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リアクション
イルミンスールの街、通り。
「まさか名も無き旅団が今なお現存してるとはな。何処まで知っているか聞いておきたい所だぜ」
ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はようやくのご対面に気を引き締めていた。
「はい、是非、おたずねしたいですね。今の旅団稼業の皆様方は一体如何なる旅を経験なさってきたのか、私、大変興味があります」
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)はこれまで名前と本のみの登場であった名の無き旅団がこの街にいるかもという状況に大層好奇心を掻き立てられワクワクしていた。
「……フレイ」
ベルクは情報収集の緊張感の欠けられも見られないフレンディスの様子に溜息を吐いていた。
鈍感故にそんなベルクの胸中に気付かぬフレンディスは
「それに致しましても双子さん達は凄いのですね。魔法使いさんにロズさん、そして旅団さんまでお作りになるとは……偉人さんみたいです」
双子に対しては相変わらずズレた認識しながらも尊敬対象になりつつあるのかキラキラと目を輝かせるフレンディス。
「フレイ、それ絶対にあいつらの前で言うなよ」
ベルクはまだ開始して間も無いというのにすでに疲れ顔をして無駄だと思いながらもフレンディスにツッコミを入れた。
「はい。褒められると照れて困ってしまいますよね」
フレンディスは分かったとばかり力強く頷くが、天然故にどこかずれていた。
「……いや、そうだな(旅団まで双子が関わってるとはな、いずれにしても会う価値はあるだろ)」
もう疲れたベルクは言い直さずにそのままうなずくのだった。
そんな二人のやり取りの隣では
「今、街にいるさ。これから名も無き旅団を捜して情報収集するさね」
マリナレーゼ・ライト(まりなれーぜ・らいと)が本日不在である情報担当の忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)と通信機器でやり取りをしていた。
『そうですか。僕は行けない代わりに一連のデータをマリナさんに送っておくのです。もし何かありましたら連絡を下さい』
ポチの助は今回もツァンダから通信機器開放状態で協力である。
「助かるさね」
マリナレーゼはシャンバラ電機のノートパソコンに送られたポチ蓄積情報を確認しながら礼を言ってやり取りを終えた。
その様子を見ていたフレンディスが
「……マリナさん、やっぱり」
恐る恐るマリナレーゼに訊ねた。
「そうさね。今回もポチちゃんは来れないけど情報やりとりは平気のようさ」
マリナレーゼは電話の内容を皆に簡単に伝えた。
「……そうですか(……これだけ凄い事が沢山ですのでポチにも来て欲しかったですが、修行中ならば仕方ありませぬ)」
フレンディスは少しだけがっかり。現在ポチの助は機晶技師への勉強が多忙で中々行けない家出犬中。ちなみに伝言とはいえ帰らない理由と意志はもう伝えられフレンディスも知っている。
「さてと、始めるか」
ベルクの言葉を合図に名も無き旅団捜しが始まった。
名も無き旅団捜索中。
「……(あまり考えたくねぇが、廃棄者不明のゼリー状の失敗した知的生命体っつーのは……まさかその廃棄者はシンリ達じゃ……まさか、いや、確か記憶素材化薬を改良するだとか言ってた気がするな。もしかしたらそれに関わって出た廃棄物か……期間を限定しなければ黒亜の可能性も……)」
ベルクは注意深く捜しながらも考えるのは旅団ではなく廃棄者不明の廃棄物の主を考えていた。候補としては調薬探求会の者を挙げていた。
そのため
「あたしはシンちゃん達が記憶素材化レシピの改良内容が気になるさねよ。確か、グラちゃん達が行ってるようだし連絡してみるさー」
調薬に興味があるマリナレーゼが籠手型HC弐式・Nで探求会と接触するグラキエスと連絡を取ろうとしているのを見て
「マリナ姉、ついでに廃棄者不明の廃棄物についてもシンリに心当たりが無いか問いただすように言っといてくれ。あいつらなら上手く聞き出せるだろうから」
ベルクがマリナレーゼにグラキエスへの頼みを託した。事前に互いがどちらと関わるかは連絡済みである。
「了解したさね」
マリナレーゼはそう言うなりグラキエスに連絡を入れ、ベルクの伝言を伝えたが、シンリが用事で少し遅れるという連絡を受けた後であった。
「お会いしたら色々お聞きしたいですね」
フレンディスは脳天気に旅団と会った時の事を想像し、ウキウキが止まらない。
「そうだな(元が一つの生命体が五分裂したのが連中の正体なら手記にあった一人欠けたら早く後任見つけねぇと全員消滅しちまうっつーのも納得出来る訳だが……ま、その辺りは実際に名も無き旅団の連中と接触して確認してみるか)」
ベルクは頷きながらも頭の中では今度は旅団の事を考えていた。
そんな時、
「マスター!」
『捜索』を有するフレンディスは前方に青年と少年を発見。何より彼らの手にある本に注目。
「あぁ、あの本見覚えがあるな。間違い無く名も無き旅団だ、声を掛けに行くか」
示された先にいる二人組を確認した後ベルクは皆を促し声を掛けに行った。
二人組に接近するなり
「そこにおられる名も無き旅団の赤い本さん、白い本さん、是非、お話をお聞かせ下さい!」
フレンディスが好奇心一杯に元気に声を掛けた。
「……赤い本ってラールの事?」
「みたいだな。何者だ?」
ラールとムヒカは足を止め、やって来た三人組を訝しげな顔で迎えた。
「申し遅れました。私は……」
フレンディスは慌てて名乗り
「俺達は名も無き旅団、特殊な平行世界とやらに用のある者だ」
「今、魔法薬を作製したり調査をしたりと事態が動いているさね」
続いてベルクとマリナレーゼも一言言った後に名乗った。
「ラールだよ。お話してあげるよ。ね、ムヒカお兄ちゃん」
「ちっこい副団長さんが言うなら。俺はムヒカだ」
ラールが人懐こく答えるとつられるようにムヒカも名乗った。
そして、近くの店にてゆっくりと話をする事となった。
店に入る前、
「ポチちゃん、頼むさね」
仕事に入るという事でマリナレーゼは気が引き締まった口調でポチの助に声を掛けた。
『任せるのですよ』
電話向こうのポチの助はやる気に満ちたしっかりとした口調であった。
店内。
「どんな所に行った事があるのですか?」
「あのね〜」
フレンディスはラールから旅話を聞いていた。
「……すっかり土産話を聞いている形だな」
平和な様子を呈している恋人の姿にベルクは苦笑するばかり。
「あぁ。だが、ラールの相手をしてくれてありがたい。それでどうして俺達が名も無き旅団の者と分かった。あちこちに転がる手記でも拾ったか?」
ムヒカは感謝を述べた後、自身の正体を知った切っ掛けを訊ねた。
「その通りだ。それに……」
ベルクはここに至る一連の出来事を洩らさず全て伝えムヒカを納得させた。
それから
「良ければ二人の手記を見せて欲しいさね。データにも蓄積させて欲しいさ」
「私も是非!」
マリナレーゼが情報収集でフレンディスが好奇心で現在の手記開示を求めた。
「別に良いぞ」
「いいよ〜、はい、お姉ちゃん」
隠す必要が無いためムヒカもラールもあっさりと快諾し、まだ途中の手記が三人の手元に。
そして、
「この時は道に迷って大変だったんですね」
「うん。ガスタフ爺ちゃんがお話をしてくれて怖くなかったしムヒカお兄ちゃんが魔物を格好良く倒してたよ」
フレンディスはラールの拙い手記の中身を解説付きで楽しみ
「ポチちゃん、一番新しい手記さね。確認して他の手記との差違を抜粋して送るからよろしくさね」
『了解したのですよ』
マリナレーゼはポチの助に連絡し、情報蓄積を任せるのだった。
全ての用事を終えた後忘れずに持ち主に返却された。
改めて
「名も無き旅団結成の真相は知っているさね?」
マリナレーゼが真相認知の有無を問いただすと
「いいや知らない。知っているのは俺達に取り憑いている奴が知能を付けて得た話だけ」
ムヒカは頭を左右に振り意を示した。
「そうか(別の魔法薬同士が混ざって生まれたという事だから一番最初を知らなくてもおかしくはないか)」
ベルクは知らない理由に思い当たりながら双子が関わった事実を明らかにし、ムヒカを納得させた。
そんな真剣な話をしている横では
「それでどうしたのですか?」
「それでね、お姉ちゃん、ラールね……」
フレンディスがラールの旅話に耳を傾けていた。
「真相を知った所で旅は続けるのさね?」
マリナレーゼの問い掛けに
「あぁ、続けないといけねぇんだよ。俺達の命は取り憑いている奴に握られているからな。奴の目的を果たすまで。俺達はただ奴を引き継ぐ者に過ぎない。だからといって嫌々している訳じゃないねぇよ。中にはそんな奴もいたけど、俺はなるようにしかならないって思ってる」
ムヒカは肩をすくめ、おどけたように割と危険な名も無き旅団の内情をあっさりと明かした。
続いて
「そうか。お前達が一員に選ばれた経緯や目的は何なんだ?」
ベルクの問い掛けに
「入団時期はみんなバラバラだが、入れ替えはここ数年の事だな。俺は魔物に襲われている前任者を助けて一員になった。助けた時にはすでに瀕死でな。それで旅は嫌いじゃないし戦えるからとなった。ラールは家族を亡くして独りぼっちだった所に寿命だった前任者が可哀想だからと引き継ぎ最後の一員だった。だからラールはずっと旅が続けばいいと思っている。一番に入れ替わったのは語り部の爺さんで団員を失い往生している所に遭遇した時だ。二番目は俺で三番目が団長で旅行中に旅を抜けたがる前任者に遭遇して四番目は調薬師で世話をしてた奴が前任者で病で死んだ」
ムヒカは長々と答えた。本当に彼の言うように事情はバラバラであった。
「事情は人それぞれか(命を握られているから強制的に一員になっているなら何とか解放の模索が必要と思ったが、それなりに理解して自らの意志もあるなら大丈夫か)」
「大変さね」
ベルクとマリナレーゼはそれぞれ感想を言った。
『……入団理由と順番は同時ではないという事なのですね』
通信機器開放状態のため『コンピューター』を有するポチの助は耳を傾けつつ素速く情報蓄積作業をしていた。
一方。
「赤い本さん、大変だったんですね。大丈夫ですか?」
ムヒカの話も洩らさず聞いていたフレンディスは幼いラールの身の上を気遣い優しい笑みを向けた。
「ありがとう、お姉ちゃん。大丈夫だよ。みんな優しくていい人だから。仲間がいて幸せなんだ」
ラールはにこにこしながら言うなり大切な仲間のムヒカを見ていた。
「はい。その気持ち私も分かります」
同じく大切な仲間を持つフレンディスも恋人のベルクとマリナレーゼに視線を巡らせると共に離れてはいるが、心はいつも一緒のポチの助の事も思っていた。
「それで一つの生命体が五つに分かれているせいで一人でも欠けたら命を落とすという事か?」
ベルクは自分なりに推測し納得していた事柄について訊ねた。推測を確定にするために。
「その通りさ。五つに分かれているのは、大量の記憶を効率的に手に入れるためと一番始めの奴が五人組の観光客の団体だったんだ。ま、俺はそれに対してどうこうは思っていないけど」
ムヒカは知的生命体に聞いた話と引き継いだ記憶で一番古い物を併せて緊張感無く伝えた。
「思惑と偶然が重なって今の状態になったという事か」
ベルクは感想を洩らした。
この後、しばらくラール達と交流した後、別れてラール達はイルミンスール魔法学校の方へ向かった。
ラール達と別れ、グラキエス達から連絡を受け記憶素材化の改良レシピを聞いた後。
「シンちゃん、素材はともかく効率的で安全な形に改良したみたいさね。特殊な平行世界に関わるリクエストを受けたとなるとシンちゃん達が関わるのは確実さね。となれば、条約を結んでいる友愛会のヨシノちゃんも出て来るかも。そうなれば……協力をしない訳にはいかないさね。必要ならば探求会の方も惜しまず協力も」
『薬学』を有するマリナレーゼはレシピを聞き、レシピに調薬友愛会が入手するには困難な物がある事を見抜くと共に調薬友愛会の相談役として両調薬会が関わる事になるであろう事も推測していた。
「……廃棄者不明の廃棄物にシンリが関わっている可能性有りか。当たっても嬉しくない予想だな」
ベルクは廃棄不明の廃棄物にシンリが心当たりがある事に対し溜息を吐いていた。
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