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学生たちの休日15+……ウソです14+です。

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葦原島にて



「紫月。お前がやってる、体捌きと言うか足捌きと言うか……。相手の攻撃を避けるときに変な動きしてるけど、あれって何なんだ?」
 きっかけは、朝霧 垂(あさぎり・しづり)のそんな一言だった。言わぬが花、口は災いの元、キジも鳴かずば撃たれまい。いや、それとも、瓢箪から駒だったのか?
「ほう、これに興味を持ったか……」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の目が、キランと輝いた。普段から口許を覆面で隠しているので、目が口ほどに物を言う。
 どうやら、自分で編み出したらしい戦術の説明をしたくてずっと待ち構えていたらしい。
「おし、そんじゃ、始めるぞ」
 朝霧垂を生徒として、紫月唯斗が突発の講義を始めた。
「まず、この足捌きが、どーいうもんか説明する。っても、ダッキングと摺り足の合わせなだけだけどなー。簡単に言うと、相手の攻撃を、速度を殺さず避けながら踏み込むってことだ。注意点は二つ。まず相手の攻撃に合わせる必要があるってこと。そして、範囲攻撃には弱いこと。まあ、応用でそのへんはなんとかなるんだけど、今回は基本だから覚えとけ」
「お、おう……」
 流れるように話し始めた紫月唯斗に、朝霧垂がうなずいた。
 朝霧垂としては、簡単な組み手からでも始まるかと思っていたのだが、いきなり座学から始まってしまって、ちょっと面食らっている。
「……で、実際の動きだが。構えはフリー。で、踏み込む際に上半身を一気に膝の高さくらいまで沈めるんだ。このとき、勢いにのせて踏み込んだ足を前に滑らせると、間合いの調節がしやすい。んで、その動きをバネに、上半身を持ち上げると同時に相手に攻撃を叩き込む。アッパー系になるけど、しっかり踏み込んでれば威力も上げられるから。応用として、縦軸の攻撃が加わったとき、両足首から先を回すことで軸がずらせるから、それで躱すわけだな。ただの振り下ろし程度なら、充分避けられる。が、どの程度動けるのかは、ちゃんと把握してないと削られたりするから注意な」
 一所懸命、紫月唯斗が極意を伝えようとするが、そこは我流であるがゆえ、今ひとつ朝霧垂にとってはピンとこない。なんとか頭の中で動きを組み立ててみようとはするが、具体的なタイミングや動きの大きさは紫月唯斗の言葉だけではまったく分からなかった。
 頑張って聞き続けてはみたものの、さすがに朝霧垂も飽きてきた。
「さて、そんじゃ、座学はここまで。後は実践してみようか」
「待ってました!」
 アクビを噛み殺し続けていた朝霧垂が、紫月唯斗の言葉に目を覚ました。
 さすがに、実際に組み手をしてみると、先ほど言われたことが実感として……、ええと、すでに忘れていたので、体感だけで判断することにする。
「この歩法、イコンにも応用できるんじゃないか?」
 なんとなく慣れてきたと思えたころ、はたと朝霧垂が思いついた。
「イコンでか? できるかなあ……。まあ、試してみるかー」
 朝霧垂の言葉に興味を持ったのか、紫月唯斗も乗ってくる。
 さすがに、本来のイコンであればパイロットの動きを完全にトレースすることはBMIでも使わなければ無理なはずであるが、二人が選んだのはインテグラルナイトであった。機晶制御装置を取りつけることによって、操縦を可能にした物だ。特殊なスーツを着たパイロットは、コックピット内でなかばインテグラルナイトと同化し、その肉体をコントロールするのである。
 紫月唯斗の乗る夜叉は、スリムな鎧武者風のシルエットをしている。暗紫色の光沢を放つ漆黒の装甲に被われた素体は真紅で、首からはマフラー状に赤い帯が靡いている。背部から肩にかけて装備されたイコンホースは、両肩に大きく張り出して、翼状の加速器として機能していた。
 朝霧垂の乗るは、女性型のほっそりとしたシルエットをしていた。本来四足歩行のインテグラルナイトでありながら、夜叉と同様の二足歩行型に変化している。その外見は、今まで朝霧垂が乗ってきたイコンの予備パーツを流用したハイブリッドとなっていた。フェイスは光龍の頭部装甲が面として使われている。後頭部から背中にかけては、黒麒麟の黄金の鬣が豪奢に流れ、さらに尾がのびていた。背部には鳳凰の翼と尾翼が広がっているといったほとんど合成獣だ。
 さすがに、両機とも格闘戦ができる性能とはいえ、形状的に格闘戦に特化したものではない。人型とは言っても、イコンの形は人間の形とは異なるからだ。
 いざ、イコンでの組み手を始めた二人は、それに悩まされることになる。人にはない翼や尾などが、どうしても接触してしまうのだ。なまじ、身体の動きを高精度で再現できるために、本来身体にはない部分の間合いがとりにくいのである。まるで、ごてごてした鎧と言うよりは、何かいろいろ出っ張った着ぐるみを着ているという感じだ。これが実戦であったら、それらの部分は被弾してダメージを受けているということになる。
 さらに、人とは関節の自由度が違うのも大きな問題であった。通常の鎧でもそうではあるが、装甲同士の接触によって、生身では可能な動きも大きく制限されるのである。
 だいたいにして、大型ブースターを装備した機体同士で歩行による格闘戦をする時点で、本来は詰んでいる。機体特性も何もあったものではないと言うところだ。
「これは、簡単にはいかないな……」
 完全に頭を切り換えないと、イコンでの格闘は難しいと紫月唯斗がつぶやいた。機械である純粋なイコンであれば、可能なモーションをパターン登録して、格闘ゲームよろしくコマンド入力の連続技でいろいろな格闘技が再現できる。もっとも、パターン外の攻撃はできないわけだが。これがインテグラルナイトでは、パターンの制限がない代わりに、全てはパイロットがその都度コントロールしなければならないわけだ。それができなければ、盛大にずっこけるだけである。この場合、むしろ生身の感覚は時として邪魔になることもある。ましてや、いろいろな装備をつけ、武器を携帯している状態でである。格闘に持ち込むには、邪魔な物が多すぎるのだ。
「うー、だいたい分かってんだから、後は勘だ!」
 どうにもうまく再現できないので、朝霧垂がキレた。結局、相手の懐に摺り足で滑り込んで、ぶっ飛ばせばいいのだろう。
「これでどうだ!」
 鵺が突っ込んで、夜叉の腹部にパンチを入れた。
「おお、そ、それだ。よく会得した!」
 後ろにのけぞりながら、紫月唯斗が感心したように言った。実際には、紫月唯斗の指導はほとんど役にたっていないのだが、結果はだいたいあってる……というところだろうか。