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現れた名も無き旅団

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現れた名も無き旅団

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■調薬探求会に接触


 イルミンスールの街、通り。

 事情を知り協力を決めた御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は情報収集するべく町中を歩いていた。

 そして
「オリヴィエさん!(近い将来、調薬探究会の力を借りる事態がありそうな気がしますから情報収集も兼ねて接触しましょう)」
 面識のある調薬探求会のメンバーを発見し、声をかけた。
「あら、あなたは……お久しぶりねぇ」
 ケーキの材料を抱えたオリヴィエは柔和な笑みで舞花を迎えた。
「お買い物ですか?」
「えぇ、以前教えて貰ったとっておきのケーキを作るための物よ。何かご用かしら?」
 訊ねる舞花にオリヴィエはのんびりと荷物を見せながら言った。実は、穴場のケーキ屋での話し合いの際に参加者から教えて貰ったとっておきのケーキを作るため偶々ここに来ていたのだ。
「はい。実は、記憶素材化レシピや調薬友愛会との関係があれからどうなったのか気に掛かりまして」
 舞花は今回の騒ぎの事は聞き出せなくとももう一つの目的である調薬探求会との面識を深めるは達成するべく話を続けた。
「いいわよ。近くでゆっくりとお話でも……あら、シンリちゃんにクオンちゃん」
 のんびりと話をすべく近くの店を探そうとした際に通りを歩くシンリとクオンを発見し、彼らを呼び止めた。

 すると
「オリヴィエも来ていたんだね」
「どうしたの?」
 シンリとクオンがすぐにやって来た。
「お買い物。でもお話を聞きたいって言われてねぇ」
 オリヴィエが舞花の方に視線を向けながらのんびりと事情を話した。
「皆さんのお話も聞きたいので、よろしかったら……」
 舞花は会談内容を知る二人の話も聞きたく誘ってみるとシンリは舞花に断りを入れてから誰かに電話をし打ち合わせを始めた。
 それが終わってから改めて
「……構わないよ。ただ、約束があるから自分は途中で抜けるけどいいかな?」
 シンリは答えた。
「構いません。お願いします」
 舞花はシンリが途中退席する事に関しては何も言わなかった。都合を割いて自分に付き合って貰う身なので。
 話は喫茶店に入り皆が席に着いてから始められた。

 喫茶店の店内。

「では改めて記憶素材化レシピの成果や友愛会についてお願いします」
 再び舞花は知りたい事を訊ねた。
「ヨシノちゃんとはつかず離れずよねぇ。条約を結んだと言っても馴れ合うつもりはないってシンリちゃんが言うから。黒亜ちゃんの面会も時々だけど行ってるしねぇ」
 オリヴィエが両調薬会について報告。どこか他人事のように聞こえるのは彼女が実験ではなく実験見学を趣味にしているからだろう。
「黒亜さんはどうしてますか?」
 黒亜の狂気を知る舞花は多少の気掛かりを見せた。また何か悪さをするような事はないだろうかと。
「変わらず頭の中で調薬を続けているよ。こちらが話し掛けても調薬に夢中で答えない。放ったら危険だと監視も付いているしね」
 シンリは幾度となく訪ねた更正する兆しのない仲間の事を思い出していた。
「そうですか。緊急時には動ける状態だと考えていいんですよね(確かに妖怪の山での出来事を考えると黒亜さんについては妥当な処置ですね)」
 舞花は黒亜については何とも言えず両調薬会の条約が上手く機能するかどうかを確かめた。
「そうだね。こちらはそのつもりだから向こう次第だけど」
 シンリは肩を竦め、少しからかいを含みながら答えた。ヨシノがいたらさぞ不愉快な顔をしただろう。
「レシピの成果は完璧で前の時に起きた困った要素はほぼ解決したよ」
 シンリは記憶素材化レシピの改良の成果を簡潔に説明した。本当に調薬が好きなのか説明する彼の表情は楽しげであった。
「随分安全な物になりましたね。次に会談内容も教えてくれませんか? タイミングから考えると名も無き旅団に関わる依頼ですよね。名も無き旅団の出自はこの世界らしいですが、平行世界絡みの存在なので世界融合を招く危険性があって、何らかの解決策としての、名も無き旅団の『記憶』を抽出し固定する魔法薬、記憶素材化レシピの製作依頼だと考えますが」
 『エセンシャルリーディング』を有する舞花はこれまでの情報をまとめた末に出て来た疑問を問いただした。
「その通り、記憶素材化レシピの作成依頼だよ。ただ、対象は名も無き旅団ではないけど。彼らは知的生命体の助力があるから必要無い。レシピは彼らの力だけでは足りない際に必要だと言われたよ……平行世界に絡んでるし特殊な平行世界の性質から君の言葉は悪くないよ。記憶素材化レシピは記憶を抽出して素材の形にする物だしね……会談の他の内容については……クオンから聞いてくれ。もうそろそろ約束の時間だから行かないと」
 シンリは質問に答えつつも時間が迫ってしまい、話を途中でやめた。
「はい。付き合って頂きありがとうございました。必要なら合法な素材収集には協力出来ますので何かありましたらお知らせ下さい(万が一の時に必要とは念入りに準備するほどこの先に大変な事が起きるという事でしょうか)」
 舞花はシンリに礼を言いつつ万が一という言葉に引っかかっていた。用意はして足りぬという事は無いが、舞花には重く感じられた。
「ありがとう。それじゃ、クオン後の事は頼むよ」
 シンリは席を抜け、
「任せて」
 後の話はクオンが中心となった。
「えと、話し合いの内容は記憶素材化レシピの薬の形を特殊な平行世界用にして欲しいというリクエストだよ。たくさんの人がすぐに使用出来て回収した素材が目的の場所へ自動的に行くようにして欲しいって。教えて貰ってないけど会長はもう考えてたよ。もちろん僕もお手伝いするよ」
 クオンは記憶素材化レシピのさらなる改良参加に胸躍らせているためか説明する声は大変弾んでいた。
「そうですか。では、レシピを使うのは……もしかして」
 『記憶術』を有する舞花はシンリがレシピ使用対象について明白ではないが暗に誰かを示している事に気付いた。つまり名も無き旅団ではないが彼らに関わる者達が使用するのだと。
「そうだよ。旅団以外かもしれないって事」
 クオンはにこにこと楽しそうに舞花の推測に花丸をあげた。
 そんな二人の横では
「シンリちゃん達にとってはやりがいがありそうなお仕事ねぇ。私も見るのが楽しみだわぁ」
 見学や素材収集しかしないオリヴィエが呑気にしていた。
 この後、舞花に素材収集の協力が入り、ほんの少しお手伝いをしたという。