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壊れた心の行方

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壊れた心の行方

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計画

 その後も数週間にわたり、契約者たちは4人のもとへとしばしば通っていた。街に滞在している、香菜、ルシアとレナトゥス、アピスはよく集まって話すようになっていた。
「だいぶ雰囲気が変わってきたよね」
香菜が言うと、ルシアも頷いた。4人を訪ねてきていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が香菜とルシアを見て微笑んだ。
「レナトゥスもルシアも、あれだけあのゴダートに散々なことを言われたのに『傷ついたゴダートたちを癒す手助けをしたい』と思えるなんてすごいです。
 私はその気持ちにはものすごく感激したよ」
「もう一歩なにか、進めたらいいなと思うのだけど……」
ルシアが言った。ここ数日、忙しげな様子のルシアを案じて熱心に彼女の補佐を続けていた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が首をひねる。
「んー、何とかしたいっても何か具体的な案がねぇとなぁ。全員一堂に会してとりあえずじっくり話してみるってのはどーよ?
 視点も視野も多少変わってるだろうし、何か得るものもあるんじゃねぇか?」
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が言った。
「それなら、みんなでピクニックに行くって言うのはどうだろう?
 アラム君から聞いたんだけど、ちょうどこの湖のほとりにいい場所があるようだし、そこで景色を眺めながらみんなでランチとか、いいと思うんだ」
「あー、なんか花がいっぱい咲いてて、キレイなとこがあるって言ってたな。天候もずっとここは穏やかだし、良いんじゃねえか? 俺も賛成だ」
黙って聞いていたシリウスがそこで口を挟んだ。
「ゴダートと接触させる? オレは反対だな。彼女らに傷を負わせた張本人だぜ?
 契約者からってほいほい合わせていいとは、オレは思わないね。治療に必要だからって、当人たちの気持ちをないがしろにしていいってもんじゃないだろ。
 あの三人が自発的に会いたいって思った時、それ以外で会わせるって案ならオレは断固反対させてもらうぞ」
唯斗が頷いた。
「無論、そこはきちんとするさ。誰も無理にとは考えちゃいねぇ。だろ?
 三人とピクニックに行くプランだけ出して、打診してみればいいんだよ。折りを見てな。
 それでもし、あの三人がそういう気持ちになれば……ってことだ。
 この件については、ゆっくり考えたら良いさ。あせることはない。時間ならあるんだからな。
 時期尚早ってことなら、3人だけ誘って行くのも良いだろう。その辺はまあ。臨機応変にいこうや」
源 鉄心(みなもと・てっしん)のパートナー、ティー・ティー(てぃー・てぃー)イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)はその計画を耳にして大乗り気だった。御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナー、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)もそのプランには大賛成だった。陽太は妻の妊娠がわかったため、現在ツァンダの自宅から空京にある病院に近い場所に居を移しており、そこから事業とパートナーらのサポートを行っていた。ノーンには支援が必要ならすぐに動ける体制は整えていること、危機管理に気をつけるように伝え、あとは彼女の裁量に任せている。
「ミニうさティーとミニいこにゃたちにも、紅茶とサンドイッチやお菓子をそれぞれ運んでもらって、お茶会ですねっ」
「……そこまでしなくても。うるさいだけだと思うぞ?」
鉄心が言う。
「そうですかぁ? じゃ少なめに……」
「そういう問題でもないんだが……」
「まあ、にぎやかでもいいんじゃないか?」
唯斗がとりなす。
「わたくしはそれでは、リンゴジャムのサンドイッチや、イチゴのタルトを用意しますの!
 たくさん作って、レナトゥスさんやアビスさん達にもおすすめしますわ」

 契約者たちとルシア、香菜らの話し合いの後、とりあえずはまず三人だけ誘ってピクニックに行こうという話しになった。当日は朝早くから全員がレナトゥスの住居に集まった。美羽が音頭をとる。
「私ももちろん作るけど、香菜には、飲食店でのバイト経験を活かして、お弁当作りをメインでやってもらいましょう。
 レナトゥスとルシアはそれをお手本に、手伝ってもらいましょ。気持ちのこもった美味しい料理には、人を幸せにする力があるんだよ。
 おにぎりと、サンドイッチ。あとサラダと……卵焼きと鶏のから揚げははずせないわね」
美羽が眉間にしわを寄せてメニューを考える。
「飲み物もいるんじゃないか?」
唯斗が口を挟む。しばしああだこうだと検討し、メニューは決まった。
「さて、じゃ僕らは買出しに行って来るよ。材料のメモは……これでいいんだね?」
コハクが言った。
「手分けしていったほうがよさそうだな。結構あるぞ」
唯斗が言った。
「そうだね、私たち調理担当のほうも、下準備があるし忙しくなるわよ!」
香菜が言った。
「食事ヲ作るのは、初めてダ」
レナトゥスの言葉に、美羽がうなずいた。
「お手本は香菜だから、同じようにしていれば大丈夫! レナトゥスちゃんにはサンドイッチを作ってもらおっかな。
 そんなに難しいことじゃないよ。ルシアちゃんは卵焼きを手伝ってね。火加減が大事よっ」
お弁当が出来上がり、あらかじめ今日はレーネの家で待機してもらうよう伝えてあったリナ、レーネ、フランセスの元にはノーンがレナトゥス、アピスと迎えに行くことにした。
鉄心は何か考えがあるのか、俺は別行動なのであとで合流するよ、と言いおいて出て行った。
 レーネの部屋のドアを、レナトゥスが遠慮がちにノックする。ノーンはトランスシンパシーでそっとレナトゥスの意思の後押しをする。
「ピクニックの準備ガ整ったので、迎えに来タ」
レナトゥスが照れくさそうに伝える。
「ありがとう。皆さんのお気持ちが嬉しいな」
フランセスが新調したワンピースで出迎えた。リナは照れくさそうで、頭をかいている。
「改まってご招待とか、なんかテレるな……」
レナトゥスと二人が玄関を出ると、レーネがそっとノーンを手招きする。
「……皆で考えたのだけれど、ゴダートさんもだいぶ変化があったようだし……。
 ……当時のことはほとんど覚えていないけど、私たちも一度きちんと彼と向き合うべきだという結論に達したの。
 今日でなくてもいい、どこかで一度、ね」
ノーンはにっこりした。
「立ち直るには、自分で自分の心を納得させないといけないですもんね」
レナトゥスたちの暖かい気持ちと言葉が、少しでも届いて立ち直りを後押し出来るといい。その手伝いも。ノーンは思った。