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機晶姫と夜明けの双想曲 第2話~囚われの大音楽堂~

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機晶姫と夜明けの双想曲 第2話~囚われの大音楽堂~

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■クルスの決意
 顔、声、形、全く同じ機晶姫が相対してる。
 一方は機工士を誘拐し局地地震を起こしたクルスシェイド。もう一方は空京を襲撃したデイブレーカーのメイン動力とされたクルスだ。
「ようやく来たか。さあ、彼とパーツを渡して貰おう」
「その前に、何故クルスを狙う? そう簡単に兵器の起動の鍵となれるわけでもあるまいに」
 手を伸ばすクルスシェイドにエヴァルトは問う。そして、真実が語られる。
「愚問だな。俺はおまえを兵器として扱うために作られたのだ。俺とおまえは同型機、つまりは同じ“夜明けを目指す者”に作られた機晶姫だ。しかし、動力パーツとして扱われたのはおまえ……俺に与えられたのは、任務遂行と言うプログラムだった」
 同型機と言えど、その使用用途は別物。クルスは動力、クルスシェイドは実行、その機能を持って生み出された。
「アレが捕獲されたのは誤算だったが、新しい最強の兵器はまだ手中にある。この機晶剣におまえが融合すれば、世界を恐怖させ、畏怖させ、パラミタ全土を従わせることができる! 俺の――俺たちの悲願が成就される! 国の統一だっ!」
 目的は武力による世界統一。古王国時代からの方針はぶれていない。つまりは……
「戯言はここまでだ。さあ、渡せ」
 そんな話を聞いて、おいそれと渡せるはずがない。クルスシェイドの行動を許してはいけない。
「渡す意思が無いならば、こちらから奪うまで」
「話は通用しなさそうね」
 こうなればもう、武力行使だ。ルカルカが構えると、それに呼応しダリル、クルスを護衛していた面々が顔を出し武器を取り出す。そこに……
「これだけ大勢で取り囲むとは、やはり最初から渡す気はなかったみたいじゃのぉ」
 逃亡時から一緒に行動していた辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が姿を現した。クルスシェイドの援軍である。
「おい、そこの隠れている奴も出てくるのじゃ」
「なにっ、見つかったであります!?」
 吹雪とコルセアが見破られた。それもそのはず、『殺気看破』に『ダークビジョン』、更には空で女王・蜂(くいーん・びー)が見張り、情報を流している。
「これは狙撃できないわね……」
 仕方なく身を晒す二人。かといって、仕事がなくなるわけではない。
「おいっ、そっちばかりじゃなくこっちも手伝ってくれ」
 ゾンビを退けていた唯斗も限界が近い。
「……こっちはダリルに任せるわ。吹雪、コルセア、行くわよ!」
「承知したであります!」
「了解よ」
 ルカルカと共にそちらへ向かう。徐々に戦力が削られていく。
「さてさて、標的を頂くとするかのぉ」
 それが会戦の合図だった。会場外で行われる戦闘。
「そうはさせるか!」
 刹那の前に『オートガード』を唱えた康之が立ちはだかる。彼に向かって『霊気剣』を飛ばすが、軽々と弾かれる。
「そんなものでっ!」
「甘いのじゃ! ゆくのじゃ、女王よっ!」
 上空から女王蜂がクルスを目指す。刹那は囮、本命は上空からの奪取だ。
「それはこっちの台詞だ! 今だ、やれっ!」
『了解だよ(であります)!』
 エヴァルトの号令の元、ロートラウト、ローランダーがクルスに近づき……叫ぶ。
『機晶合体!』
「えっ……」
 戸惑うクルスを他所に、ロートラウトは高らかに宣言する。
「これがパワークルセイダーだよ!」
「守備は完璧であります!」
 流石にこれは女王蜂では持ち上げられない。奪うためには合体を解かなければ。不測の事態のため、刹那も狙撃手を用意していた……のだが。
「シンフォニールよ、何をしておるのじゃっ!」
『マスター刹那、モウシワケゴザイマセン』
 こちらのスナイパー、イブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)も《フェニックスアヴァターラ・ブレイド》と『ディメンジョンサイト』を用いた某によって見破られていた。女王共々、刹那の傍らに戻ってくる。
「刹那様」
「マスター刹那」
 想像以上に数が多い。これは撤退も視野に入れなければ……

 ――そして、もう一方。クルスシェイド側。
「クルスがなくては不完全な欠陥品か?」
 ダリルは挑発していた。
「そんなものに頼らなければいけないとは、お前たちの技術力も高が知れているな」
「……なに?」
「“夜明けを目指す者”の技術力は、現代に負けているということだ」
「きさま……っ!」
 相手の意志――誇りを逆なですることにより、思考を単純にさせるテクニック。頭が回る相手よりも扱いやすい。
「アームズタイプ、あれ程の力が有りながら新しい力に縋る。それが“夜明けを目指す者”の意志だというのなら否定はしない。だが、技術者の端くれなら、自分で作り上げた物で成果を上げることに価値を見出すのではないか?」
「くっ……黙れっ! 俺たちの技術力は世界最強だっ!」
 クルスシェイドは叫ぶ。そこへ止めの一言。
「電池の入っていない玩具は、ただのガラクタだ」
 クルスシェイドは機晶剣を逆手に構えた。局地地震を起こす構え。柄を頭上まで持ち上げ――
「その技は一度見ました」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は懐に飛び込んで剣の軌道を逸らす。地面に突き刺すのが起動合図ならば、それを防げばいい。大振りだから隙は十分。両刃故に多少の傷は負ったが、局地地震は不発に終わる。
「……ったく、これじゃどっちが機械かわからねぇぞ」
 『命のうねり』でフレンディスの傷を癒すベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は呟く。やると決めればその身を顧みず戦闘を行うフレンディスの姿は、感情の無い機械と言っていい程。傷ついても完遂するまで止まらない。
「それをフォローするのが俺の役目だが……ともかく、これでクルスシェイドはおいそれと機晶剣を使えないだろ」
 大技は反撃にあう、それを植え付けられたのは行幸。後はもう、身一つで戦うしかない。

「くっ、これ以上は厳しいのじゃ……撤退じゃ!」
 真に強い者は、自分の力量を把握し、決して驕らず、不利と悟れば撤退するもの。
 刹那は呼びかける。女王とイブはすかさず反応。しかし、頭に血の登ったクルスシェイドだけは、そのまま交戦を続けている。
「止むを得ん……わらわたちだけでも逃げるのじゃ!」
「そうはさせるかっ!」
 某が『ショックウェーブ』で牽制。その隙を突いて飛びかかる康之。刹那は彼らに『しびれ粉』『毒虫の群れ』を放つ。毒と痺れに侵される二人。
「『レストア』!」
 康之のスキルで即座に回復するも、既に刹那は女王に抱えられている。
「主、あちらから狙う者が居るようでございます」
 『野生の勘』がそう告げる。
「シンフォニール、出番じゃ!」
「マスター刹那、オマカセヲ」
 イブの《六蓮ミサイルポッド》が口を開いた。狙うはパワークルセイダー。クルスも合体しているが、この攻撃で堕ちたりはしないだろう。寧ろ、合体が解かれた方が好都合か。
「気づかれちゃったよ」
「なんの、自分も対抗するであります!」
「えっ……」
「おいっ、そんなことしたら視界が――」
 エヴァルトの忠告虚しく、ローランダーとイブの《六蓮ミサイルポッド》がぶつかり、相殺し、爆炎と煙が辺りに立ち込める。
「けほっ、けほっ……」
「バカッ! 考えればわかるだろ!」
「にゃはは……何も見えないねぇ……」
「すいませんであります……」
 煙が晴れたそこには、刹那達の姿は無かった。

 最後に残ったのは、崩れかけた屋根の上で未だクルスを狙うクルスシェイド。
「まだだ……この剣とあいつが合わされば――」
 往生際悪く、諦めることをしない。前回の逃げ足の早さは、ダリルの挑発が掻き消した。
「何度やっても無駄です」
 クルスに近づこうとする度、フレンディスが立ちはだかり攻撃を加える。元々戦闘はアームズタイプに任せており、クルスシェイド本人の戦闘力は今居る契約者ほど高くない。持ち前の逃げ足も、思考がそれを許さない。
「大人しくお縄に付くのです」
 更にはフレンディスが無慈悲に《忍刀・霞月》での『分身の術』『正中一閃突き』と追い詰めていく。
「おい、フレイ! 流石にそれ以上はやばい」
「フレンディス、クルスシェイドは生かして確保するべきだ! 聞きたいこともまだ色々とある!」
「マスター……わかりました」
「ったく……」
 ベルクとダリルの制止で止まったが、このままでは殺しかねない勢いだった。
(この強さは本当に人としての強さなのか……?)
 敵と見れば躊躇なく剣を振る。性格は理解しているが、それが本当にフレンディスのためになっているのか、ベルクはまたも頭を悩ませることになる。
 そのやり取りが僅かながらの隙を生んだ。
「くそ……俺たちの悲願は……」
 膝を折っているクルスシェイド。その体制のまま――機晶剣を頭上に。
「まだ終わらないっ!」
 立っている時よりも地面に近い分、突き刺さるまでの時間は短い。このままでは局地地震が発生してしまう。
「そうはさせない! ルカルカ!」
「わかったわ! 『超加速』!」
 切り札に取っておいたスキル。三倍速ダリルの手によって、機晶剣がクルスシェイドの手から弾かれる。そのまま放物線を描き――地面に落ちた時には真っ二つに折れていた。
「あ……ああ……っ!」
「戦闘力10%に低下。戦闘続行不可能だな」
 最後の拠り所を失い、心を折られたクルスシェイド。最後はフレンディスが《鉤爪・光牙》で捕縛したのだった……。



 陣頭指揮を執っていたエレーネが姿を見せる。
「目標を捕縛しました。これより護送に入ります。手の空いている者は死者の掃討と要救助者の救出に向かって下さい」
 事の成り行きを一部始終見ていたクルスの思いは、どんどんと膨れ上がっていた。
(これは僕の問題。それなのに関係のない人達が巻き込まれ、傷ついて僕を守ってくれる……そんなのって)
「おかしいよ……」
「……何か言いましたか?」
 エレーネが目を向けた先には、決意の表情をしたクルスの顔があった。
「僕は向き合わなきゃいけない……自分の過去と」
「クルス?」
「お願いです。彼と話をさせてください」
「それは空京警察署に戻ってからでもできます」
「いえ、彼と二人だけで話がしたいんです」
「おいクルス! あの偽物野郎と一対一で話すって……」
「ごめん康之……でも、僕は決めたんだ。関係のない人を巻き込みたくない、皆を悲しい思いにさせたくない、大事な人を護りたい……それは今も、これからも同じ気持ちだと思う。そして、これから出会う人たちにも……多分同じ感情を抱くんだと思う」
「クルス……」
「だから僕は過去を知らなくちゃいけない。同じ存在だった彼に全てを聞かなくちゃいけない。それは僕の意思で、大事な人を護る決意で……なんて言ったらいいのかな……」
 ここには居ないミリアリア。でも、居るかもしれないと思った時は、胸が張り裂けそうに苦しかった。彼女には笑っていて欲しい。そうすれば僕も笑っていられるから。
 言葉に悩むクリスに、エレーネは告げる。
「それはただの“わがまま”です。私達もクルスシェイドには誘拐事件も含め、色々と事情聴取する必要があります」
「そう……ですよね……」
「でも、そのわがままを押し通すため決意したというのなら、私が止めることはできないでしょう」
「……え?」
 思ってもみない言葉に目を瞬かせるクルス。ルカルカは尋ねる。
「エレーネ、それでいいの?」
「機晶剣は破壊されました。後は彼らの問題です」
「……確かに、今後の事を考えれば、その方がいいかもしれない」
 エレーネの意見に、ダリルも同調した。エレーネはクルスに向かって言う。
「クルス、あなたに教えておきます。感情を持った者は誰だって間違えます。間違えれば正せばいい。そのために仲間はいるのですから」
 見渡せば、笑って背中を押してくれる康之と某。
 後は任せてどんとぶつかってこい、と胸を叩くエヴァルト、ロートラウト、ローランダー。
 フレンディスとベルクも後押しとばかりに言う。降りかかる敵は倒します、と。
 吹雪とコルセアは、頑張ってくるであります! と応援している。
「クルス、意思は固いですね?」
「……はい」
「わかりました、私達は一旦引き揚げます」
「わがままを言ってごめんなさい……」
 礼をし、顔を上げたその時、あまり表情を変えないエレーネが笑ったような気がした。
「それでは、要救助者の救出を最優先に」
 こうしてクルスシェイドによる事件には一旦の終止符が打たれた。



                   ◆◆◆



 特殊9課は撤退し、被災者も全員救助された。廃墟と化したニコーレ大音楽堂は時期に復興作業が行われるだろう。
 その閑散とした中、二人の機晶姫が対峙していた。
「……どういうつもりだ?」
「決着を、付けます」
「ふんっ、所詮ただの動力炉。戦闘力も持たないおまえができることは、俺の命令に従うことだけだ」
 言われていることは確かにその通りだ。だが、クルスの意思は揺るがなかった。懐に手を伸ばす。硬い感触が伝わってきた。
「僕は意思を持たない動力源だったかもしれない。でも今は、皆に出会って気持ちが理解できるようになった。優しさを貰った、悲しみを乗り越えた、楽しみを分かち合った。これは僕の宝物だ」
 取り出したのは機晶合体用パーツ。
「君が影と言うのなら、僕は君と一つになれる。僕が感じた思いを君も理解できる」
 こうすれば、自分に纏わる脅威は無くなるかもしれない。自分のせいで人々の悲しむ顔は見たくない。もう何があろうと、曲がらない。
「やればいいさ! 俺がおまえごと意識を乗っ取ってやる!」
「……そうはさせない。だって、ミリアリアと一緒に見たこの世界は綺麗だったんだ。それを壊そうなんて、絶対やらせない。僕の意思は君の意志を上回るから。もう悲しみを増やすことは終わりにしよう」
 光が二人を包む。
(だけど……)
 大事な人を想い、クルスは最期の賭けに出る。
「また君を泣かせるんだろうね……ごめん、ミリアリア」

 ――復興作業が始まった。業者は言う。そこにはもう、何も残っていなかったと。
 終焉を知るのは朽ちた瓦礫だけだった。