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■一週間後

「ふ、ふふふ。あの地獄の訓練は忘れないですぅ……」
 只管に重い魔法少女コスチュームを身につけられ、走り、踊り、時には滝に打たれ。
 かといってサボれば耳元に騒音が響く。
「今日からは実戦ですぅ。あんな服も着なくていいし溜まった鬱憤を晴らしてやるですぅ〜!」
 連日続いた訓練により、レベルも殆ど元通りになってきた。
 後は仕上げに実戦を行おうという判断により、エリザベートはエセル・ヘイリー(えせる・へいりー)レナン・アロワード(れなん・あろわーど)を引き連れて森へとやってきていた。
「え、でも可愛かったよ。すごく似合ってたわ」
 エセルは魔法少女の服を着ながらタイヤを引いて走るエリザベートの姿を思い出す。
 可愛い、という言葉にまんざらでもなさそうだが、彼女はいつもの服を着ている。
「まぁ、丈の短いスカートのせいでこっちは気が気じゃなかったけどな」
「う、うるせーですぅ!」
 顔を真っ赤にして怒るエリザベート。
 ここ数日でどうにも子供っぽくなったような気もする。
「あ、ゴブリン」
 エセルの視線の先には最もポピュラーであろう、緑の肌に棍棒を持った小柄な人型モンスター、ゴブリンが3匹居た。
 彼らは既にこちらを捉えており、何を言っているかわからないが威嚇しているようだ。
「へへ、やる気だな」
「コテンパンにしてやるですぅ!」
「おう! じゃねぇよ!」
 訓練だ、訓練! と怒鳴りながらエリザベートを小突くレナン。
 突かれたエリザベートは不服な顔をしたが、魔法を使うために詠唱を開始する。
「レナンちゃん。 時間稼ぎをするよ!」
「はいよ」
 本来の目的はエリザベートの訓練だ、自分達が倒してしまっては意味はない。
 ある程度戦えるようになっている彼女だったら自分達はサポートに徹するべき、とそれぞれに武器を構えた。
 2人が武器を構えると、ゴブリンの1匹が奇声を上げて突撃してきた。
「軽い軽……いいっ!?」
 ゴブリンの一撃をレナンが構えた剣で受け止めるが、構えた剣は一撃で粉砕される。
 咄嗟に身を引いたおかげで直撃は免れたが少し傷を負ったようだ。
「大丈夫!?」
「助かる、けどなんだよこいつ等。 ゴブリンの強さじゃねぇぞ」
「どきやがれですぅ!」
 振り返ると、エリザベートが既に魔法を放つ準備を整えている。
 それを見た2人が射線から離れると、魔力の奔流がゴブリンを飲み込む。
「……無傷ぅ!? どうなってんだよ、これ」
 ゴブリンは全く意に介した様子はなく、全く通用していないようだった。
 魔法が効かず、やけに高い攻撃力を持つゴブリン。
「これって、例のバグかな?」
「そのようだ、しかしこれは好都合」
 気が付くとアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)を引き連れていた、
「見つけましたよ、校長。折角その道のプロを呼び寄せたのです。 業務が滞らない為にも地獄をみ……げふん、我慢して訓練を受けて頂きたいものです」
 突然現れた増援にゴブリン達は戸惑っているのか、警戒しているのかはわからないが
 アルツールはエリザベートの肩を掴みながら逃がさないようにしている。
「わかりましたでしょうか、貴方のコピーは魔法など対策している。 『魔法使い』として戦ってはダメなのですよ」
 そこまで言って一度咳払いをするアルツール。
「それに、同じ魔術師として正面切って魔術で戦うのは、下策」
「どうしろっていうですかぁ?」
「シグルド、手本を」
 そう言われ頷いたシグルドは武器を構えるよりも早くゴブリンに接近、そしてその胴体を大剣で貫いた。
 悲鳴を上げたゴブリンはあっという間に消滅、精神世界である以上死体は残らないようだ。
 残ったゴブリン達は仲間が一撃でやられた事に驚き、逃げ出してしまった。
「こういう事。魔法使いが相手なら同じように術を詠唱する必要性はないよ。 気づかれる前に近づいて暗殺。それが一番だ」
「……校長として姑息なことは出来ねぇですぅ」
 正面からシグルトは言い返され「ふむ」と考える。
「そこまで言うなら無理には言わない、けど接近戦を挑むのが一番だよ」
 エリザベートは言い返さなかったが、納得したようだ。
 しかし、彼女の武器は杖。それ以外のものは持っていなさそうだ。
「そこの君、予備の短剣貸してあげたまえ」
「お、おう」
 アルツールに言われ、レナンは言われるがままに短剣を渡す。
「それと、もう一つ教えることがあります」
「なんですかぁ?」
 使い慣れない短剣をべたべた触りながら彼女はアルツールの方を向き直る。
「司馬先生、お願いします」
 うむ、と言って前に出てきた仲達。
「戦いとは個人でやるものではないのでな、決戦の際にはわしらも共に戦うことになろう」
 確かに、一人で魔王城に乗り込むわけにはいかない。
「しかし、魔王を倒せるのは校長だけ。その為にも校長が魔王と無傷で戦いに臨む為の戦術、不死兵団を利用した用兵術を身につけるのが妥当でのぅ」
「肉体労働じゃないならあり難いですぅ」
 基礎訓練を思い出し、身震いするエリザベート。
 意図と手段がはっきりわかっている訓練ならまだマシだ。
「よーし、ついでに政治とかもおしえちゃうぞー」
「先生……」
「……冗談よ」
 本気だっただろう、と思うアルツールだが口には出さなかった。
「エリザベートちゃん」
「ん、なんですぅ?」
 突然のことにあっけにとられていたエセルだったが、突然心配になりエリザベートの名前を呼んでいた。
「コピーとはいえ、自分に攻撃するの……あんまりいい気持ちじゃないと思うの」
 心配したエセルだったが、エリザベートの顔は明るい。
「大丈夫ですぅ。 校長として我儘な奴をぶちのめすのも役目ですぅ」
 思ったより芯が強くなったんじゃないかと思わされる。
「……それは無理ですぅ!」
 しかし、鬼教官3人組の指導を受けるなり、いきなり無理だの言いだす彼女。
 やはり心配だとは思ったが、それでも彼女なら大丈夫だろう。
 エセルはそう思う事にし、レナンと共に彼女のサポートの為に行動を開始した。