リアクション
ツァンダにて 「ふふふふ、今日はエイプリルフールですね。これは、何か考えないと……」 日めくりカレンダーの「1」という数字を前にして、両手を腰にあてた山葉 加夜(やまは・かや)が、何やら悪巧みしていた。 「うーんと、そうだ!」 ポンと、軽く手を打ち合わせると、山葉加夜が寝室へとむかった。 「涼司君、朝ですよー。起きてくださーい。起きないとくすぐっちゃいますよー」 にこにこしながら、山葉加夜が山葉 涼司(やまは・りょうじ)から掛け布団を引き剥がした。 「……、もう少し……」 連日の仕事に疲れたのか、それともいろいろで疲れたのか、山葉涼司がダブルベッドの上で丸くなった。 「もう、パパなんですから、ちゃんとしてくれないと困ります♪」 「ほへっ?」 わざとらしく科を作る山葉加夜の言葉に、山葉涼司がベッドの上で身を起こした。 「できちゃったみたいです♪」 身体をクネクネさせながら、山葉加夜が言った。これは、インパクト大だろう。勝った、エイプリルフールに。 「涼司君、……涼司君?」 反応を確かめようと山葉涼司を見た山葉加夜が引きつった。ベッドの上に、石像がおいてある。いや、固まって石になった山葉涼司だ。 「もしもーし。涼司君、もしもーし」 ショックが大きすぎたかなと、山葉加夜が山葉涼司のそばで呼びかけた。とたんに、山葉涼司が復活する。 「な、な、な、なんだってえー」 山葉加夜の両肩を掴んだ山葉涼司が、勢いよく彼女の身体を前後にゆさぶった。 「じょ、冗談ですよ。今日は、エイプリルフールですからあ。ちょ、ちょっと、落ち着いて……うっぷ」 乱暴にゆすられたので、気持ち悪くなって山葉加夜が洗面台へと直行した。なんだか、吐き気がこみあげてくる。 「このくらいで、ちょっと疲れたのかなあ」 鏡に映る自分の顔を見ながら、山葉加夜がつぶやいた。 ★ ★ ★ 「凄いです、これ全部お店なんですか!?」 ツァンダ商店街を歩きながら、ラフィエル・アストレア(らふぃえる・あすとれあ)がクルクルと首を左右に振りながら叫んだ。 「まあ、今日は新年度のバーゲン中だからなあ。いつもよりはちょっと派手だけど」 まだまだこういうことは珍しいのかと、ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)がラフィエル・アストレアを見て、ちょっと新鮮な気分になる。 「好きな物買っていいのだよ。浪費や趣味物買いはヴァイスで慣れておる」 「いつオレが浪費したよ」 アルバ・ヴィクティム(あるば・う゛ぃくてぃむ)に言われてヴァイス・アイトラーが即座に言い返した。とはいえ、いちいち指摘されそうになって、あわててごまかす。まあ、趣味の細々した物をよく買うのは事実だから、浪費とは思わないが、細かく突っ込まれるとちょっと耳が痛い。 そんな二人の姿を見て、ラフィエル・アストレアがクスリと笑う。 「じゃ、まずは着る物からだな。任せとけ」 ヴァイス・アイトラーがラフィエル・アストレアをブティックへと連れていった。仕事柄、女物の服やアクセサリーには抵抗がない。知識だって、まあある方だ。 「こ、これ、全部買ってもいいんですか!?」 「い、いや、全部は、さすがにね……」 キラキラと目を輝かせるラフィエル・アストレアの言葉に、ヴァイス・アイトラーがちょっと頬をひくつかせて答えた。さすがに、店全部を買ってくれと言われたら、こちらとしても対応しきれない。いや、親馬鹿なアルバ・ヴィクティムなら、もしかすると……。 「とりあえず、着られる物だけね。気に入った物あるかな、これなんかどうだろう」 ヴァイス・アイトラーが、ラフィエル・アストレアに似合いそうな服を見繕ってきて言った。服選びが始まってしまえば、後は本当に選ぶだけである。楽しく、好きな服を探せばいいのだ。 しばらくラフィエル・アストレアの着せ替え遊びを楽しんだ後、ヴァイス・アイトラーが選んだ服をレジへと持っていく。一応下着類は店員さんに任せたが、きっちりと数を買い込む。本来であれば、可愛い物をきっちりかっちり選びたかったのだが……。 「次は、どこへ行かれるんですか?」 初めてのショッピングにわくわくしながらラフィエル・アストレアが訊ねた。 「そうであるな、次はラフィのための整備器具であるかな」 「整備器具?」 アルバ・ヴィクティムに言われて、ラフィエル・アストレアがちょっと不思議そうに聞き返した。 「ほら、うちには機晶姫用のメンテナンス設備がなかったのでな。大型の物は後で手配するとして、まずは必要な物をと思ってな」 「どんな物が必要なのですか?」 ふむふむと、ラフィエル・アストレアが訊ねた。メンテナンスは受けたことがあるが、あまりはっきりした記憶はない。 「そうであるな。まずは、ハンマー」 「えっ!?」 一瞬にして、ラフィエル・アストレアが凍りついた。まさか、ハンマーで、頭をポカリとかするのだろうか。 「ドライバー」 クルクルはダメー。 「それから、ノコギリ」 「ええっ!?」 ギコギコは、嫌ー。 「カンナ」 「えええええー!」 「ドリル」 「ひー」 「ピンセット!」 「もうだめー」 いったい、メンテナンスとは何をすることなのだろうと、ラフィエル・アストレアが引きつる。 「そのへんにしようよ。どうせ、エイプリルフールだろう?」 さすがに、見かねたヴァイス・アイトラーが間に割って入った。 「エイプリルフール? ははははははははははははは、そ、そうであるな。そ、そうなのだよ。ははははははは……」 なぜか、アルバ・ヴィクティムが大声で笑った。 |
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