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リアクション
序章:ストリート・ダンディ
「ナイスな夜だぜ。クリスマス・イブといのも悪くないものだな」
12月24日。
空京の夜は、クリスマス・イブの喧騒でにぎわっていました。
皆が待ち望んでいた、聖なる夜。今年もまた、奇跡と幸福を予兆させる神秘的な雰囲気が満ち溢れています。
波羅蜜多実業高等学校からやってきていた如月 和馬(きさらぎ・かずま)は、街中に飾り付けられたきらびやかなイルミネーションを眺め回して満足げに頷きました。
まるで、自分を祝福してくれているようだ――。
清きこの夜、和馬は新しい自分に生まれ変わるのです。そこいらの連中とは一味も二味も違うイカス男へと脱皮しようとしているのでした。
「今、オレにはモテ期が到来している予感がある」
確信をこめた口調で和馬は呟きます。
街行く人々が、そんな彼の姿を見ています。
目つきが悪いからでもなく、恐竜騎士団の衣装が奇抜だからでもなく、イイ男だからに決まっています。ええ、きっとそうです。
参ったな……、とニヤニヤ笑いを浮かべながら和馬はパーティー会場へと足を運びます。
街を歩いているだけで注目されてしまうとは、招待されているクリスマスパーティーではどれほどの人だかりができてしまうか想像もつきません。
しかし! と和馬は表情を引き締めるのです。
それくらいで浮かれているようでは、これまでの自分と変わりません。大人の階段を上り始めた彼は、余裕のある紳士的対応で臨むことによって、他の参加者たちと差をつけることができるのです。格好をつけなくても、おのずとにじみ出る人格が、周りの人々に気づかせることでしょう。―― こいつは、只者ではない、と――。
そんな態度が彼女をも魅せることになるでしょう。
イブの夜に、意中の女性に告白するのです。素敵な男性へと変貌を遂げた和馬に、いい返事がもらえないわけはありません。
「ぐふふふふ」
おっと、これは生まれ変わったNew和馬としたことが。ちょっと下品な笑いを浮かべてしまいましたよ。
「……」
そんな彼を、じっと見つめる人影が数人。
「何の用だ?」
視線に気づいた和馬は、大人の対応で穏やかに声をかけます。
すぐにわかりました。奴らは、今夜騒ぎを企てているフリー・テロリストの一味だと。
街行く人たちが和馬を見るはずです。怪しげな連中がぞろぞろと後をつけてきていたのですから。
「……違ったか。仲間だと思ったんだがな」
和馬を誘おうとしていたフリー・テロリストたちは、すぐに興味を失って街中へと去っていきます。
「あの顔は、絶対に『クリスマス中止』とかプリントしたTシャツを着て街を徘徊している非リアのはずなんだがなぁ……」
フリー・テロリストたちが勝手な事を言っている声が聞こえていました。
「そうそう、警察に職質されながらも童貞こそ漢の矜持であると力説し、恋愛カースト撤廃を解いて回っている男のオーラだった」
「ああ、そうだったさ。去年までの俺ならな」
聞こえないように一人ごちながら、和馬はその場から立ち去ります。
「さらば、元同士よ。よいクリスマスを」
この寒空の下、ベンチに腰掛けて街行く人並みを眺めていたあのフリー・テロリストの二人組みの少年が、通り過ぎる和馬を見送ります。
「ふっ、勝手に同士にしないでほしいな。いずれにしろ、次に会うときは敵同士だな。俺はリア充になるんだから」
和馬はそう答えますが、少年たちは意味ありげな笑みを浮かべたまま小さく頷いただけでした。
「……」
哀れなものだ。時代を読み誤った者たちと言うのは……。
あの姿は過去の自分。ですが、今夜の和馬は違うのです。
「さあ、楽しいクリスマスの始まりだ」
彼の目の前には、輝かしい未来が待ち受けるパーティー会場が待っているのでした。
長かった童貞の道程も今日でおしまいなのです。
そんな、クリスマス・イブのお話をしましょうか。
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