|
|
リアクション
第一章
破壊率0〜25パーセント
雪景色の荒野に、銃声が鳴り響いていた。
現在、五人でチームを組んでいる男たちがマシンガンを手に、ひとつの雪山を集中砲火していた。
やっているほうは実に爽快そうだが、審査員および観客たちはヒマそうだ。最初はギャラリーもその弾幕攻撃に湧いていたが、ずっと同じことを繰り返しているのでさすがに飽きた様子。派手は派手なのだが、一部の観客はあくびまでしている始末。
「あーあ、なんか始まったばかりなのに気が抜けちゃうわね」
と、何かがたくさん入ったカバンを担いだセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)がぼやいた。
「あら、気が合いますね。私も飽きてきたところなんです」
ラルウァ 朱鷺(らるうぁ・とき)も退屈そうにあくびを噛みしめて、隣に立つセレンフィリティに言った。
「ま、派手は派手なんだけどな。掴みは良かったのに今ひとつ『捻り』が足らねえんだよな、あの組」
ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)もセレンフィリティのまた隣で呟いた。
「さて、あたしも準備できたことだし、ぼちぼち始めようかしら。あんたたちには負けないわよ」
「くすくす、セレンフィリティさん、やる気満々ですわね。朱鷺も始めるとしましょうか。皆様も見ている人たちに素晴らしいものが見せられるよう、励みましょう?」
「おう。あんたらも怪我しないようにな。俺たちもそろそろ行くか」
と、三人が別々の方向へと歩き出した。
■■■
ざわざわ、と観客が騒がしくなった。
目の前にそびえ立つ3メートル級の雪山の群れに向かい、しゃり、と雪の上を歩く美女が二人。
セレンフィリティと、彼女のパートナー、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。
観客たちと審査員たちが二人に注目する。何しろ、この寒い日にビキニ姿とレオタード姿だ。
「ねえ、セレン。今更だけどこの格好、ものすごく注目を集めるわね」
「別にいいじゃない。どうせ今からコレを使って暑くなるんだからこのほうが都合がいいわ」
と、セレンフィリティが担ぐカバンを見た。
「改造、もう終わったの? あの町長さんが話している間ずっと何かを作ってたけど」
「ええ。機晶爆弾をいろんな爆弾に作り替えてやったわ。マシンガンの弾幕なんて記憶の彼方に吹っ飛ぶくらいドハデなものを見せてやるわ。あんたもあんたで、パフォーマンス考えてきたんでしょ?」
「まあ、一応ね。お互い、ベストを尽くしましょう」
にぃ、とセレンフィリティは笑うと、カバンを開けた。スキル・破壊工作とイノベーションを駆使して作り上げた数種類の爆弾。すべてをどう使うかはもうイメージ済み。
「いくわよ!」
一言置くと、ビキニ美女の姿が消えた。
スキル・ゴッドスピード。常人の肉眼では正確に捕捉することはもはや不可能。分身しているようにも見える。
雪山の群れのとある位置に爆弾を次々に設置し、風よりも速く駆け抜けていく。すべての爆弾を設置し終えるとスキルを解除。ギャラリーはもはや豆粒にしか見えないくらいの距離で、セレンフィリティはゆっくりと立ち上がった。
起爆時間を迎え、まずはテルミット焼夷弾すべてが爆発。薬剤をぶちまけ、火が付き、高熱の炎が繋がり、雪山が一斉に溶けはじめる。続いて発破用の破壊爆弾が起爆。爆炎も雪山の欠片も水しぶきと共に吹っ飛ばす。最後に打ち上げタイプの花火が誘爆、点火。空へと打ち上がり、セレンフィリティが前髪をかき上げると、カラフルな炎の花が空に大量に咲いた。
ギャラリーから溢れんばかりの喝采と歓声。周囲の気温とともに会場の空気も一気に熱くなった。
「やれやれ、相変わらず派手好きね。もっとも、そういうところがイイんだけど」
別方向の雪山に向かい、ざん、と大剣を地面に突き刺すセレアナ。装備してきた機晶石から炎が吹き出し、身体に纏わせる。続いて炎のルーンカードを使う。召喚された炎が形を為し、さながら分身のように隣に降り立った。
突き立った剣を握る。すると、剣も炎を纏った。
スキル・爆炎波。剣を振ると、その軌跡を高熱の赤い炎が辿る。
「さて……」
セレアナが駆け出す。
自分の身長の倍はあるであろう雪山に赤い炎が舞い踊り、大剣が雪山の腹部を切り裂き、跳躍とともに軽やかで鋭い斬撃を見舞わせ、華麗な連続攻撃で美しく切り刻んでいく。傍らの炎の分身が追撃し、同時に攻撃を加えて破壊力を上乗せしたり、見事な連係を見せつける。
そしてその動きと攻撃のすべてを、紅蓮の火炎がなぞる。
座っていた観客も思わず立ち上がってのスタンディングオベーション。さながらフィギュアスケートのごとく、セレアナが数本の雪山を舞い削り、あたりの雪を完全に消滅させた。
ざん、と再び剣を地面に突き刺すと、纏っていた炎のすべてが消え、高熱で蒸発し、空気中に散った水分が虹を作り出した。
■■■
「ふふふ、見せつけてくれますね」
朱鷺は、向こうでドハデに暴れるセレンフィリティと美しく舞うセレアナを見て、素直に感嘆する。
一人雪原に立つ着物の女性。それだけでも非常に絵になる。
朱鷺もまた、セレンフィリティたちとは違った姿で注目を集めていた。
「実は少し苦手なのですよね、炎のスキル」
加えて、寒いのが苦手な彼女。いい機会なので、スキルの鍛錬をしようと考える。
「この辺りを、フライパンにでもしましょうか」
朱鷺がスキル・怒りの煙火を発動。凍結した雪の層の下で地面が割れ、そこから溶岩が噴出してくる。辺りの気温が異常な速度で上昇していくことに、ギャラリーがざわつき始めた。
「くすくす、やっぱり暖かい方がいいですわね」
周囲の雪原がゆっくり沈んでいく。噴出してきた溶岩はそれほど多くはないが、摂氏1度以上の温度になれば溶ける雪ならば少ない量の溶岩でも充分に溶かすことができる。
「頃合い、ね。お次はこれです!」
続いてスキル・マジカルファイアワークス。自身の魔力を色鮮やかな炎に変えて打ち出すもの。セレアナが生み出した虹のごとく、七色の火炎弾が乱射された。
おおお、と歓声が上がる。
着弾し、爆発すると水蒸気と水しぶきが舞い、たった一人での出場にも関わらず、驚異的な速度で一帯の雪山が消えていく。
最後に、溶けた雪原から溶岩が吹き上がると、周囲の気温がいい感じに暖かくなり、半径100メートルほどの雪が完全に消滅し、より広い範囲の雪を溶かす。太陽の光が雪の水分を輝かせ、幻想的に見せた。
「ふう……加減が、難しいですね」
と、涼しい顔で朱鷺は髪を後ろに払うと、観客から大歓声と拍手が響いてきた。
■■■
「うお、すっげえな。マグマだよ、マグマ」
また別の地点、ハイコドと彼のパートナーたちが朱鷺のパフォーマンスを見て、拍手を送っていた。
「さ、私たちも負けていられないわ!」
「そうね。ハコくん、準備はどう?」
ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)、ニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)は奮起する。
「おう。もう少しだ。俺たちもバチッと決めような」
ハイコドはスキル・自在で作り出した大鎌をぶんぶん降り回し、雪山に何か細工をしている。
「ねえねえお姉ちゃーん」
「わ! な、なによソラ。少し気味が悪いわよ」
「ね、ね、温泉旅行に行ければ他人の目を気にしないでハコの匂いを嗅げるんだよ。ふへへへへ」
「ちょっ!? そ、そうね! ゆったり休む、休め、温泉、いいい、行ければ楽しいわよね! うん!」
悪魔のような囁きと突然パニックしだすニーナ。
「よっしゃ、こんなもんでいいだろ……って、どうした? なんでいきなりパニクってるんだ?」
「なななな、何でもないわよ!」
「げふんげふん。さあ、おっぱじめましょう! 轟け私たちのハウリング!」
「なんだそりゃ」
ニーナがようやく落ち着いたところで、ハイコドたち三人のパフォーマンスが始まった。
下ごしらえとして、ハイコドが雪山の形を少し整える。その理由は、ニーナのスキル・回転眼の効果を高めるためだ。回転眼はその目ではっきり見たものを回転させる能力を持つ。
「さて、行くわよ!」
かくしてスキルが発動。形を整えられた数本の雪山が横回転を始めた。
観客から歓声が上がった。
ダメ押しにハイコドが回転する雪山に鎌を軽く当てて形を完全に玉にすると、綺麗な真っ白の雪玉が完成した。
「よし。お姉ちゃんやるわよ! ハコ、しっかりついて来るのよ!」
ソランとニーナが獣人から狼に変化。口に剣を加えて駆ける。ソランが青、ニーナが赤の刀身。雪玉に何やら切れ込みを入れながら赤と青の軌跡が雪原を疾駆していく。
「おっしゃ! いくぜ!」
ハイコドが両手に気を溜める。凝縮された気を雪玉の切れ目に叩き込む。それを、すべての雪玉に対して実行。
ハイコドの持つスキルのひとつ、その名も『滅破牙狼拳』。凝縮された気が雪玉に打ち込まれる様は、狼が噛みつくように見えるという。
自分の身長よりも大きな雪玉は、やがて爆発。打ち込まれた気が炸裂し、内部から木端微塵に破壊されていく。その衝撃は地面の雪まで伝播し、辺り一帯の雪をめくり、空へと高く打ち上げた。
飛び散った雪玉や雪原の欠片は狼化したジーバルス姉妹がすべて空中で粉砕。さながらダイヤモンドダストのように粉々になった雪がきらめいて降り注ぐ。
ハイコドは鎌を肩に担ぐと、その前に二頭の狼が着地。勝利の咆哮を轟々と上げ、遠く遠く響き渡っていった。