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【第六話】超能力の可能性、超能力の危険性

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【第六話】超能力の可能性、超能力の危険性

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 数分後 百合園女学院 敷地内
 
「あれは……シリウスたちのいっていた……!?」
 リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)は避難誘導に従事していた。
 
 敷地内に侵入した一機の“ヴェレ”。
 その機体は百合園女学院の敷地内に入るや否や、破壊活動を開始した。
 幸い、市街地で交戦した防衛部隊が時間を稼いでくれたおかげで避難は殆ど完了している。
 後は校長室に残った桜井 静香(さくらい・しずか)ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)、そしてリーブラだけだ。
 
 静香とラズィーヤが避難するまでの時間を稼ぐべく、リーブラは窓を開けた。
 そして、敷地内で暴れる“ヴェレ”部隊に向けて大声で呼びかける。
 
「あなたたちは何をしているのですか! 学園の不正をただすと言いながら、力なき人々を襲う……あなたたちの憎むものと同じではないですか!」
 朗々と響き渡るリーブラの声。
 だが、“ヴェレ”部隊は動きを止めはしない。
 
 それどころかリーブラの存在に気付き、校長室のある建物へと一歩一歩歩み寄ってくる。
 “ヴェレ”が窓へと手をかける。
 リーブラの立っている窓際をまるまる手の平で塞ぐ“ヴェレ”。
 そのまま不可視の衝撃波を放てば、後はどうなるか考えるまでもない。
 
「……!」
 
 “ヴェレ”の手の平に視界を覆われ、覚悟を決めるリーブラ。
 そして、“ヴェレ”の手から不可視の衝撃波が放たれ――。
 
「……!?」
 
 ぎゅっと目を閉じたリーブラだが、一向に衝撃は襲ってこない。
 代わりに爆発音が耳朶を打ち、はっとなってリーブラは目を開ける。
 すると、目の前にあったのは胸部の球体状パーツからスパークを上げる“ヴェレ”の姿。
 
 そして、機外スピーカーを通して聞こえてくる、誰よりも聞き覚えのある声だった。
 
『リーブラ! できるだけ遠くに引っ込め!』
 その声が響くと同時、ワインレッドのイコンが視界へと飛び込んでくる。
 雄々しき光翼を広げたワインレッドの機体。
 リーブラのよく知るその機体は、着地と同時にスパークを上げる“ヴェレ”を抱え上げる。
 そのまま高高度まで上昇すると、ワインレッドの機体は“ヴェレ”を放り投げる。
 空いた手でブレイドを抜くと、空中で“ヴェレ”を一刀両断するワインレッドの機体。
 その背後で“ヴェレ”は大爆発を起こして消滅する。
 
 光翼で自在に姿勢を制御しながら大立ち回りをやってのけた機体は、再び校長室の前に着地する。
 ゆっくりと舞い降りる光翼の機体。
 ワインレッドに装甲に覆われたそれを見て、リーブラは声を上げた。
 
「シリウス……!」
『待たせたな! もう大丈夫だぜ! こっからはオレたちに任せな!』
 機外スピーカーで応えると、機体のパイロットはマニュピレーターを操作してサムズアップしてみせる。
 その声の主こそ、光翼を背負い、ワインレッドの装甲を纏う機体のサブパイロット――シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)
『また人の留守を狙ったように…いや、狙われてたかな? どうも情報で後手に回っているのが気分悪いね』
 続く声はメインパイロットのサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)のものだ。
 
 リーブラのパートナーにして、百合園学園が誇る最強クラスのイコンパイロット。
 そして、彼女たちが駆る第三世代カスタム機――ノイエ13
 百合園の誰もが待ちわびた切り札は、ここに舞い降りた。
 
 ノイエ13を向き直らせるシリウス。
 その先にいるのは漆黒の二機――来里人の愛機と彩羽の愛機だ。
 漆黒の機体を見据えるノイエ13のコクピットで、シリウスは吼えた。
『裏の事情とやらに興味がないこともなかったけど……ヤメだ。家に手ぇだしたからには生かしちゃかえさねぇ!』
 機外スピーカーを震わせ、シリウスの声が響く。
『話を聞く気はもう一切ねぇぞ。お前らがどれだけ正しかろうが、無関係の生徒や街まで巻き込んだ時点でそれは邪悪だ。その能天気な理想主義、地獄に叩きこんでやる!』
 ブレイドを構えたノイエ13は膝をたゆませ、突進の体制に入る。
『こちらと戦うのならば止めはしない。だが、そちらの攻撃は通用――』
 淡々と告げる来里人。
 それを遮るようにしてシリウスが再び吼える。
『ハッ! オレたちが何の策もなしにお前らに挑んでるとでも思ったか!』
 百合園の敷地内にクレーターを穿ちながら、ノイエ13は一気に距離を詰める。
『……!?』
 来里人が驚愕に息を呑んだと同時。
 ダメージを受けたユーバツィアが破損し、来里人はすんでのところでそれをパージ。
 それと同時にブーストダッシュでバックし、機体本体へのダメージをなんとか回避する。
 
 ノイエ13によるフェイントを織り交ぜたブレイドの一撃。
 それは見事に不可視の障壁――サイオニック・ドメインの防御を掻い潜って一撃を与えていた。
 
『来里人っ!』
 思わず呼びかける彩羽の声にも焦燥感が滲み出ている。
 それでも、来里人は咄嗟に機体を立て直し、ノイエ13と相対する。
 
『どうだっ! お前らの使うやっかいなバリアは既に見えてんだよっ!』
 対照的に、意気揚々と気を吐くシリウス。
 
『改めよう、認識を』
 ただそれだけ言うと、来里人の機体は臀部にあるハードポイント。
 ――人間で言えばヒップホルスターにあたる箇所に懸架された二挺の拳銃を抜き放つ。
 左右それぞれの手に一挺ずつ。
 二挺拳銃のスタイルを取る漆黒の機体。
 
 来里人の意図を理解したのか、彩羽はただ一言告げる。
『来里人、周辺で交戦中の機体は多くとも、こちらに接近してくる機体はないわ』
『そうか』
『でも、介入してくる機体があればすぐに知らせるわ』
『頼む』
『“シュピンネ”は早期警戒機でもあるもの。当然のことよ』
 
 悠長に作戦会議などさせはしないとばかりにノイエ13が漆黒の機体へと襲いかかる。
『いかに拳銃とはいえ、ここまで接近されちゃあ使えねえよなぁっ!』
 脅威的な加速力で一足飛びに漆黒の機体の懐へと飛び込んだノイエ13。
 ブレイドを構えたノイエ13は一気に勝負を決めにかかる。
『この程度の近接戦闘。この機体ならば問題はない』
 来里人が淡々と応じるなり、漆黒の機体は軽快かつ正確な機動を繰り返す。
 ノイエ13の振るうブレイドを紙一重でかわすのを繰り返しつつ、漆黒の機体は二挺の銃を縦横無尽に振るう。
 まるで舞っているかのような動きでブレイドをかわしつつ、超至近距離からの射撃を繰り出す漆黒の機体。
 
 しかしノイエ13もさるもの。
 シリウスの脅威的な操縦技能により、敵と同じく紙一重での回避を繰り返すノイエ13は、ほぼ命中必至の銃弾を前にしても装甲表面を削り取られるに留まっている。
 
 百合園女学院の前で、卓抜したパイロット同士の戦いは続いていく――。