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【第六話】超能力の可能性、超能力の危険性

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【第六話】超能力の可能性、超能力の危険性

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 数分後 ヴァイシャリー 某所
 
 豪雨、あるいは、滂沱のように襲い来る実弾火器による砲撃。
 それを不可視の障壁で真っ向から受け止める一機の“ヴェレ”。
 住民が避難し、無人となったヴァイシャリー市街の一角で激戦を繰り広げているのは董 蓮華(ただす・れんげ)スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)の駆る盾竜、もとい盾竜・改。
 新たな姿となったかの機体による迅竜甲板上からの長距離一斉射撃。
 それを一身に受けながらも、“ヴェレ”は不可視の障壁でなんとかそれを受け止めていた。
 蓮華とスティンガーもそれを理解しているからか、搭載火器の一斉射撃の射線を更に狭い範囲へと集中させていく。
 あわや障壁が破られようかという瞬間、“ヴェレ”も障壁にかけるエネルギーを集中させ、それに耐える。
 危うい均衡が数秒の間続いた頃。
 突如として“ヴェレ”の両膝部が砲撃によって大破する。
 
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)イアラ・ファルズフ(いあら・ふぁるずふ)の駆るラーン・バディ
 そしてシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)ナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)ユングフラウ
 盾竜の僚機であるこの二機からの援護射撃が“ヴェレ”の両膝を撃ち抜いたのだ。

 二機からの精密射撃は確かに巧みな攻撃だが、本来は不可視の障壁を展開した“ヴェレ”には届かない。
 しかしながら、今回は違う。
 彩竜の機能によって不可視の障壁をデータとして可視化した迅竜機甲師団の機体とそのパイロット。
 今の彼等は、『今どこにどれだけの厚みで障壁があるのか』をグラフィカルに認識可能なのだ。
 もちろん、二機も例外ではない。
 ゆえに二機は、盾竜の一斉射撃に対抗するべく、“ヴェレ”が意識も障壁も一極集中させたのを見計らってライフルを照準。
 障壁の守備範囲という意味と“ヴェレ”のパイロットの意識の範囲という意味。
 その両方において、自分の機体が外となったのを見計らい、エースはトリガーを引いたのだ。
 その結果、見事に障壁の隙間をつくようにして、精密射撃は成功した。
 
 そのダメージは物理的な衝撃としてはもちろん、心理的な衝撃となって“ヴェレ”のパイロットを大きく揺さぶった。
 障壁の構築が乱れたのだ。
 時間にすればほんの一瞬。
 だが、その一瞬が命取りだ。
 大量の実弾火器による超高濃度の面制圧といえど、万全かつ全力の障壁を持ってすれば防げる。
 逆に言えば、万全かつ全力でなければ、防ぎきれる保証はないということだ。
 
 圧倒的な火力を前に、強引な形で障壁を破られる“ヴェレ”。
 その全身に夥しい量の機銃弾とミサイルを浴び、自爆装置の作動を待たずして“ヴェレ”は木っ端微塵に爆散する。
 
 “ヴェレ”が爆散する様子を見ながら、エースが言う。
『流石は蓮華さんだね』
『おかげでオレの大事なエースに傷がつかずに済んだってもんだ』
 次いで軽口を叩くイアラ。
 
 一方、ユングフラウのコクピットでもシャウラとナオキが軽口を叩いていた。
 コクピットに貼ったなななの写真。
 それに目をやり、シャウラは思わずほくそ笑む。
『よし、戦闘終了まで見守ってもらおっと』
『おいおい。それは死亡フラグだろうよ』
『え、死亡フラグ? いやだなあ、小説じゃあるまいし。そんなものはへし折る為にあるんだよ!』
 断言するシャウラ。
 その時、彼は座席の横にあった小さな袋に気付いた。
『これは……!』
 袋を手に取るシャウラ。
『クエスティーナちゃんの愛情手作りドーナツだ!』
 その発言に、すかさずナオキがツッコミを入れる。
『愛情は違うんじゃ』
『うーん俺頑張っちゃうからねっ』
『幸せな奴だなあ、お前』
 呆れたように言いつつも、どこか微笑ましげにシャウラを見るナオキ。
『あ、美味しい。なななに持って帰ってあげよう』
 シャウラはというとドーナツを一口食べ、いそいそと包み直していた。
『ホント、幸せな奴だよ』
 それを見て和むナオキに向け、シャウラは気取ったように言う。
『ま、俺の攻撃は焼きドーナツみたいに甘くないぜっ!』
 
 盾竜と僚機の二機がこの連携で次なる“ヴェレ”に牙を剥く。
 それと並行し、この戦場へと歩を進める機体が一機。
 全身をリブラリウムの装甲に覆われたカスタム機――鎧竜だ。
 
 鎧竜、もといそのパイロットである鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)松本 可奈(まつもと・かな)
 二人が狙うのは、今まさに盾竜小隊と戦っている“ヴェレ”の小隊――それを率いる“フェルゼン”bisだ。
 
 “フェルゼン”bisも鎧竜の姿に気付いたのか、ゆっくりとヘッドパーツを巡らせる。
 互いにカメラアイを向け、じっくりと見合う二機。
 僅かな間、無言でその状態を続けた後、二機はどちらからともなく拳を握り構えを取る。

『いくぞ』
 “フェルゼン”bisのパイロット――“犀”へと共通帯域で呼びかける真一郎。
 対する“犀”は黙して語らずだが、それに何ら異存の無いことは自然と伝わってくる。
 
『相変わらず暑っついからすぐに終わらせるよ、真一郎くん!』
 寡黙な二人のおかげで静かな帯域に快活な可奈の声だけが響く。
『アカーシ博士がつけてくれたコレ、早速使ってみようよ! いっけー!』
 鎧竜へと新たに装備されたショルダーキャノンが火を吹く。
 しかし、その砲撃も“フェルゼン”bisの装甲を破壊するまでではない。
 
 可奈はともかく、真一郎はそれを予想していたのだろう。
 なんら動じた様子はない。
 
『え……!?』
 可奈が驚くのも構わず、真一郎はコンソール操作でショルダーキャノンをパージする。
 
『もとよりこの戦い方以外にない』
 ただそれだけ言うと、真一郎は鎧竜を駆って“フェルゼン”bisへと格闘戦を挑む。
 ぶつかり合う拳と拳。
 今回は互いの格闘スタイルが予め解っているせいか、互いに決定打に持ち込めずにしばし膠着状態が続く。
 
 しばしの膠着状態が続いた後、鎧竜のレーダーが何者かの接近を告げる。
『!?』
 油断なく“フェルゼン”bisと相対しながら、真一郎は可奈へと問いかけた。
『どうした?』
『接近警報!? ものすごい速さで何かが近付いてくるよっ!』
『何時の方向だ?』
 
 “フェルゼン”bisの右ストレートをパリィングしながら真一郎は更に問いかける。
 すると可奈は躊躇った後、どこか困ったように告げた。
『何時の方向というか……その……真上っ!』
『……!?』
『ぶ、ぶ、ぶつかるっ! よけてっ! 真一郎くんっ!』
 
 可奈が叫ぶが速いか、真一郎は脚部にかかる負担も構わず、鎧竜をサイドステップさせる。
 直後、高高度から落下してきた何かが地面へと激突し、クレーターを穿つ。
 
『鳴神さん!?』
 可奈が驚きの声を上げるのも無理はない。
 何せ、落下してきたのは彼女もよく知る人物だったのだから。
 
 ――鳴神 裁(なるかみ・さい)
 もちろん、魔鎧として纏われているドール・ゴールド(どーる・ごーるど)
 裁に憑依している物部 九十九(もののべ・つくも)
 武器化して装着状態にある黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)
 この三名も一緒だ。
 
『迅竜にいないと思ったら、一体どうして?』
 可奈が問いかけると、裁はしれっと答える。
「ごにゃ〜ぽ☆ 上空39kmからのスカイダイビングの記事を見て思いたったんだよ☆ そしたら、百合園に襲撃があったからそのまま来たんだよ☆」
 それだけ語ると、裁は“フェルゼン”bisへと向かっていく。
「装甲の硬さは問題ない、裏打ち、浸透勁、徹し、名前は数あれど武術には対象の鎧を武器となしその内部にダメージを与える技法が存在するんだよ!」
 言い放つと、裁は技を繰り出す構えに入る。
 当然、“フェルゼン”bisもカウンターを繰り出しにかかる。
 だが、裁の方が速い――!
 
「鳴神流舞闘術奥義、裏桜花・旋!」
 “フェルゼン”bisへと炸裂する裁の必殺技。
 凄まじい衝撃が辺りを揺るがす。
 
 並のイコンならば無視できないダメージだろう。
 それどころか、“フェルゼン”bisほどのイコンですら無視できないダメージであってもおかしくはない。
 
 しかしながら。
 “フェルゼン”bisはその一撃を耐え抜いた。
 漆黒の“フェルゼン”はその拳を力強く握り込む。
 そして、渾身の一撃を放って隙を露呈した裁へと、同じく渾身の一撃を繰り出した。
 
 見事な直撃を受け、まるで発射された砲弾のように吹っ飛んでいく裁。
 ドールという魔鎧、それに九十九の憑依があり、なおかつ契約者としての地力が高い裁でなければ死んでいても不思議ではない。
 
『どういうこと……? 直撃したのに……?』
 おそるおそる問いかける可奈。
 一方、真一郎はというと既にタネを見破っているのか、落ち着いている。
 
『“フェルゼン”bisのパイロットが武道の使い手であることはわかるな?』
『う、うん……』
『簡単な話だ。奴は装甲に頼り切るだけではなく、衝撃を受けた瞬間、ダメージが最小限となるよう衝撃を可能な限り逃がせるように機体を制御した』
『え? それだけ……?』
『そうだ。もっとも、その『それだけ』ができるパイロットは数えるほどだろうがな』
『ど、どうするのぉ……? 裁さんほどの使い手ですら攻撃に耐えられちゃうんじゃ……』
『問題ない』
『ふぇ?』
『もとより奴には小手先の技など通用しないとわかりきっている』
 はっきりと言い切る真一郎。
『なら、すべきことは一つだ』
『お! 作戦があるんだね! 真一郎くんっ!』
『――ある』
『さっすが〜! じゃ! 早速聞かせてよ!』
『叩き壊す、奴よりも速く』
 再びはっきりと言い切る真一郎。
『え? それだけ』
『ああ』
 一瞬ぽかんとしたものの、可奈は苦笑まじりに言う。
『まぁ、真一郎くんらしいけど。やっぱり熱いね、真一郎くんは……って、熱っ!? お、温度が……!?』
『どうした?』
『コクピット内温度が50度を超えてるよ!?』
『なんだ、重大な故障かと思ったじゃないか。何ら問題がないようで良かった』
『ちょっとぉ!?』
 漫才のようなやり取りを交わした後、真一郎が鎧竜を再び“フェルゼン”bisに最接近させようとした時だ。
 新たな接近警報とともに、また一機のイコンが現れる。
 
『おーおー、何度も襲撃ご苦労様でーす。……マジでいい加減にしとけや、クソ共が』
 通信帯域に割り込んできたの青年の声。
『よぉ、同業。同じテロリスト同士仲良く殺し合おうぜ』
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は愛機星喰で鎧竜と“フェルゼン”bisの間へと割り込む。
 そして、躊躇なくスーパーオリュンポスキャノンを放った。
 その直撃を受け、“フェルゼン”bisの立っていた場所が凄まじい爆炎と爆煙に満たされる。
『秘密結社オリュンポス。トップはあれだが、持ってる技術だけは本物なんだわ』
 恭也が言い放った瞬間だった。
 星喰の両腕がへし折られたのだ。
『な……!?』
 恭也が気付いた時には既に、装甲をパージした“フェルゼン”bisが星喰の背後へと回り込んでいた。
 一瞬で完璧にバックを取った“フェルゼン”bis。
 漆黒の“フェルゼン”は流れるような動作でアームロックをかけ、星喰の両腕を手始めにへし折った。
 そのダメージで星喰が怯んだ隙を逃さず、“フェルゼン”bisは痩身に似合わぬ怪力で星喰を力任せに地面へと叩き付ける。
 そのまま更に間を置かず、“フェルゼン”bisはクロスヒールホールドによって星喰の両脚もへし折ったのだった。
 
『一つ警告しておく』
 突如、共通帯域に割り込んできた“犀”の声。
『前回の時もそうだが、特に今回のように市街地での戦いの場合、これほどの大量破壊兵器を使用することは慎むといい。お前たち自らが世界の敵として憎まれたくないのならばな』
 
『野郎……!』
 気を吐く恭也とそれを内包する星喰に背を向け、“フェルゼン”bisは鎧竜へと向き直る。
 真一郎もそれに応じ、二機は再び拳の打ち合いに突入する。
 
 ヘビー級対ヘビー級の対決という様相を呈していた数分前とは違い、今はいわばヘビー級対フライ級の対決だ。
 まるで別の機体へと生まれ変わったかのような尋常ならざるスピードで“フェルゼン”bisは鎧竜を翻弄していた。
 放ったパンチの数は同程度。
 しかし実際は、鎧竜の命中率がゼロにたいして、“フェルゼン”bisのそれはほぼ百パーセントだ。
 かるじて数発をパリィングできたり、リブラリウムの装甲で耐えられてはいるものの、このままでは鎧竜のフレームが強度限界を超える。
 警告音がコクピットに鳴り響く中、真一郎は“フェルゼン”bisが放った右ストレートをあえてコクピットのある胸部で受けた。
 凄まじい衝撃が真一郎と可奈を襲い、コントロールをロストしかける。
 だが、この瞬間こそが好機。
 鎧竜は握り込んだ拳を回転させながら繰り出し、必殺の正拳突きを“フェルゼン”bisへと叩き込む。
 クロスカウンター気味に叩き込まれた正拳突きは“フェルゼン”bisの左腕を直撃、見事に変形させる。
 
 しかしながら、右ストレートの直撃を許したのは痛手であった。
 遂にコントロールをロストした鎧竜はそのまま姿勢を崩して倒れ込む。
『……!』
 焦る真一郎。
 このまま変な態勢で倒れ込めば、鎧竜は脚部パーツを『捻挫』する可能性がある。
 脚部に爆弾を抱える鎧竜にとってそれは致命的だ。
 そればかりか、メインフレームを大きく痛める倒れ込み方をする危険性もあった。
 そうなれば、その故障のせいで鎧竜は戦線離脱すらもあり得る。
 しかも、他の竜シリーズ同様ブラックボックスである鎧竜の場合、根幹にかかわるレベルでの修理が可能かもどうかもわからないのだ。
 
 機体を立て直そうとするも、自重がケタ外れの鎧竜においてそれは至難の業だ。
 真一郎が覚悟を決めかけたその時だった。
 やおら機体が引っ張られる感覚。
 
 見れば、右手一本で“フェルゼン”bisが鎧竜の右手首を掴んでいた。
 右手一本といえど、規格外のパワーを誇る“フェルゼン”bis。
 そのサポートがあれば、なんとか機体を立て直すことも可能だ。
 
 咄嗟に機体を立て直す真一郎。
 無事、立ち直った鎧竜。
 その手首から手を離すと、“フェルゼン”bisは背を向ける。
 
『いずれしかと決着はつける。それまでこの勝負、預けておく』
 ただそれだけ言い残すと、“フェルゼン”bisはまるで忍者のような身軽さでどこかへと去って行った。
 
『待て……! くっ……!」
 追跡しようとして真一郎はコクピットの表示に気付く。
 既に鎧竜の稼働可能時間は残り数秒に達していたのだった。