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学生たちの休日15+……ウソです14+です。

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学生たちの休日15+……ウソです14+です。
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「まあ、世の中には、知っておいた方がいいことと、そうでないこともある……ということだな」
 日本から海京にむかう船の上で、新風 燕馬(にいかぜ・えんま)がつぶやいた。
 今日は、海京のメディカルセンターへ半ば無理矢理入院させたサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)の退院の日なのである。そのため、これから迎えに行く途中なのではあるが。
 記憶をなくしているサツキ・シャルフリヒターのことも気がかりであったのだが、それ以上に、なぜテロ組織の一員だった女にここまで関わろうとしたのか、自分でも疑問だったのだ。なにしろ、出会ったときには、返り血で半身を真っ赤に染めながら、ナイフを持って声をあげて笑っていたような女なのだ。
 今回実家に帰省して調べたのだが、今は亡き父親の身辺の物からもろに手がかりと言うか、証拠が出て来てしまった。
 あちこちで女を作っていたろくでもない父親であったのだが、どうやらあちこちに義理の娘をかかえていたらしい。総勢一二名と言うから驚きだが、本当に新風燕馬と血が繋がっていないのだろうか。子連れフェチというわけでもないだろうに。
 そのへんはおいおい調べるとしても、どうやら、サツキ・シャルフリヒターはその中の一人であったらしい。つまり、新風燕馬の義理の姉に当たるわけだ。本名は新風颯輝(にいかぜさつき)。
 さて、これからどうしたものか……。
 とりあえずは、診断の結果からだが……おや、あれは……。
 考えることが多すぎて、半ばぼーっとしながら海京に上陸した新風燕馬であったが、桟橋で見知った顔を見つけて思わず足を止めた。いや、忘れても、忘れられない顔だが。

    ★    ★    ★

「釣れないですぅ……」
 桟橋から釣り竿で海に釣り糸を垂らしながら、フィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)が言った。
「やはり、海鮮料理の材料を自分で揃えるのは無謀でしたわね……」
 隣にいるリューグナー・ベトルーガー(りゅーぐなー・べとるーがー)も、飽きたように変化のない海面を見つめていた。
 いいかげん逃走資金もそこをついたのか、ついに自給自足にまで追い込まれていたらしい。
「アホなこと言ってないで、こっちを見ろ! 偽幼女共!」
「ひー、なんでここにいるんですぅ!」
「幻ですわ、嘘ですわ、四月一日ですわ!」
 突然現れた新風燕馬に、フィーア・レーヴェンツァーンとリューグナー・ベトルーガーが予想外にあわてた。
「残念だが、現実だ」
 むんずと二人の首根っこを掴んで、新風燕馬が言った。
「ひー」
「例の金の件、不問にしてもいいが――条件がある」
「なんでもやらせていただきますですぅ……」
 新風燕馬にちょっと凄まれて、リューグナー・ベトルーガーが情けない声をあげた。
「――コントラクターブレイカーを、手に入れてこい」
「それ、ありえないほどの無茶振りですわよ!?」
 エイプリルフールにしても、たちが悪いとリューグナー・ベトルーガーが引きつった。

    ★    ★    ★

 そのころ、メディカルセンターではサツキ・シャルフリヒターが新風燕馬の迎えを待っていた。
 検査結果は、身体的には特に問題はなし。ただし、パラミタ化強化手術を受けて強化人間となったときに、脳の処理に問題があったのか、記憶障害を起こしているということであった。方向音痴というのも、その影響らしい。まあ、手術ミスと言えなくもないのだろうが……。
「生活に支障はないけれど、燕馬は気にするのでしょうね……」
 どう説明しようかと、サツキ・シャルフリヒターはちょっと溜め息をついた。

    ★    ★    ★

 はらはらと桜の花弁が舞い落ちてくる。
 縁側の上に、春の足跡のように点々とならんでいく。
 鑑 鏨(かがみ・たがね)膝の上に頭を載せながら、硯 爽麻(すずり・そうま)は夢を見ていた。
 それは、昔あった光景なのであろうか、それとも、夢の作り出したただの物語……。
 その中で、硯爽麻と鑑鏨は頭首に呼び出されていた。だが、実際に二人を呼び出したのは霞 楔(かすみ・くさび)だ。数代前の頭首だと名乗っている。なぜ、そのような存在が、現れたのだろう。
 どうやら、実力を示さなければならないらしい。
 その相手は……。
 霞楔が呼び出した物は、鑑鏨そっくりの使い魔だった。
 それを倒さなければ、自分たちの実力は示せない。そう語られた。
 そして、負けた。
 歴然とした実力の差は、現実のことなのだろうか。それとも、全ては夢幻か。もしかして、これは正夢で、これからも、数多くの試しを受けていかなければならないのだろうか。独りで? それとも……。
「どうした? 悪い夢でも見たのか?」
 鑑鏨が、硯爽麻の様子に気づいて、心配そうに訊ねた。
「うん……、大丈夫」
「そうだ、大丈夫だ」
 硯爽麻の言葉に、今は隣に自分がいると、鑑鏨がささやいた。

    ★    ★    ★

「春だって言うのに、桜がないとはなあ」
 海京の商店街を歩きながら、岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)がちょっとぼやいた。
 別段、桜の樹が一本もないと言うことはないのだが、どのみちここの気候ではすでに葉桜だ。
「桜なら、あそこに、ほら」
 そう言って、山口 順子(やまぐち・じゅんこ)が、商店街の街灯を指さした。桜祭りと称して、桜の造花が全ての街灯に縛りつけられている。
「いや、桜祭りなら、本物の桜をだなあ……」
 プラタナスの街路樹を見渡しながら岡島伸宏が言った。だいたい空京なんだから、バイオでプラタナスに桜の花を咲かせるとか、名乗るほどでもない超能力者が桜の花を咲かせたっていいものであるのに。
「さすが、それは無理では……」
 ははははと、山口順子が引きつり笑いを浮かべる。
「だったら、せめて桜餅を買おうじゃないか」
 色気よりも食い気に走る岡島伸宏であった。
「そうですね。ああ、あそこで売っています」
 山口順子が、和菓子を売っているワゴンを見つけて指さした。
「桜餅? なんだ、あのピンクの物体は?」
 ワゴンに載せられた桜餅を見て、岡島伸宏が首をかしげた。
「何って、桜餅ですよ、ほら」
 山口順子が、あんこを薄いピンクの焼き皮と桜の葉の塩漬けでくるんだお菓子を指さした。
「いや、桜餅って言ったら、半殺しの餅であんこをつつんで桜の葉でくるんだ……」
「えー、それ違うお菓子でしょ?」
 山口順子が叫んだ。
「なんだか、騒がしいカップルがいるなあ」
 横を通りすぎた大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)が、岡島伸宏たちを振り返って言った。
「長命寺がどうしたのでしょうか?」
 天城 千歳(あまぎ・ちとせ)も、おかしいなと言う顔で言った。
「そういえば、そろそろお腹が空きましたね。お茶でも飲みませんか?」
「それはいいな」
 天城千歳の言葉に、大田川龍一がすぐに賛成した。なにしろ、両手には、天城千歳の買った服やらアクセサリーやらの紙袋がこれでもかと提げられている。さすがにちょっと小休止したいところだ。
 近間の喫茶店に入ると、大田川龍一がコーヒーを頼んだ。
「あら、桜餅セットがありますね。それにいたしましょう」
 先ほど桜餅を見て食べたくなったのか、天城千歳が桜餅セットを頼んだ。
「まあ、道明寺ですのね」
 運ばれてきた桜餅を見て、天城千歳が言った。竹楊枝でそれを半分に切ると、突き刺したそれを大田川龍一の眼前へと差し出す。
「はい、どうぞ。あーん」