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壊れた心の行方

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壊れた心の行方

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アプローチ2

 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)とともに、ゲーム好きだというリナの元を訪れていた。二人ともスポーンの街へは教導団の出張で訪ねてきていたのだが、ゴダートらの話を聞き、セレンフィリティは活発で大雑把というリナに強い関心を抱いたのである。タイプが自分とよく似ていたからだ。
「あたしはセレンフィリティ・シャーレット、こちらはあたしのパートナーのセレアナ・ミアキスよ。よろしくね」
「あたしはリナ。あんまりいろいろは、思い出せてないんだけどね……」
リナが眉間にしわを寄せ、テーブルに置かれた紅茶を見つめる。セレアナは痛ましげに彼女を見つめていた。セレアナはセレンフィリティが幼少の頃、とある組織に売り飛ばされ、16歳までずっと売春を強要されていたのを知っていた。それゆえセレンフィリティが自分の意志 ではなく人生を奪われたリナらに、他人ごとではない深い感情を抱いているのを理解していた。そんなセレンフィリティの思いを少しでも手助けしたい、セレアナはリナにやさしく話しかけるセレンフィリティの横顔を見つめていた。
 しばらく当たり障りのない雑談を続けたあと、セレンフィリティは明るい元気な口調で言った。
「ねえ、リナってゲーム好きなんだよね? ここにもゲーセンがあるらしいの。良かったら一緒にゲーセンに行かない?」
訪問者に少し戸惑っていた様子のリナが癖の強い赤毛をかきあげて、いくらか光をたたえた瞳でまっすぐにセレンフィリティを見た。
「貴女もゲーム、好きなの?」
「弾幕系シューティングは任せて!」
「……セレンはその代わり格闘ゲームの方はね……私はシューティングは得意じゃないけど、格ゲーは得意よ」
「お手並み拝見……といきますか」
リナは興味を持ったようだった。3人はすぐにゲームセンターへと向かった。
  シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は強い決意を秘めた表情で、送られてきたゴダートとその元護衛たちの近影を見つめていた。
(孤児院で似たような顔、何度も見てきたけどよ……何度見てもほおっておけないんだよな……ああいう……何かを失ったような顔つきってさ)
今までシリウスは主にはウゲンとかかわってきているため、ゴダートとも少女らともあまり面識はないが、連絡を受けて何気なく彼らのポートレイトを見た瞬間、何とかしてやりたいと心底から思ったのである。口は悪いが根っからの善人で熱血漢で、思い立ったら即行動のシリウスである。とるものもとりあえず、スポーンの街にやってきたのであった。
「さーてどうすっかなー……って、あれ? あそこ歩いてるあの娘……確かリナって娘じゃねーか……?」
即座に3人に声をかける。
「おーい、どっか行くのかー?」
「ゲームセンターに遊びに行くところよ」
セレアナがにこやかに応じる。
「おー、ゲーセンか。オレも混ぜてくれよ!」
「もちろんよ、行きましょう」
連れ立ってセレアナらが前もって調べておいたゲームセンターに入る。店内はゲームセンターというより、おしゃれな感じのアミューズメントエリアといったイメージだ。カフェテリアも併設してあり、ゲームを楽しんだり軽い食事やケーキなども楽しめるようになっている。
「さーて、早速勝負よ! これは新しく入ったもの、あたしもまだ触ったことがないわ。これなら公平に勝負できる」
セレンフィリティが一台のマシンを指して言う。
「……マジで勝負する気満々だなオイ……」
シリウスが目を輝かせて席に着くセレンフィリティと、対戦用のスペースについたリナを交互に見やって言った。シリウスはセレアナと共に対戦の様子を見守ることにした。双方ともやる気らしいし、リナもゲームにに夢中になれるのならそれはいい傾向だ。勝負は五分五分といった感じで、ギャラリーすら引き込まれるような真剣勝負だ。結果は僅差でセレンフィリティの勝ちだった。
「うーん、もう少しやれば勝てそうなんだけどな……」
カフェテリアに移動し、クリームソーダを飲みながら悔しげなリナにシリウスは声をかけた。
「いいじゃねえか。また勝負すりゃいいんだよ。これからは何でも好きなようにできるんだぜ?」
リナはハッとしたようにシリウスの顔を見た。
「そう……だよね……。何やっても、良いんだよね……。今までって、あまりよく覚えてないけど……命令しかなかったから……」
シリウスは黙って頷いた。感情を少しでも出せ、ゲームに興ずることができたなら、それは一歩前進したと見て良い。
「もうそんなこともないんだ、ゲームで遊ぶのも良いし、オレらと気の赴くままにおしゃべりってのも良いしよ」
「うん。そうだね、一休みしたら、もう少し遊ぼう」
リナはアイスクリームをソーダの海から掬い上げ、口に運んだ。その様子はごく普通の、同じ年頃の娘と何も変わりはなかった。

 ルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)は契約者たちの訪問があるかもしれないと、あらかじめゴダートをはじめ、護衛の女性たちのもとに伝える役を担っていた。最終的には治療目的といったことは伏せ、単におしゃべりしたり、遊んだりと、スポーン以外が遊びに訪れるかもしれないといったスタンスである。ルシアは甲斐 英虎(かい・ひでとら)の助けを借りてあれこれ精神医学などの資料を一緒に探したりしていた。
「俺さ、アナザーでリファニーさんに会ったよ」
ルシアが動きを止めた。
「……そう、大体の話は聞いているわ……リファニーは、まだ生きている。彼女なりの選択をして……」
その声は平板で、感情を抑えているような雰囲気があった。
「生きているかという事なら、生きてると思う。
でもリファニーさんの精神っていうか、心が、今どういう状況にあるのかは分らない……」
英虎あの時見たリファニーの表情。それは、己の滅びを望む者の顔だった。いったん言葉を切って、英虎は続けた。
「……リファニーさんを、もう探しには行かないの?」
ルシアが向き直った。顔をまっすぐに上げる。その表情からはあまり読み取れるものはない。
「今のリファニーに会いに行っても、もうリファニーには私がわからないと思うの。
 ただ漠然とリファニーと会って直接呼びかける、もうそれだけで解決はしない、今はそう感じてて……。
 ああなってしまったリファニーを救うカギは……光条世界、あるいは、ここニルヴァーナにある。そんな気がしているの」
「そうか……それでここにいるんだね」
ルシアは黙って頷いた。その瞳から一筋の涙が頬にこぼれる。
「ああ、ゴメン! 辛い話をさせてしまったね。俺にできることがあれば言ってくれ、協力するから……」
ルシアはすばやく手の甲で涙を拭いて微笑んだ。