしないと」
「で、でも危険ですよ?」
「何もしないよりマシよ」
 香菜が小さく溜息を吐く。
「ねえ、それならさっき外に行った人達も危ないんじゃないの?」
 ルシアがそう言うと、
「「あの人達は仕方ない」」
と香菜と千明は声を揃えた。

     * * *

 さて、その頃外に飛び出していった美羽と忍は、恭也と合流していた。
 美羽と忍は外に飛び出したものの、猛吹雪により思ったように進めずにいたのである。その2人に装備を整えていた恭也が追いついたのである。
「なぁに、このまま進めば人の居る場所に辿りつくって」
 恭也は雪道を進んでいく。その後ろを、半分小声ながら美羽と忍は着いて行っていた。
 ちなみに恭也が進んでいる方向は適当である。【グラス型HC・P】を用いて疑似GPSを使おうとしたのだが、あまり効果的ではなかったため勘頼りの行動となった。
 勿論『大人しくしている』という選択肢もあったはずだが、『あえてこっちから踏み抜いてくれるわ』という選択肢を選んだようである。よく訓練されているものだ。
「お、俺は生き残るんだ……生き残ってやるんだ……何としても……生き残るんだ……」
 忍は据わった眼でブツブツと呟く。これはもう駄目かもわからん。
「大丈夫だよ、きっと生き残れるよ……もし、無事に生きて帰れたら……私結婚するんだ……あ、あれ北斗七星だよね? あの隣にある星、すっごい綺麗……」
 美羽はというと色んな意味でヤバい台詞を吐くわ、吹雪で見えないはずの空で星、それもとびっきりの見えちゃいけないやつを見ていた。
「そうそう、無事に済むって。それに俺だって死ぬわけにはいかねぇんだよ。実はな、ここに来る前ダチから一緒に店開かないかって誘われててな、まだ返事してないんだわ。早く返事しないとマズいんだよ」
 そう言って恭也は笑った。その話は今は控えた方が良いような気がするが、もう手遅れっぽい。
「あーそれじゃ早く返事しないとねー」
 美羽の言葉に、恭也は苦笑する。
「全くだ……そうだ、無事帰ったら上手い飯奢ってやるよ。良い店見つけたんだ。ステーキやパインサラダがお勧めでな」
 若干気持ちに余裕ができたのか、忍も青くなった唇で笑みを作る。
「は、はは、それは楽しみだな……ん? どうした?」
 ふと、美羽が足を止めたのに忍が気づいた。美羽はじっと一点を見つめており、忍も視線を追うが吹雪のせいで少し先も見えない。
「今、誰かいた……!」
 美羽は顔を強張らせて呟く。
「誰かいただと? わかるか?」
「いや……全く」
 忍に言われ、恭也も視線を向けるがやはり吹雪だけだ。
「いや、絶対今誰かいたよ! おい! そこに居るのは誰だ!? そこで何をしてる!」
 美羽が大声を上げた。直後、地響きが起きた。何事かと全員が周囲を見渡すと、
「「「え」」」
物凄い勢いで、雪崩が発生していた。どうやら歩いていた場所は斜面になっていたようである。こういう時に大声を出してはいけません。
「「「ひぎゃああああああああ!」」」
 逃げる間もなく、雪崩に巻き込まれる3人。
 その衝撃に薄れゆく意識の中、3人は考える。一体何故こんな事になったのか、と。まあどう考えてもデスノボリの乱立のせいであるが。

 一方、もう一人のフラグを立てたカスケードであったが、
「ぬぅ……結構大変じゃのぉ」
せっせとホテル周りの雪かきをしていた。しかし強烈に吹き荒れる吹雪は、カスケードがスコップで雪をかいた跡をすぐに埋めてしまう。
「だが……救助隊を呼びに行った者もおる。わしがへばるわけにもいかん。なぁに、このくらいの寒さどうってことないわい」
 カスケードはせっせとスコップを動かす。
 確かに、カスケードのやる気はこの吹雪の寒さでも失われることは無かった。
 問題は寒さ自体であった。
「……む? 何じゃ、何だか身体が動きにくい気がするが……気のせいかのぉ?」
 気のせいではなかった。寒さはカスケードの身体を凍りつかせ、徐々にその動きを阻害していく。
 だがそれにカスケードは気づかない。次第に凍り付く身体で、せっせせっせと雪をかく。
 やがて、その身体が完全に凍り付き全く動かなくなっても、カスケードは自身に何が起きたのか全く気付く事は無かった。