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雪山大破壊祭り

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雪山大破壊祭り

リアクション

第二章
破壊率26〜50パーセント

 賑やかな会場から離れたモコトの町では、大きな看板に現在の参加者の獲得点が張り出されていた。
 芸術点、技術点、迫力点と、それぞれを足した総合点が赤字で書かれている。
 序盤の、見ている方が飽きてくるような組が多かった中、セレンフィリティ組、ハイコド組、単独で出場のラルウァ 朱鷺の3チームがライバルも納得の超高得点を叩き出し、4位以下をダブルスコアで引き離していた。破壊された25パーセントほどの雪原はほぼ彼ら3チームで破壊したようなもの。
「すごかったな。あの水着の姉ちゃんたち。花火に爆発に演舞にと個性大爆発だったな」
「あの着物の姉ちゃんもすごかったよな。綺麗な魔法にマグマまでどかーんってクールに決めてたよな」
「あの獣人3人組も見事だったよな。雪玉作って破裂させて、空中で粉々に砕くんだもんな。あんなことできるんだな、契約者ってのは」
 と、観客や参加者からも注目の的である。

■■■

 会場では、次の参加者が進み出てきた。
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)のペアと、単独で出場の紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だ。
「ん? あんたらは魔法使いか。強敵現るってヤツだな」
 唯斗は隣を歩くエリシアに声を掛けた。
「あら、そう言っていただけて光栄ですわ。あなたも優勝狙い?」
「そりゃ、やるからには優勝もしたいけどな、今回は新技を試そうと思ってるんだ」
「新技? 羨ましいですわ」
「ありがとよ。けど折角の技が宝の持ち腐れにならないよう、しっかりと性能を把握しておかないとな。護りたいと思う奴を護るためにも」
「激しく同意、ですわ。それではお互い、納得できる成果を出しましょう?」
 応、と唯斗は右腕を振り上げた。

■■■

「さて、わたくしたちの出番ですわよ、ノーン」
「うん! OKだよ!」
 ノーンが背中から氷の翼を出現させた。そして羽のような身軽さで空へと跳ぶ。観客がまずそちらを向いた。
「本日不在の主、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のために、優勝と賞品を目指して!」
 エリシアが帽子を摘み、精神を集中させる。手加減する気は一切なし。
 火炎系魔法スキル・ファイアストーム。辺り一帯を灼熱の炎が包み、荒れ狂う。高熱を浴びた雪は一斉に溶けはじめた。
「お次は空からの贈り物ですわ! 来たれ、天を貫き、矢のように」
 火炎系魔法スキル2発目は、天の炎。未だ形を保つ雪山の群れに直撃。着弾と同時に強い熱風が吹き荒れた。
 途端、ギャラリーが大いに沸いた。
 その風に逆らうようにエリシアが走り出す。右手に剣、左手に刀の二刀流。どちらも炎熱の属性を持った特殊な剣。氷など、さして力を入れなくても斬れる。
 物理系スキル・エクス・スレイヴ。溶けて倒れ行く雪山を剣士顔負けの剣捌きで切り刻むと、今度は背中に装備した翼を展開。今だ吹き荒れる熱風に乗って飛んだ。
 観客が、一斉に空を見た。
「お待たせしましたわ、ノーン。決めますわよ」
「りょーかい! いつでもイケるよ!」
 とどめのコンボの掴みは、召喚魔法バハムートとフェニックスの同時召喚。フェニックスが雪原を低空飛行で滑空すると、その熱でさらに広範囲の雪が溶けだす。柔らかくなったところを、バハムートの爆炎とエリシアのダメ押し、ワルプルギスの夜で追撃。雪は溶けるを通り越して蒸発し、水蒸気となって空に舞い上がった。
「うわー、派っ手! お客さんも大喜びだね! 今度はわたしからのプレゼント、なんてね!」
 水蒸気はかなり大量で、空からも視認できる。そんな水蒸気に対して、ノーンが氷結系魔法スキル・ホワイトアウトを発動。結構手加減した。
 水蒸気が冷気を取り戻し、雪に戻っていく。本来ならば吹雪まで発生させるスキルなのだが、別のスキル・雪使いなどと併用すれば穏やかな降雪に変えられる。
 おおお、とギャラリーがまた歓声を上げた。
 そんな穏やかな雪が降り注ぐ荒野の上に、エリシアとノーンが着地。2体の召喚獣を退喚させる。
「いつだって魔女はきまぐれなもの、ですわ」
「すっごく綺麗にできました!」
 と、ここで強めの風が吹く。ノーンが生み出した雪がすべて、ギャラリーたちの方へ飛んでいった。
 この風はスキルではない。自然の風。偶然の産物に、二人は手を叩き合い、観客は盛大な拍手を送った。

■■■

「お〜、やっぱ魔法ってのはすっげえもんだな」
 唯斗は離れた場所からでも視認できる、エリシア・ノーンペアのパフォーマンスに拍手を送っていた。
「……にしてもこの祭り、タイミングがちょうど良かったなー。編み出したばっかりのこの技、試したかったんだよな」
 ちゃき、と刀を構える。
 その刀、名を九十九閃という。使い手によっては魔術と剣術の併用で刹那に九十九回もの斬撃を繰り出せるという逸話を持つ刀だ。その逸話、本当かどうかは誰も知らない。
「やってみようじゃねーの」
 装備した機晶石から炎が吹き出し、身体に纏わせる。動き出した唯斗に、ギャラリーが注目し始めた。
「いってみっか」
 新しいスキルの名は『縮界』。発動すれば重力や気温といった、世界そのものからの干渉を限界まで軽減し、身体能力を極限まで強化される。
 スキルが発動。体感速度も超人クラスになり、すべてが遅く見え、言葉も遅く聞こえる。纏う炎のゆらめきが火の粉まではっきりと捉えることができ、言葉は遅すぎてかろうじて意味を聞き取れる。『縮界』の世界はあまりに緩慢で、何もかもが鈍い。
 唯斗はそのまま駆け出し、炎を纏った身体と刀で雪山の周りを切り刻む。
 観客は、瞬きを一回。すると唯斗の姿が忽然と消え、彼の前にそびえていた雪山の周囲の雪が一気に溶けた。
 唯斗は鋭く正確な刀さばきで雪山を彫刻。3メートル前後の高さの雪山を、雪の花に作り変えた。そこで一度、動きを止めた。
 観客はまた瞬きをする。すると、なんと雪山が花の形になっていて、細かい雪の破片がぶわっと舞っていた。
 一瞬の彫刻技に、ギャラリーから感嘆の声と拍手が上がった。
 ――んー、そろそろ動いてもいいかな。拍手してるみたいだし。
 全てが緩やかに動く世界の中で唯斗は考える。そろそろ次のパフォーマンスに移るようだ。
 スキルと装備で、唯斗の今の膂力は片手で雪山を高く高く投げ上げることができるようになっている。今まさに、雪の花が空高く投げ上げられた。
 再び加速。観客の視界から唯斗が再度消えた。すると空を舞う花弁が一枚切り取られ、粉雪の如く散っていく。そして一枚、また一枚と、花弁が粉と消えていく。
 フィニッシュに、縮界の力で唯斗が分身。花弁を失った雪の花を空中で支える。そして融合機晶石で思い切り強化した装備・爆炎掌を起動。空中で劫火が渦巻き、爆ぜた。
 芸術は爆発。それを体現したパフォーマンスに、観客は割れんばかりの拍手を送った。
 『縮界』の超高速の世界から戻った唯斗は、刀を鞘に納め、しかしどこか不満そうな顔をしていた。
 ――しまった、何回斬ったっけ。
 九十九閃の逸話は、再び伝説へと戻ったようだった。

■■■

 次々と高得点を獲得するチームが続出する中、異色のパフォーマーが現れた。
 今までの全チームが様々な連係やスキルを駆使して高火力攻撃を繰り出してきたのに対し、色花の次に登場した彼女ら緋柱 透乃(ひばしら・とうの)のチームは少し違う。
「動かない相手を壊すだけなのももったいないし、これくらいの大きさの敵と戦っている想定で壊そうかしら」
 シャンバラには、目の前の雪山約3メートルの大きさを超える魔物が存在する。強さはまちまちだが、どれだけ強い魔物が現れても、撃破できるだけの力を。今回のイベントは強敵との戦闘を好み、一撃の破壊力を追及する透乃にとって好都合の訓練といえる。
 パートナーたちとは連係の打ち合わせは済ませている。あとは試すのみ。
 透乃と彼女のパートナー、霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)月美 芽美(つきみ・めいみ)の四人は武器を構えると、動き出した。
「皆、散って!」
 初手は透乃のスキル・クライハヴォック。魔物の真正面に来ていると仮定し、獣の咆哮の如き怒号が放たれる。相手が魔物なら、これで少しの間、透乃に注意が向く。
「よし、これで注意が反れた。いくぜ、芽美ちゃん!」
「了解!」
 続いて泰宏のスキル・ライトニングランス。槍に電撃を纏わせて連撃を繰り出すスキルが雪山の一部を抉り取る。攻撃終了後、すぐに後退。敵がこの攻撃に怯まなければ繰り出される反撃を警戒しての行動だ。
 ほぼ同時、透乃の反対側に移動していた芽美がスキル・龍飛翔突を膝蹴りで発動。稲妻をまとった雷の打撃が雪山の一部を粉砕し、電撃が雪の一部を溶かすと、雪山を蹴りつけて敵の攻撃範囲(想定)から離脱した。
 さらに陽子が氷雪系スキル・クライオクラズムを発動。闇色の吹雪が雪山に吹き付け、溶けていた部分も含め、全体が再凍結(敵が氷結の大ダメージを被弾)した。

 観客が、ざわつき始めた。派手は派手なのだが、今までのチームと比べて動きに違和感があることに気付き始めた。

「バンテージ効果は……失敗か。まあいい!」
 連係はまだ終わっていない。泰宏が拳を鳴らして八卦のバンテージのスロット効果を引き出そうとするが、浮かんだ文字が揃わなかった。こればかりは運なので仕方がない。愛用のルーンの槍を雪山の根元(敵の足)めがけて投擲。スロット効果が出ていれば敵はきっと体勢を崩してよろめく。そうでなくとも命中すれば、体勢が崩れなくとも注意が引ける。
 そして命中とほぼ同時、芽美が機晶石の力で身体、主に脚部に雷をまとった。
「連撃、いくよ!」
 物理スキル・七曜拳。機晶石との組み合わせで強化された7連続の蹴りの強打を浴びせた。手数の多さが生み出す破壊が雪山を大きく破壊する。
「出番だ、時雨さん!」「朧さん、お願い!」
 芽美の着地と同時、泰宏と陽子が式神、虚無霊を召喚。
 朧と呼ばれた虚無霊が両腕をハンマーに変え、時雨と呼ばれた黒髪の式神が戦闘補助。朧は攻撃力を上げられ、ハンマーで雪山を連打し始めた。雪山がみるみる削られていく。
 その隙(敵が攻撃されている隙)に、泰宏、陽子、芽美の3人が雪山の左側、右側、後ろ側に立つ。3人同時に氷結系スキル・アルティマトゥーレを発動。破壊され、溶けていた雪山が再度凍結した。ここまでで、雪山は最初の半分ほどまで小さくなったが、融解と凍結を繰り返された雪山の硬度は最初よりも硬くなった。
「決めろ! 透乃ちゃん!」
「当然! この一撃に全身全霊をこめて、いくよ!」
 Catch this! と透乃は叫ぶと、大きく一歩踏み込み、身体を右側に大きくひねる。透乃は左利き。桃色の特殊な闘気をまとっての物理スキル・一刀両断。武器効果、スキル効果を合わせての左の裏拳を打ち込む。当たると同時、より硬質化した雪山とそこから繋がる雪原にヒビが入り、雪山にもヒビが入り、破砕。砕けた雪山の欠片が驚異の速さで彼方へと吹っ飛び、向こうにそびえる別の雪山に命中、破壊した。その一撃で合わせて4本と透乃たちの前方広範囲の雪原が見事に破壊された。

 おおお、とギャラリーが圧巻の打撃にスタンディングオベーション。結果としてもの凄い破壊となった透乃チームも上位に堂々と食い込んだ。