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【5章】フラワーリング流


「……出来た!」
 最後にココアをまぶし終えると、リトは思わず声を上げずにはいられなかった。顔を輝かせてダリルを見ると、誰かと携帯で話をしている。もうすぐハーヴィが大教室に来るらしい。
 チョコレートを直火で溶かそうとしてはいけないし、分量をきっちりと測らなければならない。そうした数々の教訓と【一流パティシエ】と呼ばれるダリルの指導によって、リトは初めて自分の力でトリュフを作り上げることが出来た。それはとても不格好ではあったが、(彼女の手によるものであるにも関わらず)美味しく食べられるという点において奇跡的なものであった。
 部屋の飾り付けも菓子類も、既にばっちり整えられている。後はハーヴィを含めた全員が会場に揃うのを待つばかりだ。
 リトはそわそわと落ち付かない様子だった。いや、リトだけではない。ここに集まった妖精たちは全員、大教室の扉が開くのを心待ちにしていた。
 そして、遂にその時は訪れる。
「ハーヴィ!」
 扉が音を立てて開いた瞬間、リトは待ち切れずに旧友の下へと駆け寄った。そして唐突な出来事に面食らったようなハーヴィに、出来たばかりのトリュフを差し出す。
「ハッピーバレンタイン、ハーヴィ!」
 満面の笑みを浮かべたリトがその言葉を発すると、他の妖精たちも呼応するように「ハッピーバレンタイン!」と声を上げる。
 その場に居る皆が皆、顔を輝かせていた。にも関わらずハーヴィの瞳にうっすらと涙が浮かんでいたのは、ここだけの秘密だ。


 その後はもう、誰もが楽しいパーティーを満喫した。
 会場で作られたお菓子だけでも様々な味のトリュフ類、生八つ橋、デコレーションされた型抜きチョコレートと、バレンタインらしくチョコレート三昧が出来た。それに加えて会場設営の際にエースがこっそり持ち込んだハーブティーやチョコクッキー、ブラウニー、リリア自作のザッハトルテもあり、柿の種チョコに関してはルカルカが作ったものと天音が持参したものの食べ比べまで可能だ。
 落ち付いた装飾のおかげか参加者は特に気を張るようなこともなく、好きなようにパーティーを楽しんでいる。貴仁と夜月は全員に手製の菓子を配り歩いていたし、ハーヴィも妖精たちに混ざって自慢げに自らの成果を披露していた。
 もちろん談笑にふける者も少なくはなく、そこかしこから笑い声が聞こえてくる。その中でイブは吹雪の姿を見つけると、「フェアリームーン」と地下道を繋げられないかという相談をするのだった。
 ところで会場の一部にはいつのまにか緋毛氈やら衝立がセットされていて、そこだけはあたかもお茶席であるかのような少し不思議な雰囲気を醸し出している。
「遊女……太夫やってたときの行儀作法が、こんなところで活かせるとは、思いもよりませんでしたわ。お茶の作法はいろいろありますが、要は『心』、一期一会。……あらあら、正座ができひん方がよぉけおりますなぁ」
 シメは妖精たちを眺めながら、くすくすと微笑を洩らして言う。
「ほしたら、膝は崩して、楽にしてくれはってよろしおすぇ?」
 高崎流がどれほど浸透したのかは分からない。それでも、彼女たちが言うようにこのバレンタインパーティーは、恐らく世界に一つだけの特別なものとなっただろう。
 だからあえてそれを言葉にするとしたら、きっとこの感じが――「フラワーリング流」。


担当マスターより

▼担当マスター

黒留 翔

▼マスターコメント

黒留 翔です。
『君と妖精とおやつ時』に参加して頂いた皆様、お疲れさまでした。
優しく楽しいアクションをかいて下さる方がとても多く、全体的に明るいお話になったと思います。

今回もいつものように個別メッセージを送らせて頂いておりますが、
もしかするとやや簡素化されている印象を受けられる方もいらっしゃるかも知れません。
それはアクションが悪いとかいうことではなく
ひとえに私側の都合ですので、その点をご理解頂ければ幸いです。
そしてどうか皆様も季節性の流行り病にはご注意されますよう……。

なお次回は再び季節物でいくか、それとも『灰色の棘』関連のストーリーにするのかで少々迷っております。
いい加減本筋を進めないと叱責を受けそうかなとも思いますが……。
ただいずれにせよ次回作を出させて頂く予定ではありますので、ご興味を持って頂けた方はぜひ参加して頂けると嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。