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雪山大破壊祭り

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雪山大破壊祭り

リアクション

第四章
破壊率76〜100パーセント

 祭りもいよいよ終盤。これといった問題も障害も発生せず、契約者たちは気合と根性、仲間との絆と愛、はたまた恨みや鬱憤をありったけ込めて大暴れしていた。
 おかげで七割ほどの雪の海が除去され、日も傾き始めていた。
 ちなみに今、モコトの町では地元のおばちゃん総出で豚汁を仕込み始めている。

 雪原には、大小さまざまなサイズの雪山がある。機械文明をほとんど利用していないモコトの住民は手作業でこの雪山を作ったわけだが、大きいものだと4メートルを超え、最大級が10メートル。一体何故頑張ってそのような大きな雪山を作ったのかについては誰も触れないしツッコまない。
 今、その最大の雪山の頂上に登って景色を眺める女性が一人。
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はあちらこちらで起こる爆発とか衝撃波とかを見ながら、ポケットからリモコンを取り出した。
「いい眺めであります。ではそろそろ、少々古いでありますが……ぽちっとな」
 すると、ここまで登る途中で仕掛けてきた爆弾が一斉に爆発。バランスを失った雪山は爆風と熱でとろけ、小規模ながら雪崩を引き起こす。その雪崩は周囲の雪山を飲み込んで押し流していく。
「ふっ。テロで鍛えた破壊工作ならばこのくらいの雪山、造作もなく破壊できるのであります」
 爆発と雪崩は、最大級の雪山を難なく削り取り、みるみる縮んでいく。
「あ」
 と、吹雪の足元も崩れ出した。

「おお。すっげえ。誰だか知らねえけどあの馬鹿でかい雪山が壊れていくぜ」
「あ、ほんとだ。一体どんなスキル使ったんだろうな。俺たちじゃちょっと難しい……ん? なんだあれ」
 別地点で雪山の破壊にいそしんでいた二人の軍人が巨大雪山の方を見て、目を凝らす。
「何かが、転がって……ってうお! あぶねえ!」
 二人は一斉に前方でダイビング回避。先ほどまで二人が立っていた位置を、雪玉らしき大きくて丸い何かが通り過ぎた。
 そのまま別の雪山にぶつかると、なんと雪山の方だけが粉砕され、しかし勢いが止まらない。立て続けに雪山を何本も破壊し、時々参加者を轢きそうになりつつ、合わせて十個の雪山を粉砕すると、雪玉が割れた。
 中から目を回した吹雪が出てきた。

 彼女の成績には、得点の横に『ストライク』と表示された。
 
■■■

「いや〜、びっくりしたね。いきなり目の前を雪玉がごろごろってさ。みんな、当たってないよね?」
 雪玉となった吹雪が転がった軌道上の地点、神崎 輝(かんざき・ひかる)がパートナーの二人に振り向いた。
「僕は大丈夫ですよ、マスター」
 七瀬 紅葉(ななせ・くれは)が両腕をぶんぶん振り回して元気をアピール。
「私も無事よ。なんたって最強アイドルなんだから!」
 水瀬 灯(みなせ・あかり)も力強く返答。
 この三人は先ほどのリポーターの二人組同様、アイドルグループとして活動している契約者だ。歌って戦えるアイドル目指し精進中。今日もアイドル活動として祭りに参加している。
「さて、気を取り直して行こう! 私たちのコンボ攻撃で最強アイドルの実力を見せつけてやろう!」
「アイドル……そもそも、アイドルって言うんですかね、これって?」
「まあまあ。灯がすごいやる気出してるし、ボクらも頑張ろう」
「はい、マスター!」
 改めて、三人が雪山の前に立った。
「二人とも好き放題、やっちゃって!」
 輝が強く言う。
「アドリブもサポートも、ボクに任せてよ!」
 輝がスキル・激励、同時に震える魂を使う。アイドルとして歌は欠かせない要素。その力で紅葉、灯が奮い立つ。
「はい! 頼りにしています! 行くわよ紅葉!」
「了解です、灯さん! 機晶合体、実行します!」
 機晶姫である紅葉と灯の武器や装甲が一時分離。本体である二人の体がまずひとつに重なり、紅葉の赤、灯の青の装甲が再度接続された。

 ギャラリーの一部が熱烈に湧いた。

 合体した二人はそのまま離陸。同時、輝はこれから起こる爆撃を警戒して雪山から少し離れた。
 紅葉が身体の制御を司り、灯が攻撃面を統制する。すでに攻撃準備は完了している。あとは、合図を待つだけ。
「ボク達の歌、今回限りの特別PVで……」
 輝が、再び歌いだす。
「目で見て、耳で聴いてください」
 スキル・怒りの歌。このスキルの発動を合図に、灯がスキル・恋する一斉射撃(フルバースト)を起動、各種兵器を乱射する。
 このスキルは、曲でもある。曲のテンポ、抑揚、音の大小に合わせて兵器を切り替え、弾幕の密度を調整。加えて、地上でサポートに当たる輝もショルダーキーボードによる弾幕で支援攻撃。曲が終わる頃には、雪山ひとつどころか、三個とその周辺の雪原を完膚なきまでに粉砕していた。
 合体を解除して自分の前に降りてきた二人を見て、輝は思う。
 ――離れててよかった。
 もう少しで、あの爆撃に巻き込まれるところだった。
 そんなことを考えた時、後ろのギャラリーから、特にアイドル好きとロボット好きから熱烈な歓声が上がった。

■■■

 いよいよ順番も最後となった。
 今回出場した参加者の中で、一番最後に順番を指定した契約者パーティがいる。
 それが、今、雪原を歩く四人の男女だ。
「ふふふふ、こういうの、楽しいね!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が足取りも軽くそう言った。
「丁度いい訓練になるな。皆、強化は済んでいるか?」
 と、真面目な言葉と真剣な表情の夏侯 淵(かこう・えん)。すでに彼も装備やスキル効果で可能な限りの強化は済ませている。
「まったく、お前らも物好きだなあ。確かにこんなことを試すなんてそうそうできないけど」
 といいつつも自己強化とスキルの準備は完璧なダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
「にしても、優勝したらどの賞品もらえるんだろうな。やっぱあれか? アグレッシブ賞の二泊三日の旅行券か?」
 と、賞品ゲットに意欲を燃やすドラゴニュートのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)
 あらかじめ、ギャラリーには雪原から少し離れてもらうようにお願いした。自分たちも今、結構離れた位置までやって来た。
 ここまで離れればいいだろう。四人は互いに目を合わせあうと、ルーが赤い翼、ダリルが黒い翼、淵とカルキノスがドラゴンのような翼を背中から出現させ、上空へ飛んだ。
「そろそろ、いっきますか!」
 応、とルーの言葉に呼応するパートナーたち。
 これからこの四人は一発ずつ、ひとり一回だけ攻撃スキルを使用する。
 それらは、彼らが自らを研鑽して磨き上げた、遁甲術というスキルだ。このスキルは仲間と同時に発動すると、力が乗算される性質を持つ。四人全員でスキルを発動させればどうなるか。
「タイミングを合わせろ。力のコントロールをしくじるな。何しろ、8倍の力だ。怪我人どころかディザスターパニック映画がノンフィクションで撮れるぞ」
 ダリルの言う通り、8倍。規模だけでいうなら、今大会参加者中、最強だ。
 かくして、ルーの火門遁甲、ダリルの風門遁甲、カルキノスの地門遁甲、淵の水門遁甲の術が発動。
 乗算された、ルーたち自身も感じたことのない巨大な力が渦巻く。
 まずカルキノスの地門遁甲の力で、大地そのものを振動させる。ちょっとした地震だ。

 ギャラリーがいきなりの地震に戸惑いと驚きの声を上げた。

 この地震により、残った雪が撹拌、雪同士の結合が少し緩くなった。
 続いてルーの火門遁甲で火と高熱を作り出し、まき散らす。片っ端から雪が高熱で溶け、蒸発し、水蒸気となる。熱気と冷気の温度差が風を生み、炎が荒れる嵐が生み出される。
 ルーと同時、淵の水門遁甲で熱により溶けだした雪を中心に雪原全体を操り、雪崩のような激流を作り出し、渦巻かせる。
 まさに天変地異。そんな大災害を、ダリルの風門遁甲の力ですべて上空へ。熱暴風も雪崩も残さず天空へと持ち上げると、雲のように細かい水の粒に変わった。

 残された雪山すべてを消し飛ばしたルーたちは、互いに手を叩き合うと荒野に戻った地面に降り立った。
 観客たちは拍手も歓声も忘れて、ただただ口を大きく開けて空を見上げていた。

■■■

「おい、見たか最後の! すごかったぞ! 天変地異が起こってよ!」
「は? 天変地異? 何言ってんのかよく分からねえんだけど……」
「いやいや、天変地異よりも変形合体ロボットとアイドルの組み合わせこそ最強だろう! 見ろあの高得点!」
「変形合体ロボット!? そんなのいたのか! うわー、見たかったな」
「オイ! ストライクってなんだ!? よく見ると一部の人の成績、文字が入ってねえか!?」
「主催者どこだ! あの文字の意味を詳しく問い詰めるぞ!」